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       第304回 公演の記録           吉村 高也
       公演日時: 平成15年 12月10日(水) 午後6時30分開演  観客:275人(立見・大入満員)

             出演者             演目

           笑福亭 右  喬   「米揚げ笊」
           桂     福  車   「胴取り」
           桂     文  也   「京の茶漬」
           桂     小米朝   「蔵丁稚」
              中入
           あねさまキングス「音曲漫才」
             あやめ&染雀
           笑福亭 松 喬   「はてなの茶碗」
(主任)

             打出し 21時05分

             お囃子
  林家和女、草尾正子
                手伝い  笑福亭喬楽、達瓶、風喬、呂竹、桂雀太

 師走の慌ただしさと一段と寒さも厳しくなってきた12月10日、第304回「もとまち寄席・恋雅亭」が開催されました。
12月に入ってから前売券も問い合わせもうなぎ登りで前評判も上々。当日は寒さも厳しい中、多くのお客様が階段に列を作られ、1階の売り場にまで溢れる。列を最前列から一歩ずつ寄ってもらうが、お客様のご来場は続き定刻の5時半を3分前倒しての開場となる。
開場後もお客様の勢いは衰えず、急遽、パイプ椅子、長椅子を最後列に並べるが遂に間に合わず、立ち見発生となる(最終的には275名のお客様と会員様も過去最高となる82名様のご来場。ご迷惑をおかけ致しました)。
二番太鼓(着到)から、「チョンチョン」の祈と共に定刻の6時半、『石段』の出囃子で開演となる。
お囃子は、三味線二挺、林家和女、草尾正子嬢。太鼓を笑福亭喬楽、風喬、達瓶呂竹、桂雀太師がそれぞれ交互に担当。

 トップバッターはトリの松喬一門から笑福亭右喬師が当席初出演で元気一杯登場。「えー、沢山のご来場でまことにありがとうございます。只今より開演でございまして・・・・」と、あいさつ。ここで、ハプニング発生。
『石段』の出囃子と共に明るくなる場内が明るくならないのである。これを逆手にとって笑いに変える右喬師。後の文也師がマクラで紹介しておられたが、ドッカンと受ける。そして、始まった演題は『米揚げ笊(いかき)』。

 東京でザルのことを大阪ではイカキ、天秤棒のことをオウコと説明しなければ判らなくなった呼び名。それと共に珍しくなった噺なのか、6年ぶり7回目の口演となる。
 この噺を、師匠直伝を思わせるところを随所に感じさせながらキッチリと演じる。
師匠に「ここでは、受けるからといって前座は15分以上するな」との教えをキッチリ守っての15分の高座であった。

 二つ目は福團治一門から桂福車師。楽屋入りするなり、「ここは、真剣勝負やからやりがいあるなぁ」と語りながら、過去の演題をチェック。そして、なにやら納得の笑み、演題が決まった様子。
『草競馬』の出囃子で登場し、マクラで笑いを誘った後、始まった演題は、師、自らが「珍しい噺、東京の首提灯みたいな」と、紹介された『胴取り』

 珍しい噺で当席でも初めて演じられる。一言で説明すると、東京の『首提灯』と上方の『胴斬り』を足したような噺である。

 小生も、桂文紅師匠と笑福亭松喬師匠でしか聴いたことがない。

 楽屋での松喬師匠も「へー、珍しいなぁ。けどこんな軽い噺もええで、けど難しい噺や」との感想。

 筋自体は奇抜であるが短編でもあり力のいる噺。随所に師自らの工夫が入った秀作であった。

 三つ目は文枝一門から桂文也師。文枝一門の名プロデューサーの肩書きの師匠、満員の客席に笑顔で答える様に笑顔で登場し「えー、一杯のお客様で、しかし、ようけ入ってますなぁ。神戸のお客様はサッカー嫌いなんかなぁ。私やったら、『日韓戦』見まっせ。後ろに立ち見まで出て、すんまへん、立ってもろて、遅来たバツや(大爆笑)」と、ツカミもバッチリ。
 さらに、「今回で304回目だそうで、毎月10日、お客様も忘れんと来はりますなぁ。
借金取りでも忘れまっせ。けど、出演者が毎回6人としても、約2000人。上方落語界に200人の噺家がいるとしたら、平均10回出てることになるんですけど、私、3回しか出でまへん。」
 そして、「大阪の人は神戸嫌いでっせ。『神戸の奴はたこ焼きに汁付けて喰いよるし、焼きそばとご飯混ぜて喰いよる』。これ、私が言うてんのとちゃいまっせ。私、京男です。京都も嫌われてます。どうも、琵琶湖の水を一旦、京都の人の体を通して出てきたものを淀川に流れてきてそれを飲むのが許せんらしいねぇ」さらに、「大阪人は、京都を悪く言った落語、たとえば『京の茶漬』ねぇ、あれ、『この落語は京都の人間を馬鹿にしていません』と、断ってますけど、完全に馬鹿にしてます。そこで、本年は人権年、今月は人権月間、そして、今週は、人権回復ウイーク。そこで、『京の茶漬け』に登場する女将さんの『心の叫び』を紹介しながら、この噺を演(や)ります」と『京の茶漬け(女将さんの心の叫び付き)』始まった。

 これが、実に面白い。この噺、師匠である文枝師匠が8月の『300回記念公演』でも演じて頂くほどの十八番で、上方では演じ手の多いポピュラーな噺である。
 しかし、その全ての演出では、京都の女将さんの『心の叫び』は出てこない。
 公約通り、随所に『心の叫び』が出てくる。これが実にタイムリーで的を射ている。お客様も納得のコメントとあって、全てが大当たりで満員の客席からドッカン、ドッカンと爆笑が起こる。
  納得の18分の高座であった。

下りてこられた文也師匠「いや、感度よろしいなぁ。ええ、お客様ですわ、また頼みます」とのコメントであった。

 中トリは、桂小米朝師匠。噺家生活25年を契機に色々なことに挑戦中の師匠である。
『元禄花見踊り』で登場すると「えー続きまして、桂七光(ななひかり)のほうでおつき合い願っておきます。」とツカミ。続いて、NHK朝のTVドラマの裏話と、前座の頃に初出演した『細雪』の撮影秘話。
「実は、初めて台本もらってきたら師匠(米朝)が、セリフを付けてくれましてん。その通りやったら、市川昆監督が『君ね、なんで、そんな臭いねん』と言われましてん。まさか、親父に付けてもろたとは言えませんしねぇ。それと、女優さんを見つめられませんねん。ええかげんな目線やったら、得意ですけど、目を見て喋らんと感情移入が出来んそうですけど、難しいでっせ」と、マクラを続け、「昔はお芝居が楽しみで・・・・」と本題の『蔵丁稚』が始まる。

 忠臣蔵の四段目を演じてみせる『芝居噺』の大物である。その噺を持って生まれた口跡と顔立ちの良さをベースに、師匠からの厳しい稽古によって勝ち取った、目線、口調、仕草と、全ての面で特急品。
  発端から、嘘がバレ、三番蔵に閉じこめられて、芝居が始まる。切腹の芝居を本当に腹を切っていると勘違いして、あわてて旦那が蔵へ御膳を運ぶ。
  そして、サゲとなる。結構な25分の口演であった。

 中入りの間に『新春初席』の前売券の販売が始ったが、松喬師匠曰く「今の旬の噺家は文珍やで、今度はわしと顔付け、しいな」と言わせる文珍師匠がトリで登場とあって絶好調。早くも大入り満席を予感させる前景気の前売券の販売状況であった。

 一息つかれたお客様を迎え入れる様にシャギリが鳴る。吸い込まれるように席に着かれたお客様。祈が入って、お目当ての『姉様キングス』の登場となる。

 登場前に楽屋は大騒ぎで、記念撮影会が始まる。

『とんこ節』で、高座へ登場した姉様キングスに会場は一瞬「んー」といった感触。そしてすぐ理解されたのか、ドッカンと笑いが起こる。

「どーも、島田かぶって白粉はけば、違う私とこんにちわ。顔も白いし面白い、ねえ、姉キン、姉キン」とテーマソングから絶好調。これが紙面では紹介出来ない程の面白さ。

NHKに出演した話題から「都々逸」。松竹梅では「えー、芸は梅(うま)いーし、ギャラは竹(たか)い、後はお迎え松(まつ)ばかり」と大いに怖いネタ。「猫じゃ猫じゃ」ではダイエー優勝を取り上げてと音曲が続き、「あほだら経」まで飛び出しての16分の高座であった。

  そして、師走公演のトリ、本年恋雅亭の大トリは笑福亭松喬師匠。

いつものように早くからの楽屋入り。そして、小生といつものような会話。高座でも師匠が紹介しておられたので、当日の会員様はご存じであろう。

「師匠、今日は何を?」

「季節的に『尻餅』か『掛取り』でも」

「両方、出てまっせ。『尻餅』は一昨年に師匠が、『掛取り』は去年、小米師匠が」

「難しいこと言うなぁ(目は笑っている)」

「『市助酒』演(や)って」

「市助は最近やってないし、冬の噺でピッタリやけど。よっしゃ、珍しいのん演(や)るわ」。こんなことは米朝師匠には言えないが松喬師匠には言える。これも師匠が高座で紹介されていたが。それで、今回は10年ぶりに上方落語の大物『はてなの茶碗』が決まった。

  『高砂丹前』の出囃子で登場した師匠「えー、私、もう一席でお開きでございまして・・・・」とあいさつし、姉様キングスの話題から前出のネタの話題、懐中時計の話題から本題が始まる。打ち上げで師匠は「導入部は、あまり関連のマクラ(骨董品の価格違い)は振らず、ズバッと入った。この噺は笑わそうと意識せんと語り込むようにした方が噺の重みが増すしなぁ。けど、町人からお天子様まで登場する幅広い噺やから難しいで好きな噺や」と、

芸談を聞かせていただいた通りの名演で本年の大トリを締めくくって頂いた平成15年も無事打ち上げ。新たな気持ちで新しい年を!