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       第302回 公演の記録           吉村 高也
       公演日時: 平成15年 10月10日(金) 午後6時30分開演  観客:170人

             出演者             演目

          桂    しん吉  「三人旅」
          月亭  八  天  「天災」
          林家  染  二  「質屋芝居」
          笑福亭 小  松  「馬の田楽」(マクラ 18分)

              中入
          桂    文  福  「紀州」
       主任 桂    雀三郎  「親子酒」

            お囃子   草尾正子
            お手伝(順不動)
                    笑福亭 瓶成、智之介、呂竹、桂 雀太、まめだ

            打出し  21:10

 一年で一番過ごしやすい10月10日(体育の日ではない)、第302回「もとまち寄席・恋雅亭」が開催されました。
「300回記念公演」の余韻も残る中で、お客様の入りを気にしての開催。ありがたいことに、5時半の開場時間にはいつもの通り、階段に列が出来き、5時半定刻の開場となる(最終的には、170名超のご来場)。
二番太鼓(着到)から、「チョンチョン」の祈と共に定刻の6時半、『石段』の出囃子で開演となる。お囃子は、三味線を、草尾正子嬢、太鼓を林家染二、笑福亭智之介、笛を月亭八天師がそれぞれ担当。

 トップバッターは吉朝一門から桂しん吉師。「えー、沢山のご来場でまことにありがとうございます。只今より開演でございまして、まずは、桂しん吉のほうからよろしくお願いいたしておきます。こちらへは出していただくの、初めてでございましててねぇ。ずっと夢でございまして・・・」とあいさつして始まった

演題は『三人旅』。師匠の吉朝師匠と聞き間違うような、そっくりの口跡で、テレビでは出来ません。放送禁止用語だらけの噺と断って始まる。           
 そういえば、この噺、「おし」、「つんぼ」、「びっこ」、「馬方」など、差別用語のオンパレード。もっとも、最近では「百姓」もダメらしいが。      
その噺を持ち前の口跡の良さと師匠仕込みの達者な口調でトントンと運ぶ。会場の大受け、17分のあっという間の高座であった。

 二つ目は月亭八方一門の『古典の雄』、月亭八天師。各地(地元神戸では柳原で個人の会)での地道な活躍や、当席での名高座は皆様よくご存知の処。当席へは久々の出演となり本人も大いに力が入っての高座となることでしょう。と、先月の会報でご紹介しました。
会場の拍手で迎えられ、『おかめ』高座へ、「替わり合いまして、私の処もよろしくおつき合いを願っておきます。月亭八天と申しまして・・・」と自己紹介し、師匠である八方師匠のエエ加減さを紹介。
続いて、車の乗り方を例に仁鶴師匠(意外なスピード狂)、文珍師匠(真っ黒なポルシェで法定速度を守って運転)の性格を紹介し笑いをとって、落語の本題のマクラとして本題へつなげる。

 このあたりの噺の展開は見事。スムーズに『天災』が始まる。発端からトントンと見事な口調で、噺が進む。この噺、上方では、桂ざこば、吉朝師匠が十八番にされている。八天師匠の噺を聞いていると、ご自身のHPでも、吉朝師匠よりの口伝となっている。骨格を吉朝師匠、随所に自身の工夫が入っている口演は悪かろうはずがなく、やんちゃな主人公を中心に展開される噺は24分。大いに結構であった。

ちなみに、同HPによると吉朝師匠からは、『千早振る』『猫の忠信』も口伝されておられる。

 三つ目は『上方落語界の中村橋之助』ご存知、林家染二師。一門伝統のコテコテな演出にプラス自身の工夫溢れる高座は、一門の中にあっても、特に個性豊かで、勉強熱心で多くの古典落語に挑戦されている。
今回も来席されるとすぐ、お囃子のキッカケの打ち合わせを開始。演題は芝居噺の大物『質屋芝居』。

 先代(現四代目林家染丸)譲りの『藤娘』の出囃子に乗って、鮮やかな黄色の紋付袴姿登場した染二師。「えー皆様こんばんわ、林家染二でございます。どうぞ、よろしくお願いいたします」とあいさつして、歌舞伎の話題からマクラが始まる。
これが面白い。屋号の掛け声、実際に歌舞伎を教えて貰った時の話題、と爆笑が続き、本題の『質屋芝居』が始まる。
  三味線を草尾正子嬢、太鼓を笑福亭智之介、笛を月亭八天、ツケを桂しん吉師が担当し、最後尾で桂雀三郎師匠が後見(桂文福、笑福亭小松師匠は感心して見学)。

  芝居好きな質屋さんの蔵で演じられる芝居は忠臣蔵の「喧嘩場」「塀外」三段目。
 芝居好き、踊りの素養のある師匠だけに随所に「さすが」と思わせる場面がある。
 特に「やあや、勘平・・・」で始まる早野勘平と鷺坂伴内の掛け合いのクダリは「菜づくし」は師匠自身の工夫であろう。

「嫁なに生姜(しょうが)【しよう】と思えども、うぬがおっては山の芋【邪魔のいも】」。

「嫌じゃ茄子(なす)のと【なんのと】・・・」。「干瓢(かんぴょう)【勘平】返答は、冬瓜(とうがん)、冬瓜【なんとなんと】」と、工夫も見事に決まる。

 そして、会場も充分盛り上げって、23分の高座はサゲとなった。  

 高座を汗ブルブルで下りてきた師匠は、「いやぁ。まだまだですわ。私の芸も、お囃子さんとの息も。また、がんばりまっせ」と、いたって謙虚であった。

  ちなみに、『小倉船』での偽浦島と河豚腸(ふぐわた)長安の掛け合いは、

浦島「ものども、参れ、参れ〜〜、やぁ、やぁ、偽、浦島ぁ〜〜っ・・・、うぬが所持な

す珊瑚ぉ樹、ごちゃごちゃ無しに渡さばよし、嫌じゃ何ぞとぬかすが最期、からめ

とろぉや、返答は? あ、さぁ、さぁ、さささささ、さぁ、浦島、返事は何と、な

ぁ〜〜んとぉ〜〜」

河豚腸「あ、よいところへ河豚腸長安。おのれ一匹食い足らねど、この浦島が腕の補そめ

るか、料理あんばいやってみよぇー」となる。

 中入トリは『笑福亭の異端児』『癌克服噺家』の笑福亭小松師匠。キャリア、口跡、上手さ、と三拍子揃った『小松っちゃん』。
秋の出囃子は『しょじょ寺の狸囃子』。春は『春の小川』、夏と冬の出囃子があり、計四つ。

開口一番「えー、こっから芸風が替わります(場内大爆笑)、かなんわ、袴付けて、私らいつまでたっても前座の芸でっせ。けど、文福さんとは芸風が付きますけど、着物も今日はちょっと地味ですけど、オレンジの紋付きなんかで色が付きますねん、かなんわ。・・・」と、始まった「小松ワールド」

 3分程、経過した時、突然、文福師匠が高座の袖から「早よ、落語 せいよ」とハンジョウを入れる(会場大爆笑)。しかし、小松師匠は少しも慌てず、さらりとネタに加えて、再スタート。自身の本の紹介や師匠の想い出噺など爆笑の連続となる。                                  

 そして、始まった演題は、小松十八番の『馬の田楽』。
  楽屋入りするなり、狙っていたネタであったらしく、トップのしん吉師が『三人旅』で馬の登場する噺をしたので、小生が「『馬の田楽』やったら噺が付きまっせ」「ええねん、ちゃう、ちゃう」と、お構いなし。

  その自信満々の噺に登場する人物は、全て生き生きと、実に結構。少し、辛口であるが、マクラ19分、本題11分はいかがなものか?

 まあ、面白いし、この笑顔、小松ちゃんならええか、の30分であった。

   ・・・・・・・過去 当席での小松師匠・・・・・・        

 第 67回 馬の田楽        第 99回 へっつい盗人  

 第101回 色事根問        第108回 相撲場風景    

 第146回 アイラブ松鶴      第242回 列島縦断の旅  

 第273回 泣き笑い癌日記     第284回 うどん屋      

   * 全回共、マクラは『アイラブ松鶴』付きであるはずである。  

 中入、カブリは、この師匠も当席常連、『和歌山のおいやん』こと、桂文福師匠。
人間味溢れる高座で人気がある師匠、『毬と殿様』の出囃子で登場し、一礼後「ばあっ」といつもの愛嬌タップリの出だし。

「えー、ありがとうございます。本日も大入り満員でございまして、私、芸名桂文福、本名を松島菜々子と申します(やや、すべる)」。

  そして、いつもの通り「ほのぼのはなし」が、場内を爆笑の渦に巻き込んで続く。   
「小咄」「なぞかけ」。会場の多くのお客様が、次に何を言うか判っているのであるが、それでもおかしいのは、この師匠の持っている暖かい人間性であろう。

  そして、本題は、出番前「よっしゃ、今日は『紀州』」と言い切って登場した通り『紀州』が始まる。
元来、東京で多く語られているこの噺、円生、金馬、馬生、文治らの故人となられた師匠連や、小朝、円楽師匠ら、また、自在に長くも短くも出来る為寄席では多く演じられている。
 文福師匠の地元の和歌山(紀州)の噺だけに愛着もひとしおであろう。実に楽しそうに、やや、漫画チックに噺が進む。会場全体をほんわかムードに包み込んだ22分の高座であった。                

 そして、今回のトリは、『ヨーデル食べ放題』の大ヒットで歌謡界に旋風を巻き起こした桂雀三郎師匠。
もちろん、当席では、上方落語で勝負。「頭は師匠に追いついたが芸はまだまだ」と謙虚な師匠だが、古典良し、創作良し、と大いに楽しみにしたい師匠です。
 早くから楽屋入りした雀三郎師匠、ネタ帳を見ながら、「1回飛んでるねぇ。長いこと出てないように感じるわ」と、感想を述べられ、「さて」と一言い残して、一旦、楽屋を後にし、ネタの検討。

  『じんじろ』の出囃子に乗って登場した師匠、「えー、私、もう一席でございまして、今まで笑ってないお客様は、最後のチャンスです」と笑いをとって、酒のマクラから十八番の『親子酒』が始まる。師匠譲りの演出と、口跡の良さが相まって場内は、爆笑の連続。

大いに盛り上がった高座でお開きとなった。

   ・・・・・・・雀三郎師匠と恋雅亭・・・・・・・・

 師匠が初めてトリをとられた203回以降のご出演と演題は、

・203回『ワイの悲劇』         ・216回『帰り車』 (13回)

・223回『哀愁列車』( 7回) ・235回『らくだ』 (12回)

・242回『G&G』 ( 7回)  ・252回『親子酒』  (10回)

・262回『帰り車』 (10回)  ・272回『貧乏花見』 (10回)

・285回『崇徳院』 (13回)  ・302回『親子酒』   (17回)

                      ※ (  )内は、出演間隔。

  師匠の指摘通り、今回の出演は、過去の間隔に比べ、1回分長いことが判る。