第297回 公演の記録 吉村 高也 |
公演日時: 平成15年 5月10日(土) 午後6時30分開演 観客:230人(満席) 出演者 演目 桂 あさ吉 「おごろもち盗人」 桂 文 華 「みかん屋」 笑福亭 岐代松 「手水廻し」 桂 吉 朝 「胴斬り」 ここまで六代目松鶴師匠の特集と断って 中入 桂 枝三郎 「一文笛」 主任 笑福亭 呂 鶴 「向う付け」 お囃子 林家和女 草尾正子 お手伝 桂 吉坊、笑福亭 鉄瓶、笑福亭 呂竹 打出し 20:50 |
ゴールデンウイークで行楽客で人出も多かった元町本通りであったが、前売りの状況はやや、盛り上がりにかける。その状況が一編したのがGW明けから。日増しに、前売り、メール予約、そして、当日券の有無の問い合わせの電話が多くなる。 大入りの会場に6時25分過ぎ、着到(ちゃくとう)の二番太鼓がなる。担当は太鼓を、吉朝門下の吉坊師(女流噺家)と鶴瓶門下の鉄瓶師が、笛をあさ吉師、祈を文華師がそれぞれ担当し、定刻の6時半に『もとまち寄席 恋雅亭 第297回公演』の幕が開く。 石段の出囃子に乗って、トップバッターの吉朝門下の筆頭弟子の桂あさ吉師が登場。「えー、只今より開演でございまして、まず前座は私、そこに名前も書いていただいておりますが、吉朝の弟子のあさ吉と申します。今日は、落語六席でございますので私の方は短めに、皆様方が思っておられる以上に短いですが・・・・」と、マクラもそこそこに師匠直伝の『おごろもち盗人』が始まる。 高座を下りたあさ吉師を、さっそく吉朝師匠が、楽屋の袖で身振り手振りで注意を与える。何を言っているかは聞こえなかったが、盗人の腕と目線の関係を注意されているようであった。 二つ目は文枝門下から、桂文華師が『千金丹』の出囃子で高座へ登場。 しばらく、間を置いて「暇ですわ、何か仕事おまへんか?。今日も土曜日、ここだけですわ。日曜日も休みやし、これやったら、平日は勤められますわ」と、本気とも冗談ともつかない会話で笑いをとる。そして、始まった演題は『みかん屋』。東京の『かぼちゃ屋』は、この噺を原形に洗練された笑いの多い噺に仕上がっているが、上方の原形は、長屋のせんち場も登場するコテコテ版。その噺をコテコテの部分は、原形に忠実に、自身の工夫も入れて笑いの多い、18分の高座に仕上げての熱演。満員の場内から、笑いと惜しみない拍手が起こる。 三つ目は笑福亭一門から、笑福亭岐代松師。『どて福』の出囃子に乗り、長身を生かし、堂々と高座へ向かう。 この師匠のこの噺が実に面白い。自身も十八番とあってか自信満々。長身とやや長い顔を生かして、長い顔をグルグル廻したり、洗面器一杯のお湯を飲み干す仕草などに客席も大爆笑。充分に笑いをとって吉朝師匠と交代する。 ** 楽屋よもやま噺 本日の演題について ** 小 生「おはようございます。今日は、『仏師屋盗人』ですか?」 呂鶴師「一様なぁ。前で付く噺が出たらやめるけど、袴も持ってきたしなぁ。皆に言わん でええで。」 小 生「その辺がトリの辛いとこで」 ・ 横で岐代松師がさかんに、ネタ帳をめくっている。 小 生「思いの噺、出てまへんか?」 岐代松師「セーフやなぁ。ラッキー。ここで、演(や)りたかってん」 ・ その噺が、『手水廻し』であったのである。 ・ 吉朝師匠が、松鶴シリーズと断って、『胴斬り』を演じ始めた頃。 枝三郎師「困ったなぁ。松鶴シリーズをどこまでひっぱるんやろ。 後は笑福亭(呂鶴)や から当然やろけど、えーと、何があるかなぁ」 小 生「『質屋芝居』なんかは」 枝三郎師「カブリで演(や)る噺やないしなぁ。繰ってないから『さなぎだに・・・』さ え出てくればええけど、『蛸(蛸芝居)』も染丸さんからやから(六代目も十八番 であったが、枝三郎師は染丸師匠に教えてもらったという意味)、ちょっと違うし、 『軽業』でも・・・・。困ったなぁ」 ・ 後で判るのであるが、枝三郎師自身は既に意中のネタがあったのである(『一文笛を 演じる) 高座は『下記猿』の出囃子で吉朝師匠の出となる。 出囃子を一杯聴かして、自身で楽屋から「よーお・・」と、大きな声で、合いの手を入れる。会場は爆笑の反応。 やや、前かがみで高座へ登場すると、場内からは今日一番の拍手が起こり会場のボルテージも最高。「えー、世の中、何が起こるか判りません・・・」と、マクラが始まる。 「えー、今日は最初から『六代目』師匠のネタが続いております。『おごろもち盗人』、次の『みかん屋』もそうですし、『手水廻し』も、よう演じてはりました。こうなったら、私も、何か・・・・」として、「えー、昔は朝起きて顔を洗うことを手水を使う・・・(会場大爆笑)。えー、出た、これ・・・。」と笑いをとって、本題の『胴斬り』が始まる。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 当席で六代目師匠が演じられた演題は、口演順で『貧乏花見』『近所付合い(艶笑)』『饅頭恐い』『後引き酒』『今宮えびす(新作)』『平の蔭』『故郷へ錦(艶笑)』『つる』『高津の富』『有馬小便』『猫の災難』『一人酒盛』『酒の粕』『うどん屋』『商売根問(40分)』『旅立酒』『相撲場風景』『質屋芝居』『遊山舟』『多忙中(艶笑)』『後引き酒』『雨風』『胴斬り』『商売繁盛でササ持って来い(艶笑)』『闘病酒』である。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 吉朝師匠は、この噺を楽しむように演じていく。主人公が首を斬られる処では、「腰を一つひねります。えいっ・・・(ボーン)。ええ、タイミングで入りますなぁ。もう一遍やってみまひょか。えいっ・・・(ボーン)。」との演出では、会場全体から笑いと拍手が起こる。骨組みは六代目師匠のそれを、随所に師匠自身の演出を加えての噺は、爆笑の連続。25分の好演は大喝采のうちに『お中入り』となる。 中入りカブリは、三枝一門から桂枝三郎師匠。実力者の師匠、古典で勝負か、創作で勝負か、その答えは当日、皆様の目と耳でお確かめ下さい。と、前月の会報でご紹介したが、満員の会場からの拍手に迎えられて『二上り中の舞』の出囃子で高座へ登場。 そして、始まった演題は、松鶴十八番ではなく、米朝十八番の『一文笛』皆様、よくご存じの米朝師匠の自作の名作である。最初から、今日の演題はコレ! と決めていたのであろう、今までの流れをガラリと変える好演であった。 そして、トリは、笑福亭一門から笑福亭呂鶴師匠。 トップの『おごろもち盗人』で、この演題は、お流れとなったが・・・。岐代松師の失敗を教訓にした、お茶子(芸名クロム嬢)さんが、今回は間違えずに湯飲みを見台の脇に置くと、場内から拍手が起こる。 笑顔でお茶子さんとすれ違って、名調子『小鍛冶』の出囃子で、ゆっくり高座へ登場した呂鶴師匠。「私、もう一席でお開きでございます。よろしければ、おつき合いをお願いいたしておきます。今席は『仏師屋』をと思っておりましたが・・・」と、マクラを振っての本日の演題は自身の十八番の『向う付け』の一席。約20分の高座は手慣れた演題とあって、ツボツボで大爆笑が起こる。 会場も演者も大満足のうち、お開きとなる(8時50分 打ち出し) |