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       第296回 公演の記録           吉村 高也
       公演日時: 平成15年 4月10日(月) 午後6時30分開演  観客:280人(満席)

             出演者             演目

         桂    三  若   「一人静」
         桂    梅團治   「転失気」
         桂    雀  々   「隣の桜」
         林家   染  丸   「鹿政談」 
            中入
         笑福亭 福  笑    「ちしゃ医者」
    主任  桂    三  枝   「妻の旅行」

        お囃子  内海英華 林家和女 草尾正子

                                 打出し  21:00

桜も満開で春本番の4月10日。「第296回・もとまち寄席恋雅亭・開席25周年記念公演」が開催されました。

  大入満席の予兆は、3月公演での前売開始から始まる。なんと、50枚の前売券が売れるのである。さらに、3月末までに風月堂さんにお願いしている前売券が完売。数日おいてE−メールでの予約システムも予定枚数を消化してしまう。新聞各紙や情報紙に紹介される頃には、「前売券は完売いたしました」との表示をお願いする始末。当日券への問い合わせの電話は鳴りっぱなしとなり、そして、いよいよ当日となる。

 会場はパイプ椅子を後方に引きいつもより席数を増やして、準備を整えお客様を待つ。会員のTさんが3時前に定位置へ。その後も熱心なお客様が列を作られて、遂にお客様の列は一階売場から溢れてビルの横へと続く。先月同様、5時30分を少し早めての開場となり、待ち焦がれたお客様が会場に入場され、席を確保されたお客様と木戸に来られたお客様が木戸前で交錯する中、席はどんどん埋まっていく。最終的には、300名弱のご来場となった。

  会場と同様、楽屋も大入り。順不同でご紹介すると、林家一門では、染語楼、染弥、染左、竹丸、染太。笑福亭一門は銀瓶、瓶成。そして、桂まめだ三幸、そして、桂あやめの各師。さらに、なごみ嬢(あやめ師の愛嬢)も抱かれてお手伝いに。なごみ嬢は初の大入り袋をゲットし大喜び(あやめ師が)。            

 定刻の6時半、『石段』の出囃子で、その記念公演のトップバッター、トリの三枝一門から、神戸出身で平成6年入門の若きポープである桂三若師が超満員のお客様が、絶好調の創作落語で会場を笑いの渦に巻き込むことを期待しての拍手に迎えられ登場する。

「えー、一杯のお客様でございまして、ありがとうございます。私が西のジュリ ーでございます。しかし、神戸はよろしなぁ。お客様が上品ですわ。神戸は。私も神戸出身で、しかも、大学出。自慢する訳ではないですが、『神戸大学』・・・・。ちょっと字数が違いますが、神戸学院大学。月謝は高いが偏差値は低い。」と得意の掴みのマクラが始まる。さらに、「現在は阪急沿線の閑静な住宅地、十三に住んでおります。以外と治安はよろしいで、24時間パトカーは走っておりますし、以外と一戸建てが多いですよ、ダンボール作りの・・・」とマクラも絶好調。   
   そして、小学時代の同窓会の話題から始まった本日の演題は、自作の創作落語『一人静』。  大阪に転勤してきた東京男に大阪流のツッコミを続ける男の一人しゃべりが会場全体を爆笑の連続に導きストーリーは続く。そして、あっと驚くサゲとなる。この間、13分。トップから全開のスタートとなった。

二つ目は、当席でも各地の落語会でも、大活躍で勉強家である春團治一門からその愛嬌一杯の笑顔で爆笑落語繰り広げる桂梅團治師。「えー、続きまして、私の方でおつき合いを願っておきます・・・。私の趣味は、SLの写真を撮ることでして、この間も、落語会が終わって、打ち上げにも参加せんと、夜を徹して、雪の福島県の会津若松と郡山を走るSL撮りに行きましてん。勿論、一人でっせ。夜通し走って行ったら雪のため運休。がっかりです」と、マクラが始まり、「私も以外と有名」の話題で笑いをとって始まった本題は『転失気』。上方では珍しい噺に属する、この噺だが師匠のニンとピッタリ一致し、知ったぶりの和尚、こましゃくれた小僧、そして、お医者さん。それぞれがうまく噛み合っての爆笑噺に仕上がっていた。

 三つ目は、枝雀一門から桂雀々師。もう説明の必要のない師匠で、独特のキャラクターの師匠が演じる上方落語は、爆笑のオンパレード。今回もズラリ揃った出演者に刺激され、目一杯の熱演を期待しても間違いない処。

 今回は『かじや』の出囃子で登場。なお、今回のお囃子は、内海英華、林家和女、草尾正子の豪華三人娘。

「えー、私が桂雀々(かつらじゃくじゃく)。又の名をケイジャンジャンと申します」とあいさつ。爆笑マクラを繰り広げた後、始まった本題は『隣の桜』。この噺、又の名を『鼻ねじ』とも言うがこの題名の方がネタバレしない。

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   **楽屋よもやま噺   楽屋での会話

 先程もご紹介したが、この日の楽屋は大入満員。

福笑師 「おおきに、今日はどの位入ってまっか?」

小 生 「お陰様で、大入。3足(300名)位ですか。今日は『貧乏花見』ですか?」

福笑師 「やりまへん。違ゃうので勝負ですわ」

※     実は、先月の『兵庫区民寄席』で、師匠は『貧乏花見』を狙っておられたが、染丸師

匠が『隣の桜』やろと予想されて諦めた模様。

福笑師 「7時半には帰って来ます」と楽屋を後にされる。

雀々師 「今日は『隣の桜』キープしとこ」と、ネタ帳に早々と記入。着替えに。

交代する様に三枝師匠が、続いて染丸師匠が紋付き袴姿で楽屋入り。

三枝師 「びっくりしましたで、体の調子は?(染丸師匠に対して)」

染丸師 「おおきに。もう大丈夫や。十二指腸潰瘍は持病やねん」

※     その後、病院、治療方法の話題が続く

染丸師 「病気は、高座でネタにするで、期待しとって。雀々に取られたなぁ『隣の桜』。こ

の噺、わしが雀々に付けたんや、京都花月の地下で、よう覚えてるわ。やってみ

い言うたら登場人物が全部『定吉』でなぁ」

  ※同期とあって、三枝、染丸両師匠の笑いながらの昔話は続く。

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商家の春の風物詩を題材に噺が進む。賑やかにお囃子もタップリと入って師匠の芸風もプラスされた、実に陽気なコテコテの爆笑上方噺に仕上がっていた。

 中トリには、上方落語界の実力派、林家染丸師匠。当席への出演回数はカブリの福笑師匠と双璧で、毎回演じられる本格派上方落語を楽しみにされるお客様も多い。崇拝する故三遊亭円生師匠の出囃子『正札付き』を一杯聞かせて、さらに、間を図って、お囃子のキレ目と同時にお辞儀(円生師匠もそうであった)。    

「えー、25周年記念にお越し頂きましてありがとうございます。代わる代わる連中が登場しております。色々な噺がありますが、今の噺も季節感タップリでして、早い者勝ちで・・(笑・ご自身が演じる予定であったのか)」とあいさつ。 そして、予定通り十二指腸潰瘍の治療法の話題で笑いをとって、「奈良のお話で・・・」と、『隣の桜』同様、林家のお家芸の『鹿政談』が始まる。

  正直者の老夫婦をお奉行様が助けようとする、お涙頂戴のお馴染みの噺をキッチリと演じサゲとなる。この噺のサゲは二段になっており、「日頃の正直にめでてキラズにおくぞ」(会場から拍手)。「へぇ、マメでーーー帰えれます」(再び拍手)とサゲになり、楽屋から大きな「お中入り」と声がかかる。

  中入りカブリは、笑福亭一門から笑福亭福笑師匠。笑福亭伝統の豪放磊落の演出に加えて、さらに拍車が。今、最も乗っている師匠だけに、トリを意識して古典で勝負か、中トリを意識して創作で勝負か、その答えは当日、皆様の目と耳でお確かめ下さい。と、ご紹介したが、元気一杯で高座へ登場し、最後列までを見渡すように登場をアピール。収まりかけた拍手が再度、わき起こる。

 「えー、ありがとうございます。福笑と申します。決して悪気があって出てきたのではありません」と得意の掴みのフレーズ。「今日は『ちしゃ医者』というお笑いで・・・」と本題が始まる。

 福笑師匠は、入門当時に必死にネタ数を増やすため、この噺を、六代目松鶴師匠のお宅にあった、初代春團治師匠のレコードで、同時期、呂鶴師匠は、『裏向丁稚』を覚えられたそうである。勿論、六代目松鶴師匠の手直しもあったそうである。 以後、両師匠は、各々の噺を育て、膨らまして自身の十八番となったのである。よって、この噺が面白くないはずはない。押して押して押しまくる演出に加えて、上方落語の伝統?である、クソ、ションベンも、師匠自らが途中で「汚い噺や。この噺と『大和閑所』は、それをわたいがさらにきたなく演じる」と解説が入る程、タップリとコッテリと、それも仕草もタップリ登場すおまけ付き。会場全体を大爆笑に包み込んで、大喝采のうちにサゲとなった、進化し続ける福笑十八番の上方古典落語『ちしゃ医者』であった。

 そして、トリは、「ご存じ」桂三枝師匠。メクリが『三枝』と替わると場内はなんとも言えない期待ムードに。文枝師匠の小文枝時代の出囃子である『軒すだれ』でゆっくり高座へ登場した師匠は、袖で一礼し、ゆっくりと座布団へ座って深々と一礼。その間、拍手は鳴りやまない。

  「えー、私が桂三枝の生もので・・・」と、さらに扇子で扇ぐような仕草と「まだ、この当たりに匂いが漂っているようで」と笑いを取る。 そして、「自身の老いとええかげんさ」「大阪のおばちゃんのパワー」の新幹線も止めてしまった事件。無理矢理友達にサインを貰らわす。ゴロゴロ温泉の秘密。など、マクラが続く。これが、ただ単に世間話をしているのではなく、後で判るのであるが、本題の伏線となっている計算され尽くされた演出である。ここらが、三枝師匠の三枝師匠たる所以である。マクラでの師匠の一言、一言が会場全体の笑いを誘って、スッと本題へ入る『妻の旅行』の創作落語の一席。大阪のおばちゃんに手を焼く旦那を面白く描いた秀作。会場のお客様全てが納得と共感を覚えるのであろうか、爆笑の連続の30分の高座であった。

  「お時間ーー」の声とバレ太鼓をしばし止めて「25周年を迎えました恋雅亭が30年、50年と続きますよう今後ともよろしくお願いいたします」と締めのあいさつで、25周年記念公演を締めくくっていただいた。

       9時ジャスト お開き  大入叶