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       第295回の記録                                        吉村 高也
       公演日時: 平成15年 3月10日(月) 午後6時30分開演  観客:200人(満席)

             出演者             演目

         林家  花 丸  「道灌」
         月亭   遊 方  「ゴーイング見合いウェイ」
          桂    小 福  「京の茶漬」
         桂    文 太  「よもぎ餅(黄金餅)」 
            中入
         笑福亭 鶴 志  「平の蔭」
    主任  月亭   八 方  「崇徳院」

      お囃子  林家和女 草尾正子

                      打出し  21:10
 

   春間近の3月10日。「第295回・もとまち寄席恋雅亭・如月公演」が開催されました。先月同様、充実した出演者や、新聞各紙や情報紙に紹介されたり、さらに、今回からE−メールでの予約システムといった条件が重なり大入りの予感。そして、当日。「ちょっと早かったなぁ」と、会員のTさんが3時前に定位置へ。その後も熱心なお客様が列を作られ、遂にお客様の列は一階売場まで。先月同様、5時30分を少し早めての開場となった、待ち焦がれたお客様が会場に入場され、席を確保されたお客様と木戸に来られたお客様が木戸前で交錯する中、席はどんどん埋まっていく。最終的には、200名のご来場となった。

 定刻の6時半、『石段』の出囃子でトップバッターの林家一門の染二、うさぎ、そめすけ、に続く四番弟子の林家花丸師が高座へ。各地の落語会でも、大活躍の勉強家の花丸師は、当席でもお馴染みとあって、万雷の拍手に迎えられて登場し、295回公演の幕が上がる。「えー、一杯のお客様でございまして、トップバッターの、私、林家花丸のほうで、お付き合いを願っておきます。ここの落語会は、いつも一杯でございまして緊張しております・・・」と、簡単なあいさつから、本日の演題の『道灌』が始まる。
   この噺、上方落語の「**根問」の分類に属するお馴染みの噺。 その噺を基本に忠実に、そこに、随所に自身の工夫を入れて演じる。トップとして、長くなく、それでいて盛り上がりのあった、15分の元気一杯の高座には、惜しみない拍手が送られていた。

 二つ目は、トリの八方一門の総領弟子、月亭遊方師。現代感覚で演じる創作落語を中心に活躍中で、今回は師匠との競演とあって大ハリキリ。一番に楽屋入りし、熱心に今日の演題をおさらい。『岩見』の出囃子で、元気一杯に高座に姿を見せると大きな拍手が起こる。「えー、ありがとうございます。一杯のお客様でございまして・・・」と、やや噛みながら、スタート。いつまでたっても子離れしない自身の母親の話題や、大事なネタノートを忘れたが、幸にも届けてもらい手元に戻ってくる。ノートを開いてみると至る所に、「これは良い」とか「これは面白くないからカット」とか、赤ペンが入れてあったなどの、現代風のマクラで笑いをとって、会社員の結婚したい男に、掃除婦として働いている情報通で世話焼きのおばちゃんが見合いを進めるといった、どこにでもあるような題材。題して創作落語『ゴーイング見合いウェイ』。噺はトントンと進み、工夫に工夫を重ねたクスグリに場内も大受け。自身で考えたクスグリで爆笑を誘って噺が進む。
  そして、サゲの少し前にハプニングが発生。クスグリと間をサゲと勘違いした下座さんが、「ドンドン」と受け囃子を打つ。「ちゃう、ちゃう、まだや!」と高座で遊方師が叫ぶが、手遅れ。しかし、会場は大受け。さらに、その後のクスグリに「太鼓、鳴らされた」とさっそく応用。これが、大受け。30分を超える大爆笑噺であった。   

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   **楽屋よもやま噺  其の壱 楽屋での会話 

       開演前:

遊方師「お早うございます。ありがとうございます。今日は師匠と一緒で、嬉しいですわ。

緊張してますけど」

鶴志師「先月、ようけ入ったそうですなぁ」

小 生「びっくりですわ。今月もよろしいで。師匠のお陰ですわ」

鶴志師「おおきに。師匠(六代目松鶴)も楠さん(楠本喬章氏)も喜んではりまっせ。(ネ

タ帳に目をめくりながら)」

小 生「今日は、何を?」

鶴志師「ここでは、いつも迷いまんねん。出たとこ勝負ですわ」

小福、文太、そして、飛び込みように花丸師が到着して開演となる。

       遊方師の口演終了後:

花丸師「えらい、すんまへん。へんなとこで、太鼓打ちまして(何度も繰り返しあやまる)」

遊方師「ええねん。僕もサゲをキッチリ言ってなかったから。けど、よく受けたなぁ」

小 生「いっそ、毎回、あそこで、太鼓入れてギャグにしたら?。間違える位にインパク

トのあったクスグリやったんですわ」

八方師匠到着:

八方師「いやぁ、今年の阪神、強いで。今年は本物や」

春駒師「去年も、同じこと言うてましたがなぁ」

八方師「今年は、投手がええで、Aクラスは間違いない」

その話題に鶴志師が乱入して、大いに盛り上がった楽屋であった。

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  三つ目は福團治一門の総領、桂小福師。独特のキャラクターの師匠が演じる上方落語は、爆笑の連続。今回も好演を期待しても間違いない処です。と先月の会報で紹介した。 『早ぜん』の出囃子で高座へ登場した小福師。「えー、戦後最大の拍手ありがとうございます。えー、いろんな事がありますわ。さっき(遊方師の高座)も、太鼓が鳴りましたな。まあ、ええ加減なもんですから。ここは月に1回、長いこと続いている会でして、来月は25周年ですか、いろんな事がありますわ。長いことやってると、ここは、四人出て、二人出るんですが、三つ目で『中入りーーー』と言ってみたり、京都の市民寄席では、中入りの時、『お時間ーーー』と、言ったこともありました」と、マクラが続き、「この噺は京都では出来ません。落語ファンの方は、もうお分かりですねぇ、『京のお茶漬』というお噺を聞いて頂きます」と本題が始まる。これが、実に結構な出来である。「いつも、帰りかけると『お茶漬けでも』と言う。『一遍、食べさせてもらおう』と大阪の暇人が京へお茶漬けを食べに行ったというだけのお噺で」と、断っているように、この噺の筋は、実に単純で、皆様良くご存じ。よって、多くの演じ手がいるが、間と呼吸が非常に難しい噺であるといえる(先代文我師匠の名演が耳にこびりついている)。もともと、じっくり語る方である小福師であるので、ピッタリと、はまった一席であるし、最近とみに面白さが倍増した高座が相まって、爆笑の連続であった。
  中トリには、上方落語界の実力派、桂文太師匠。ここは、もう紹介の説明のない師匠ですが、上方落語と江戸落語を移植して、演じられる洗練された師匠の十八番芸を楽しみされているファンも多い。会場全体から起こる拍手に迎えられ、ゆっくり、ゆっくり『さわぎ』の出囃子に乗って高座へ登場。まずは、『文太一家のほのぼの噺・バレンタイン編』で笑いを誘う。「日本には、色々な宗教を上手に取り込んでいる国で・・・・」と、マクラを振って「大阪福島の銭亀長屋に西念・・・」と噺が始まる。この噺、東京の『黄金餅』を上方に師匠自身が移植した噺。金に気が残って死ぬに死ねない乞食坊主が、隣人に頼み、買ってきてもらった、よもぎ餅に金を詰め込んで、それを飲み込み絶命してしまう。それを覗いていた隣人が取り出そうと葬式をし、自分の寺に持ち込み、死体を焼き金を取り出し、餅屋を開業するするという、ちょっと陰惨なストーリー。これを落語仕立てにすると面白いストーリーになるのが不思議である。この噺は、長屋からお寺までの地名の言い立てが聞かせどころ。「福島の銭亀長屋を出まして・・・・」と福島から住吉街道までのお寺までの言い立ては、一部詰まったが、これもギャグでかわし大受け。25分の好演で、お中入りとなった。

  中入りの間に来席の前売券が飛ぶように売れる。

中入りカブリは、笑福亭一門から笑福亭鶴志師匠。笑福亭伝統の豪放磊落の演出にはさらに拍車がかかる。今回も多くのお客様が期待される中、『だんじり』の囃子で登場の思いのほか、「テンテン、ガンガン・・・」と、どこか聞き覚えあるフレーズがある囃子が鳴る。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

*      * 鶴志師匠の出囃子  **

 多くの落語ファンならご存じの通り、噺家には、それぞれ出囃子が決まっているが、鶴志師匠は『だんじり』を永らく使っておられた。その囃子を学光師匠に譲られ、自身の出囃子が無くなってしまった。松鶴師匠の出囃子『船行き』を、内海英華嬢に編曲を依頼。そして出来上がったのが『鶴志囃子』。又の名を『船行きくずし』である。さっそく、息子に嫁が来た話題で笑いをとって、六代目師匠の運転手時代の怒られた話題へと進む。いつものことであるが、松鶴一門が師匠の話題をする時は師匠が好きで好きでたまらないという印象を受ける。「えー、こない言いながら、何を演(し)ょかなぁと考えてまんねん」と言いながら、始まった本題は、「この噺をすると師匠に怒られてるみたいで」との想い出の噺、師匠直伝の『平の蔭(手紙無筆)』の一席。この噺、登場人物も少なく、筋立ても簡単であるので、前座噺と思われがちであるが、実際は、間で持っていく噺なので非常に難しい噺である。その噺(当席6度目の口演の鶴志十八番中の十八番)を実に良い間で演じる。当然、場内は師匠の世界で大爆笑の連続であった。

そして、トリは、マスコミで大活躍の月亭八方師匠が、『夫婦万歳』の出囃子で高座へ。当席では『高津の富』『軒付け』『始末の極意』『蛇含草』と、トリとして本格的上方古典落語で数多く演んじておられるだけに、「えー、時間の経つのは早いもので・・・。私も五十五歳になり・・・。」と、簡単に阪神タイガースの話題も交えて、マクラを振って、本題の『崇徳院』が始まる。 楽屋入りされて、ネタ繰りもされ、満を持しての口演だけに、お馴染みの噺を自身の噺としてキッチリと演じる。大受けの30分を超える熱演は会場も演者も大満足のうち、サゲとなり、打ち出しは9時10分。
       大入り公演はこうして幕を閉じた。