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       第294回の記録                                        吉村 高也
       公演日時: 平成15年 2月10日(月) 午後6時30分開演  観客:300人(超大入満席・立見多数)

             出演者             演目

              笑福亭 喬  楽   「犬の目」
              桂     宗  助   「替り目」
              桂     春團治   「お玉牛」 
              笑福亭 学  光   「荒大名の茶の湯」
                                      ・三代目師匠の次の仕事の関係で当席では初の中トリ  
                中入
              桂     あやめ   「リアルゴールドの黄昏(たそがれ)」
     主任 笑福亭 松   喬   「佐々木裁き」

                                   ・マクラの六代目の想い出からタップリ40分

               お囃子  林家和女 草尾正子

                打出し  21:20
  冬将軍が居座り続けている2月10日。「第294回・もとまち寄席恋雅亭・如月公演」が開催されました。
充実した出演者や、新聞各紙や情報紙に紹介されたり、さらに、翌日が祝日といった条件で、前売券や問い合わせも絶好調。前売券も日を追って伸び、90枚を突破いつも通り当日は、一年で一番寒い中、熱心なお客様が列を作られる。遂にお客様の列は一階売場まで。5時30分を少し早めての開場となった。前売券や問合せの状況からいつもより席を余分に引いておいたが、待ち焦がれたお客様が会場に入場され、席を確保されたお客様と木戸に来られたお客様が木戸前で交錯する中、席はどんどん埋まっていく。そして、困ったことが発生する。当日券を求められるお客様の出足が早く、ご入場いただくと、後から来られた会員様と前売券のお客様がご入場出来なくなるので、ちょっと待っていただくことに。その後もお客様の出足は衰えることもなく、遂に立ち見のお客様が発生する大入公演となる。

  定刻の6時半、『石段』の出囃子でトップバッターのトリの松喬一門の四番弟子の、笑福亭喬楽師(当席へは2度目の出演。師匠譲りの体型と落語への真剣な取り組みで各地の落語会で活躍中)が、万雷の拍手に迎えられて高座へ登場し、294回公演の幕が上がる。


  「えー、一杯のお客様でございまして、トップバッターは、私、笑福亭喬楽でおつき合いを願っておきます。ここの落語会は、2回目の出演でございまして、初めての時は非常に緊張しまして・・・」と、第259回公演から約3年ぶりの出演となった感想を述べて、マクラが始まる。本日の演題は『犬の目』。お馴染みの噺を基本に忠実に、そこに自身の工夫を入れて演じる。トップとして、15分の元気一杯の高座には惜しみない拍手が送られていた。

二つ目は、米朝一門から桂宗助師。昭和63年入門でキャリア16年。各地の落語会やご自身の「宗助の会」は満員の盛況である。今回も、そのしっかりとした高座を楽しみされているお客様も多く、『芸者ワルツ』の出囃子で高座に姿を見せると大きな拍手が起こる。

「えー、一杯のお客様でございまして、只今拍手を頂戴しました、お客様に限り厚く御礼申し上げます・・・・。」と、掴みの挨拶。そして、今、米朝師匠に最も似ている宗助師の、師匠直伝で伝統であるキッチリした構成の酒のマクラから、本題の『替り目』へ。これが、実に結構な出来である。この噺の筋は、皆様良くご存じであろうが、東西の多くの演じ手により、タップリと入ったクスグリと、どこででも切れる筋立てのこの噺を実に巧みに、そして、お客様をそらさずにキッチリと演じる。さらに、もう5分でサゲであるのに、会全体の構成を考えての高座時間は20分。噺の半ばで舞台を下りる。勿論、グッと盛り上げてである。噺家は、誰でも大入り満員の良く受けるお客様を前にして、少しでも長い時間演(や)りたいはずであるのに、サスガである。当席の常連として今後も多くの好演を期待したい。

 三つ目は鶴光一門から、笑福亭学光師。・・・・ではなく、『野崎』の出囃子がなり、三代目桂春團治師匠。会場は一瞬戸惑った様な雰囲気であったが、メクリが『春團治』に変わると、洗練された師匠の十八番芸を楽しみされている満員のお客様から万雷の拍手が起こる。いつものように、袖で手拭いに扇子で「人」いう字を三つ書いて飲み込む、いつものあがらないまじない(芸歴50年を超える師匠でも高座へ上がる前は緊張するのであろうか)。そして、その拍手に迎えられて、ゆっくりと高座の袖から登場して深々と一礼。『野崎』の囃子に乗り、ゆっくりと座布団へ座って、両手をグッと広げて深々と一礼(絵のような・・・)。ここでも再び拍手が起こる。「えー、大勢のお運びでありがたく御礼申し上げます。私のところはあいも変わりません、馬鹿馬鹿しいお笑いを申し上げまして・・・」といつもながらの口調で噺が始まる。出番が変わったことへ一切触れず、大入りのお客様への御礼をさらりと述べて、スッと入った演題は、十八番(おはこ)の『お玉牛』の一席。三代目師匠のこの噺はこれで当席では4度目の口演になるが、前回は第133回公演と約16年ぶりである。見せる落語の代表のようなこの噺、三代目師匠の流れるようなシグサに会場は爆笑の連続。17分のグッと内容の濃い高座であった。

そして、中トリは、笑福亭学光師。いつまでも愛くるしい風貌と高座は、非常に好感の持てるところで当席お馴染み。今回も好演を期待しての拍手に迎えられて高座へ。「えー、えらいことになりまして、落語家を長いことやってますが中トリは初めてですわ。今後も、もうないと思います。あっ、決して私が遅れたから三代目(春團治)師匠に先に上がってもらったんではありまへん。私は暇ですから3時間前には来てましてん。そんな失礼なことはとても出来ません。」と、照れくさそうに、そして、嬉しそうにあいさつ。そして、「大勢お越し頂いてありがとうございます。ここ(高座)は空いてますけど、そんな訳には・・・。落語は三百年の歴史がありますが、懐古ですか、心が落ち着きますね。私の故郷は四国なんですけど、久しぶりに帰ったら、落ち着きますねん・・・、よろしいですなぁ」と、故郷のおいしいうどんの噺から、お客様が許してくださればと断って始まった演題は(お客様の拍手を待って)「拍手がなくてもやるつもりでした」と笑わして始まった演題は『荒大名の茶の湯』。この噺、講談から移植したいわゆる釈ネタである。当席では平成8年4月の第212回公演で旭堂南鱗師匠が講談として、さらに師匠である鶴光師匠も当席では『太閤と曾呂利』の釈ネタを演じられておられる。その噺を、あるクダリは講談調の重々しさで、あるクダリは落語調で、と自身も楽しみながら演じる。場内を爆笑の渦に巻き込んで大喝采の中、中入りとなる。  

 中入りカブリは、文枝一門から桂あやめ嬢。昨年の『たちきれ線香・小糸編』での芸術祭賞受賞で一段と話芸にも拍車がかかっての登場。もうイメージピッタリの『菖蒲浴衣』の出囃子で高座へ登場し「えー、噂通りの大入りで、昔から、二八(にっぱち)はお客様が薄い(少ない)と言われておりますが、そんなことはありませんね、ここは。・・・・」「私の方は、創作落語ということで、自分で創って自分で演じて・・・、それも、最近は特に際物(きわもの)が多くなってきまして、ある会では、2ケ月に一度、新しい噺を演じることにしてますけど、2ケ月も経つと前の噺が古く感じますねん」「そんな会で一番最初に創った噺は、堺正章さんの奥さんの離婚会見のテレビを見ながら『なんでやねん』」とツッコミを入れている女性を描いた噺。続いて、ヴィンラディンが西成のアイリン地区に逃げ込んで、アメリカが、『探し出さねば空爆だ!』と、言いだし大騒ぎとなる『ヴィンラディンは何処へ行った』(大爆笑)。」「そして、この前は、USJへの対抗する枚方パークを描いた『枚方パークの陰謀』。」と、粗筋を紹介して爆笑を誘う。そして、「これも、2月14日の近辺でしか演じられない際物です」と断って『リアルゴールドな黄昏に』が始まる。内容は、一口で紹介できないが、『バレンタインデー』『男と男』を題材にした、あやめ流の斬新な爆笑の連続の秀作であった。

 そして、トリの笑福亭の重鎮・六代目笑福亭松喬師匠が、『高砂丹前』の出囃子に乗って満員の客席の万雷の拍手に迎えられ高座へ登場。満員のお客様も、当席では本格的上方古典落語を数多く演んじられておられ、今回も、トリでジックリ演じていただけると楽しみされておられるのが拍手の多さが証明している。「えー、もう一席のご辛抱で・・・・。今の噺、演題聞いても判りませんわ。けど、自分で創った噺が受けたら楽しいでっしゃろなぁ・・・。私ら人の力を試されているみたいで・・・・・」と、師匠自身も今度、オーケストラとのジョイントで創作落語を演じることを紹介して、「私ら、もう覚えるのが難しくなってきて、歳ですわ。50超えたらあきまへん。実は、今日が、私の52歳の誕生日で(場内から大きな拍手)・・・、ちょうど、私が師匠松鶴のところに入門したのが、師匠が52歳で、私もその歳になった。感無量で・・・。」「内弟子時代、覚えが悪うて『手水廻し』を覚えられずにいた時、師匠の運転手で神戸の松竹座へ行った10日間、20回、師匠が演(や)ってくれたのが『手水廻し』でして、いわば、師匠がネタ付けてくれたんですわ。礼を言うと『ここのお客様に、たまたま、この噺があったからやっただけや』と、さらり、これで、『一生、この人に付いていこ!』と思いましてん」と、入門当時の師匠との笑いと感動のマクラが続く。これだけで、値打ちのあるマクラから、いつ入ったか判らない程、スムーズに 『佐々木裁き』が始まる。 元々、子供や奉行の良さには定評のある師匠であるので、その両者が絡む噺であるので、悪かろうはずがない。
   全編爆笑の連続の40分の高座であった。  

          打ち出しは9時20分。大入り公演はこうして幕を閉じた。 

お詫び:

※ 立ち見を数多くして頂いたお客様と窮屈な思いをされたお客様に心よりお詫びを申し上げますと共に、多くお客様からの、「ようけで笑ろた方が面白いでと励ましのお言葉を頂戴したことに御礼を申し上げます。