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       第293回の記録                                        吉村 高也
          公演日時: 平成15年 1月10日(金) 午後6時30分開演  観客:240人(大入満席)

             出演者             演目

         桂    春 菜  時うどん
         桂    文 春  狸の賽
         笑福亭 仁 嬌  代脈
         桂    文 紅  けいこ屋
                       ・色事根問〜けいこ屋のサゲまでタップリ30分
           中入
         桂    都 丸  鍬潟
     主任 桂    文 珍  胴乱の幸助」
                       ・発端からサゲまでタップリ35分

           お囃子  林家和女

        打出し  午後9時20分
               *打ち出し後、木戸口で文珍師匠のサイン付きCDの即売会有り

  正月の賑わいが、えべっさんに引き継がれ、冬将軍到来の1月10日。「第293回・もとまち寄席恋雅亭・新春初席公演」が開催されました。前売券もお正月から日を追って伸び、100枚を突破。いつも通り当日は、寒い中熱心なお客様が列を作られ、5時30分に予定通り開場となった。
待ち焦がれたお客様が会場に入場され、席を確保されたお客様と木戸に来られたお客様が木戸前で交錯する中、席はどんどん埋まっていく。しかし、いつもと違ってお客様の出足が遅い。実は、当日はJR灘駅、そして、新長田駅で相次いで人身事故が発生。来場されたお客様が口々に「えらい目にあったわ」「遅れるかと思たわ」「席、後ろ覚悟しとったけど、以外と前取れたわ」と感想その後は、じわじわと来場されるお客様が増え、最後列のために用意していたパイプ椅子をいれる。
JR事故の影響は演者の師匠連にも出る。一番太鼓の六時には、春菜師と文春師のお二人が楽屋入り。
一番太鼓は春菜師。ご来場された、全てのお客様に座っていただいて、定刻の6時半、初席のみの恒例『十二月』の出囃子でトップバッターの桂春菜師が、万雷の拍手に迎えられて高座へ登場し、293回公演の幕が上がる。「えーーーー、どうも、新年あけまして、おめでとうございます。今年もどうぞ、よろしくお願い致します。私も、もう四日程で二十八になってしまいます。えらいことでございます・・・。この歳になっても判らないのが母親でございます」と、あいさつからマクラが始まる。母親といっしょにレストランへ行った時の話題から、「彦八祭り」の浴衣を渡すのに恥ずかしい思いをした話題へ、そして『時うどん』が始まる。

      **楽屋よもやま噺  其の壱 本日のネタについて
 当日発生したJRの事故の影響で演者の到着にも大きく影響。

 小 生「おはよう、ございます」

春菜師
「おはようございます。えらい目に遭いましたわ」

文春師
「私も、えらい目に・・。4時に出たんです、守口を。5時には着いてなあかんのに、2時間かかりましたわ」

春菜師
「後の師匠連が来(き)はらへんかったら、二人で延ばさなあかん。何、演(し)ようかなぁ」

文春師
「私も、長いのん考えるか。十八番は『狸賽』なんやけど。この噺ばっかり演って、以前、会社に怒られましてん・・。長い間演りませんでしてん。暫くぶりに演ったら、段取り忘れてしもて、次の目、何やったかを探りもって演ったりして」

そこへ、仁嬌師が到着し、三師になり、俄然ムードが明るくなる。

春菜師
「よっしゃ、今日は『時うどん』を。米吉君が演(や)ってるけど、彼のは師匠(吉朝)直伝やから東京風やし、僕のはコテコテの上方風」

 『時うどん』は、東京では『時そば』、上方では『時うどん』として、口演回数の多い噺である。違いは二つで、食べる物がそばかうどん。それと、東京の筋は、最初に食べる男が一人で主人公は、物陰でその一部始終を見ていて真似をして失敗するのに対して、上方は、二人の男が一緒にうどんを食べて、翌日に主人公が真似をして失敗するのである。
発端からサゲまで、上方風のコテコテ『時うどん』。その噺を女性ファンの多さは師匠・父親直伝の華の或る高座で楽しく演じる。場内も爆笑の連続であった。

  二つ目は、トリの文珍一門から桂文春師。独特のキャラクターの高座は当席でもおなじみ。さて、今回は・・・? と期待の中、会場全体から巻き起こる拍手で高座へ。「えー、場内、割れんばかりの拍手ありがとうございます。春菜君に替わりまして出てまいりました、私は文珍の三番弟子。桂文春(ぶんしゅん)と申します」と自己紹介。以前の芸名、文時(ぶんどき)からの改名理由を「週刊文春の社長とは関係なく、春に改名したから」と笑いをとり、子供が出来た話題から落語家の童謡、『鶴の恩返し』『花咲じいさん』『瘤取りじいさん』で話題をとり、本題の十八番『狸の賽』。
自身の雰囲気と芸風が、この主人公とピッタリで、又、自信のある噺とあって、ツボツボで笑いが起こった名演であった。

  三つ目は仁鶴一門から、笑福亭仁嬌師。いつまでも若々しい風貌と高座は、非常に好感の持てるところ。今回も初席らしい好演を期待の客席からの拍手で高座へ登場。「えー、あけましておめでとうございます。続きまして、笑福亭仁嬌の方でおつき合いを願っておきます」と自己紹介「笑いは健康の元」から病気になったらお医者さんのお世話にならないといけない。そして、「殺しても定価通りの手術代」「代脈のちと見直した晩に死に」と川柳を紹介し、ご存じ師匠直伝の『代脈』が始まる。
発端からサゲまでタップリ・キッチリ・バッチリの25分であった。

    **楽屋よもやま噺  其の弐 JRの事故の影響

  仁嬌師の高座への登場が7時10分。この時点で、JRの影響はあったが、文紅師匠を除いて、出演者は全員到着。

春菜師
「文紅師匠、まだですねぇ」

文春師
「師匠、忘れてはりまんねんやろか?。けど、電話しても家は留守ですし」

春駒師
「判ってはるはずやで、JRの遅れの影響やで。『老詳記(南京街)』の豚マン届いているでぇ。師匠、ここ(恋雅亭)に出る時、必ず注文しはてるよって」

都丸師
「私が先に出て、時間つなぎますわ」

その時、階段を下りてくる音が聞こえ、文紅師匠が到着される。

文紅師
「すまん、すまん、JRの遅れで。着替える、時間有るか?。よっしゃ、すぐ着替えるわ」

都丸師
「よかった。中トリに、なるとこやったわ」

小 生「よろしいがな。次は中トリかトリで」

その時、『おかねざらし』の出囃子がなる。着替えを終わった師匠が、「茶、一杯おくれ。それと、『けいこ屋』出てるか?」

春駒師
「最近、出てまへん。大丈夫です」

   そして、中トリの上方落語界の重鎮、桂文紅師匠。ここは、もう紹介の説明のない師匠で、伝統的な演出の噺は何を聴いてもと、常連客の期待の拍手に迎えられて高座へ登場。
まず、マクラで「えー、たまりまへん。JRの事故は・・・」と始まって、舞台は、グッとタイムスリップ。どうしても、もてたい男が相談に来て、「一見栄、二男、三金、四芸、五勢、六おぼこ、七台詞、八力、九肝、十評判」の自己評定。お馴染みの『色事根問』。
そして、小川市松さんのけいこ屋へ、芸事指南と称して乱入する『けいこ屋』と文紅ワールドが次々炸裂。場内はなんともいえないホンワカムード。随所に古風な演出・ギャグがちりばめられた、キッチリタップリの30分の高座に大満足の会場であった。

  中入りカブリは、ざこば一門の筆頭弟子、桂都丸師匠。弟子も出来、一段と風格の出てきた都丸師匠。中入り後のざわついた会場へお馴染みの『猫じゃ、猫じゃ』の出囃子に乗って高座へ登場。
「えー、続きまして、私、都丸の方でおつき合いを願っておきます。」と始まり日曜日(12日)から始まる大相撲の話題から、自身のイメージともマッチする上方噺『鍬潟』。
大受けの客席に気をよくして高座にも熱がこもる。
トリの文珍師匠のマクラでその熱演ぶりを紹介。「先程の都丸さん、大熱演でしたなぁ。上がる(高座)前『トントンと軽くいきますから、兄さん』でしてんで、えらいトントンや。30分演(や)ってましたで」。
その言葉通りの大熱演、大爆笑の高座であった。


   そして、トリには、ここが定位置(初席トリ)の桂文珍師匠。当席には、年に1度、必ず出演いただき、本格的上方古典落語を演じておられます。師匠自身も「恋雅亭のお客様の反応は勉強になる」と言われ、出演を楽しみにされておられ、今回も大変お忙しい中「よっしゃ、喜んで!」と出演を快諾いただいての出演となりました。
今回も、奥様ご同伴で来席され、お客様から「CDの販売ないの?」との質問を予想されたのか、第9集まで発売になったCDを各5枚づづ持参。「今日も販売させてなぁ。持って来たし。」と、同人会に応援を頼み、「サイン頼まれたら、お父さん、するの?(奥様)」「もちろん、喜んでさしてもらいます(師匠)」と、息もピッタリの気さくな、ご夫婦である。
 楽屋で、ネタ帳をメクリながら「ウーーーンと、何しょっかなぁ。えーとウーン」と、既に意中のネタは決まっているのであろうが、上機嫌である。そして、『円馬囃子』を聞いて、「よっしゃ」と一声。出囃子にのって高座へ登場する師匠は、もう大御所の風格。「えー、又、JRが止まりまして・・・。」と、マクラがスタート。
「止まるのは、JRばっかりですなぁ。長いJRが止まって、短い阪神が止まっても、面白くないからですかねぇ。まあ、そんなことはないでしょが。さて、そろそろ、本題へ入って・・・。」と始まった演題は、上方落語の大物『胴乱の幸助』。
ある楽屋雀によると、師匠が今、手がけられておられる噺であり、ネタ下ろしではないか?とのこと。
   発端の「おい、何してんねん」「立ってんねん」から始まり、舞台は、道端〜酒屋〜けいこ屋〜京都柳の馬場へと変化し、登場人物も多く、カットする箇所もなく、非常に力量がいる噺である。その噺をツボ、ツボでキッチリ、爆笑を誘っての35分。

      お開きは9時25分となった、大入の熱演の連続の新春初席であった