公演記録目次へ戻る


       第291回の記録                                   吉村 高也
       公演日時: 平成14年11月10日(月) 午後6時30分開演  観客:       人

             出演者             演目

         桂    米 吉  「時うどん」
         林家     うさぎ  「ふぐ鍋」
          露の   團 六  「からし医者」
         笑福亭 仁 鶴  「道具屋」 
            中入
         笑福亭 仁 福   「堀川」
    主任    立花家  千 橘   「雪の戸田川」

      お囃子  

                      打出し  21:05

めっきり寒くなった、2002年の11月10日に『第291回恋雅亭』は開催された。当日は日曜日とあって、お客様の出足は速い。お客様の列は一階の売り場を占領。定刻より5分早いの5時25分に開場。列を作られた多くの熱心なお客様が、会場へ吸い込まれる様にご入場され、次々に思い思いの席へ。場内は次第に埋まっていく。一番太鼓、二番太鼓(着到)が鳴る頃は、大部分の席が埋まり、定刻の6時半に開演となる(最終的には200名を超える大入り)。

 その公演のトップは、『石段』の出囃子に送られて、吉朝一門から当席は初出演となる桂米吉師。平成七年入門組(キャリア7年)のトップをきって、当席へ初出演。師匠の教育よろしく、落語への前向きな取組みの高座は期待に値すると、客席も期待する中、勿論、自身も大張り切りです。 当席への出演を心待ちにしておられたとあって、事前に小生へTEL。「恋雅亭は入門十年たたんと出れんて、聞いたんですけど、ほんとに私ですか?」「何分位、演(や)ってええんですか?」と。「えー、トップは、そこに書いてありますが『よねきち』からおつき合いをお願いいたしておきます・・・。」と自己紹介して、大師匠の米朝師匠の家での内弟子時代の想い出から、「寒い時期には、何か暖かいものを、・・・そろそろ、ネタに入ってきましたが、まだ。何をやるか判りません」と笑いをとって、『時うどん』が始まる。

  この噺、東京では『時そば』、上方では『時うどん』として、口演回数 の多い噺である。  違いは二つで、食べる物がそばかうどん。それと、東京の筋は、最初に食べる男が一人で主人公は、物陰でその一部始終を見ていて真似をして失敗するのに対して、上方は、二人の男が一緒にうどんを食べて、翌日に主人公が真似をして失敗するのである。 米吉師は、東京風『時うどん』である。師匠である吉朝師匠直伝を随所に思わせる高座は、達者の一言。トントンと進んでうどんを食べる処では会場から拍手まで起こる。会場のあちこちに追っかけと思われる若い女性が見つめる中での17分の高座であった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

   **楽屋よもやま噺  其の壱  (平成6年、7年入門組)

・平成6年入門

    3月 桂  三 若(三 枝一門)平成12年 8月初出演

 3月 桂  都んぼ(都 丸一門)未出演

  4月 桂  春 菜(春團治一門)平成11年 1月初出演

  4月 桂  福 矢(福團治一門)平成11年 5月初出演

  5月 桂 ちゃん好(文 福一門)未出演

  6月 桂  かい枝(文 枝一門)未出演

  6月 桂  三 金(三 枝一門)未出演

  7月 林家 染 弥(染 丸一門)平成14年 1月初出演

11月 桂  吉 弥(吉 朝一門)平成13年 4月初出演

・     平成7年入門

    8月 林家 竹 丸(染 丸一門)未出演

    9月 桂  紅 雀(枝 雀一門)未出演

 10月 桂  三ノ助(三 枝一門)未出演

 12月 桂  米 吉(吉 朝一門)平成14年11月初出演

 

 二つ目は当席への出演も4度目となり、さらに出番が一つ奥になった、染丸一門の林家うさぎ師。勉強家で、各地の落語会でも場内を爆笑の渦へ導いておられる師です。ご自身の芸名にちなんでの『うさぎのダンス』の出囃子で高座へ登場したうさぎ師。「続きまして、私の方でおつき合いを願っておきます」と自己紹介し、今年2度の手術をした話題で、網膜手術ではカナダ人の奥さんをまず実験台にした。歯の親不知の手術では入院して保険代を稼いた。と、笑いをとって本題に入る。トップの『時うどん』と食べ物ネタが続いたが林家のお家芸『ふぐ鍋』。コテコテ、モッチャリの演出の口演に場内は爆笑の渦。聞いているお客様が鍋物を食べたくなる口演は18分。 勿論、旦那さんの名前は、大橋さん(三代目染丸師匠の本名)であった。

  三つ目は五郎一門から、神戸出身で神戸在住の露の團六師。入門のきっかけも当席の師匠の高座。当然、当席常連(18回目)。師匠譲りの『かじや』の出囃子で登場し、「えー、続きまして・・・・」と始まったのは、「今日も後で出演されます、仁福兄さん。面白いでっせ。あんな、ええ人いまへんで・・・」と、夏の巡業での仁福師匠との楽しい想い出話から、本題は初代、二代目春團治、露の五郎師匠と伝わる爆笑上方噺『からし医者』。 演出は、当然、五郎師匠直伝とあってコテコテ。随所にこれでもか、これでもかと濃い演出が。場内を爆笑に包んで18分の高座はサゲとなった。                                             

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

   **楽屋よもやま噺  其の弐  (仁鶴師匠との談笑)

米吉師 「お早うございます。今日はありがとうございます」

小 生 「お早うございます。遠慮せずタップリ演(や)って下さいよ」

米吉師 「ありがとうございます。『時うどん』やらしてもらいます。」

うさぎ師 「私は、『ふぐ鍋』を、林家のね」

團六師 「今日は、田辺寄席で『お血脈』と『鳥屋坊主』の2席、やりましてん。よう考え

たら、お寺で噺が付いてまんねん。今日は、『鳥屋坊主』でも」

・     ・・ここで、三師が楽屋から離れて、仁鶴師匠が楽屋入り・・・

  車好きの師匠は、新車のフォルクスワーゲン(ターボ改造)で。

仁鶴師 「(鼻歌を歌って機嫌は最高)おはよう、ごくろはん。しかし、若手やいうても、皆、

年取ってるなぁ。もう十年も経ったら、五十代ばっかりになるで」

千橘師 「お師匠はん。17日の独演会は、大変お世話になりました。おかげさんで。満員

で、お師匠はんのおかげです」

仁鶴師 「いやぁ、よかったなぁ。あんたのお客さんやで」

・・・ネタ帳を見ながら・・・

仁鶴師 「今日は?」

小 生 「『時うどん』『ふぐ鍋』。今の團六師はたぶん『鳥屋坊主』、言うてはりました」

仁鶴師 「『鳥屋坊主』は、文紅のお師匠はんから、広がったんやで」

春駒師 「広げはっったんは、師匠(仁鶴)でんがな」

仁鶴師 「そやなぁ。わしも文紅のお師匠はんに付けてもろて、25分あるで、結構長い。(こ

こで、仁鶴師匠の出囃子が鳴る)おいおい、短いで・・・。えっ『からし医者』」

と言いながら高座へ向かわれた仁鶴師匠であった。

  「中トリはご存じ笑福亭仁鶴師匠。ゆったりとした仁鶴ワールドを皆様方ご自身でお楽しみ下さい」と先月の会報でご紹介しましたが、『猩々くずし』の出囃子が鳴り、メクリが変わると会場の雰囲気も仁鶴ワールドモードに、高座へ顔を見せると万雷の拍手が起こる。「えー、だいぶんこの風が冷えてまいりました。こちらへ寄せてもらうたんびに、まぁ、まことにこの長いこと続いてる落語会でご贔屓があってありがたいないなぁ言うて、だいたいよそに比べてここは、・・・高いねぇ(高座)ここ。・・・なんやらと煙は高い処へ昇る。・・・まぁ落ち着くんです・・・・。最近こたえるわぁ。堪える。二つのことが一緒に出来んようになって。お医者さんに聞くと初期症状・・・。」と、ゆったりとしたマクラが始まる。『三人の馬鹿』のお馴染みの小咄から、本題は仁鶴十八番の『道具屋』。若い時の早いテンポではなく、ゆったりとしたテンポで話は展開していく。ツボ、ツボで確実に大爆笑が起こり、「足下見るなよ」「いえ、手元見ております」とサゲまで22分。満員の会場も大満足で中入りとなった。

  中入後は、仁鶴一門の笑福亭仁福師匠。「本業は草野球、趣味が落語」と、どことなくホンワカしたムードで恥ずかしそうに演じる爆笑男。今回も『自転車節』で登場すると「ありがとうございます、引き続きまして、落語の方で・・・私も、何も悪気があって出て来たわけではございません。私も・・・・。私も・・・・」と3度目で爆笑が起こる。すかさず「ありがとうございます。ここまでは、計算通りいっている訳で」と、ホンワカムード。そして、師匠の話題から、糸魚川で開催された「仁鶴一門会」に遅刻した失敗談から、本題の『堀川』が始まる。

酒飲み極道と喧嘩極道が繰り広げるお馴染みのお話だが、師匠の手にかかると、登場人物が憎めない極道となる。くすぐりに敏感に反応するように会場からの爆笑に師匠も絶好調。長屋の朝ご飯のシーンで充分笑いをとった後、噺の題名になっている『猿回し』の浄瑠璃をズバッとカットし、師匠の工夫のサゲとなった。しかし、『時うどん』を聞けば、うどんを。『ふぐ鍋』を聞けば、鍋物を。そして、この噺を聞けばお粥を食べたくなるのは小生だけだろうか?

  林家のお家芸とも言えるこの噺は、師匠にお伺いすると、当代染丸師匠からの口伝だそうで、染丸師匠には「好きなように演(や)り」と見放されたように愛情溢れるアドバイスを頂戴したそうである。横から、うさぎ師が「師匠は、私ら弟子には浄瑠璃までやらんかったら、この噺は教えてくれまへんで、よろしいなぁ、兄さんは」と一言。

 さて今回のトリは五郎一門の総領、立花家千橘師匠。過去も『蔵丁稚』『一文笛』『質屋芝居』『宗悦殺し』と大ネタを熱演されておられる師匠は、小生に「『戸田川』出てまっか?」と確認され、お囃子さん(林家和女嬢)にキッカケのメモを渡して、『藪入り』の出囃子に載って高座へ登場。ズバッと「えー、もう一席の処、よろしくおつき合いを願っておきますが、佐野のお大臣で佐野屋次郎兵衛・・・」と本題に入る。         

当席では、平成5年8月の184回公演で桂文紅師匠が『お紺殺し』として演じられて以来、2度目となる『雪の戸田川』である。この噺は、歌舞伎の人気狂言「籠釣瓶花街酔醒(かごつるべさとえいざめ)」の発端で、佐野の絹商人、次郎左衛門が吉原の傾城、八ツ橋にぞっこんとなるが、恥をかかされた上に愛想づかしされたことを恨んで名刀、籠釣瓶で八ッ橋らを切り殺すという話である。落語の『雪の戸田川』は、東京の八代目林家正蔵師匠が『戸田の河原』として演じられておられたのを、上方の露の五郎、桂文紅の両師匠に口伝され、千橘師匠にと伝わった噺である。次郎左衛門の父、次郎吉が主人公の怪談噺で、俗に「お紺殺し」といわれている。次郎吉は女房のお紺を捨て、借りた金で成功した。あるとき戸田川の渡しで、こじきになったお紺と再開する。次郎吉は佐野に身重の女房がおり、結局、お紺を突き落として殺してしまう。という珍しい冬の怪談噺である。

  その噺を、キッチリと演じ、お囃子との息もピッタリ。場内は咳音一つ聞こえない。最後も「戸田の河原は・・・・(場内を上手から下手までをタップリ間合いをとって見渡して)・・・雪でございました」と30分の口演を締めくくった。

 場内の拍手に「ありがとうございました」と、心から御礼を込めて見送る師匠。お客様は口々に「うまいなぁ」「怖かった」との感想を述べれ、会場を後にされた。

打ち出し 9時5分