第290回の記録 吉村 高也 |
公演日時: 平成14年10月10日(木) 午後6時30分開演 出演者 演目 桂 つくし 「もぎとり」 桂 出 丸 「二人癖」 笑福亭 伯 枝 「へっつい盗人」 桂 春 駒 「鷺取り」 中入 桂 雀 々 「天王寺詣り」 主任 林家 染 丸 「くしゃみ講釈」 |
2002年の10月10日に『第290回恋雅亭』は開催された。 いつも通り、定刻の五時半に開場。列を作られた多くの熱心なお客様が、一番太鼓に迎えられ会場へ吸い込まれる様にご入場され、次々に思い思いの席へ。場内は次第に埋まっていく。
二番太鼓(着到)が鳴り、定刻の六時半に開演となる。当日は、囃子の名手である桂つく枝、桂出丸、林家一門が揃った。 その公演のトップは、『石段』の出囃子に送られて、文枝一門から当席は3度目の出演となる桂つく枝師。落語への前向きな取組みは一門を超えて可愛がられており、その愛嬌タップリの風貌で演じられる高座は期待に値すると紹介しましたが、ご自身も当席への出演を心待ちにしておられたとあって、大張り切り、「えー、トップは私、『つく枝』からおつき合いをお願いいたしておきます・・・。今回で3回目の出演でございまして、五代目文枝・十八番目の弟子でございまして・・・」と全一門を紹介して爆笑をとった自己紹介。そして、お伊勢さんへ歩いて行った時のエピソードをマクラに、スッーと始まった本題は『東の旅』のうち『軽業・もぎどり』(トップらしく、17分の口演時間)。テンポ良し、口跡良し、お囃子との乗り良し、と三拍子揃った名演。
続いて 二つ目はざこば一門から桂出丸師。自らのHPを開いている勉強家で、各地の落語会でも場内を爆笑の渦へ導いている師匠だけに、期待の中、拍手に迎えられ高座へ登場。「続きまして、桂出丸(でまる)君のほうでおつき合い願っておきますが・・・・」そして、おかしな噺家口調、口癖の紹介をして、本題に入る。マクラと本題がうまくつなげた演出は見事である。妙な口癖の「一杯飲める」と「つまらん」を直すため賭けをするお馴染みお話。基本に忠実な16分の口演であった。
三つ目は故松鶴一門から笑福亭伯枝師。愛くるしい風貌と一門伝統の爆笑落語は当席期待の◎。過去当席では、一門や師匠の十八番(おはこ)である『あみだ池』『田楽喰い』『鴻池の犬』『故郷へ錦』の熱演されておられております。高座へ登場した伯枝師「えー、続きまして伯枝でございます・・・。この間、師匠の十七回忌法要も無事済みまして・・・。けど、今でも一番怖いのは師匠(六代目松鶴)ですわ」と、兄弟子の岐代松師と一緒に師匠に怒られた思い出話を紹介し、「ここは、師匠との想い出が一杯詰まっている処でございますが、亡き師匠へ捧げる意味で盗人の噺を」とマクラで思い出話を語って本題へ。本日の本題は、これも笑福亭のお家芸『へっつい盗人』の一席。風貌と体型を生かして演じる噺は場内を爆笑の渦に巻き込む。至る所に自身の工夫が入った名演であった。 中トリは春團治一門から桂春駒匠。当席常連の本格派で、毎年、独演会を開かれている勉強家でもある。今回も数多いネタの中から「舌によりをかけて」の熱演を期待の『白拍子』の出囃子で登場し、好きな小咄と断って演じたのは『鍬烏』。そして、『鷺取り』が始まる。今年の独演会で演じるこの噺の反応の確認するために演じられるとあって、反応を確かめるように演じられる。雀から鶯、そして、鷺を捕りに行って、天王寺の五重の塔に置き去りにされる奇想天外な展開の噺であるが、一番の受け処である、俄(にわか)のクダリをズバッとカットした独特の演出。約27分の高座は、独演会の準備万全を思わせる出来であった。そして、お中入りとなる。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
**楽屋よもやま噺 其の壱 (楽屋で師匠連との談笑) 染丸師「おおきに。おおきに」 雀々師「師匠、いくつになられたんですか?」 染丸師「(しばらく考えて)39歳かなぁ。忘れるわ」 ・
その後、今日の演題の噺になり、春駒師匠は『鷺取り』、雀々師匠は『天王寺詣り』 と決まって・・・。 雀々師「染丸師匠は?。天王寺つながりで、『天神山』とか」 染丸師「『天神山』はええわ。以外とないなぁ」 小 生「うーん、そや『小倉船』」染丸師「(すかさず)『小倉船』とは、ぐるっと九州、廻 って、ええな亀の池かいなぁ」 雀々師「今度の独演会で演じられる『淀五郎』は?珍しいでっせ」 染丸師「そやそや、うちの師匠(三代目染丸)も『淀五郎』は、演ってはってんで。NH Kの音で今度、CD出たやろ」 雀々師「私は、インターネットで買いましたわ。師匠は、円生師匠?」 染丸師「そや、円生師匠を参考にしてな」 雀々師「ぜひ、『淀五郎』!」 染丸師「いや、今日のお客様で、今度の独演会に来られる方がいてはったらに失礼やから。 あかん」と否定 ・
話題は、CDのことに移る 染丸師「そやそや、この前、心斎橋で円三に会うたで。ちょっと年いっとったけど」 ・
と、円三師の想い出噺から、松鶴師匠、五郎師匠 と、話題はつきない(やや、紙面 では不適切な表現もありカット) 伯枝師「ここは、師匠との想い出の場所で、ベロベロになった師匠の運転手して帰った時、 後ろから師匠に目隠しされて、死ぬか思いましたで、それと、師匠以上に、楠本 さんの顔も怖かった。」 染丸師「(突然)『くっしゃみ』出てるか?」 と、前のネタと付かないかを確認。さらに、前にこの噺が出ているのは、平成13年1月の第269回公演(笑福亭岐代松師・口演)と確認された。そして、一言「決まった」と演題が決定したのである。 中入後は、7月公演を台風のため、新幹線に閉じこめられ欠席の桂雀々師匠。今回は、前回の借りを返すべく大ハリキリ。『かじや』の出囃子で登場し、さっそく7月の「新幹線閉じこめられ事件」の話題で場内を爆笑の渦へ。 (7月公演の詳細は、詳しくは、神戸新聞の切り抜きを)雀々師匠の本日の演題は、師匠直伝の『天王寺詣り』。松鶴・文枝師匠らの演出を土台に、随所に枝雀師匠を思わせるような演出。プラス自身の工夫もあって、全編爆笑話に仕上がっている。それを、パワーUPするのが、誇張とテンポUPである。全速力で走り続ける28分の高座は爆笑と喝采の連続。中でも、春駒師匠のストーリーに関連しての「今日は五重の塔には誰もぶら下がってまへん」と、今日だけ通じるクスグリは、大爆笑であった。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
**楽屋よもやま噺 其の弐 (真面目な落語談義)
演じ終わった春駒、雀々両師匠 雀々師「いやぁ、ちょっと急ぎすぎましたか?。私、この噺で走り出したら、ストップ出 来ませんねや。バスガイドが前を走って、後ろ見たら誰も付いて来てなかった。 みたいなもんだすわ」 春駒師「そやで、噺によって間をとったら、怖いと思う噺あるやろ。今日の『天王寺詣り』 なんか、その通りやなぁ。トントンと行かな・・・。六代目や文枝師匠みたいに、 ゆったりと間をとって演(や)るの怖いわなぁ」 雀々師「そうそう、今日なんか、走ってしもたら、止まらへんねん。お客さんが付いてき てるか心配で・・・」
さて、今回のトリは林家一門の総帥、林家染丸師匠。当席常連で『宿屋仇』『尻餅』『けいこ屋』『猿後家』『しじみ売り』と期待を裏切らない熱演であり、当然今回もと期待の中、『正札付き』の出囃子に乗って、しっとりとした淡紺の紋付に袴を付けられ、出囃子の間(ま)を計って、座(見台有り)へ登場。「えー、一杯のお運びでありがたく御礼申し上げます。私、もう一席お開きでございます・・・・。」「落語というのは、どれもよく似たもので・・・『こんにちわ。おーこっち上がり・・・。』いっしょでっしゃろ」会場は爆笑の渦。
そして、始まった演題は『くっしゃみ講釈』。現在、上方落語界で五指に入る、ネタ数の多い師匠であるが、この噺は珍しい。当然、当席では初の口演であるし、小生も過去、20年以上前に、2度しか聴いたことはない。その珍しい噺を、発端からサゲまで、講釈の処は流々と、又、威厳をもって、くっしゃみの処では会場から拍手が起ったほどの、28分に及ぶ熱演であった。 *
訂正:先月の会報でざこば師匠が松鶴師匠からの直伝は『遊山船』とご紹介いたしましたが『みかん屋』の誤りでした。お詫び致します。 |