第289回の記録 吉村 高也 |
公演日時: 平成14年 9月10日(火) 午後6時30分開演 出演者 演目 桂 わかば 「片棒」 林家 小 染 「首提灯」 笑福亭 仁 勇 「花色木綿」 笑福亭 松 枝 「胴乱の幸助」 中入 桂 文 福 「グレートアマゾン」(奥井康弘 作) 主任 桂 ざこば 「月並丁稚」 |
猛暑が戻った、2002年の9月10日に『第289回恋雅亭』は開催された。 「高い、高い・・・」のCMで絶好調の桂ざこば師匠が約2年ぶりに、さらに松枝、文福師匠らの出演とあって前売券の売れ行きも絶好調。当日の、お客様の出足も前売券同様に絶好調。五時十五分には列は一階の売り場まで溢れる。定刻の五時半に開場。列を作られた多くの熱心なお客様が、一番太鼓に迎えられ会場へ吸い込まれる様にご入場され、次々に思い思いの席へ。場内は次第に埋まっていく。
二番太鼓(着到)が鳴り、定刻の六時半に開演。会場は大入満員。当日券はストップするが、その後もお客様が次々と来場され、立ち見が発生する一杯の入りとなる。
その公演のトップは、トリのざこば一門から当席は2度目の出演となる桂わかば師。「えー、トップは私、『わかば!』からおつき合いをお願いいたしておきます・・・」と自己紹介。トップらしく、マクラもそこそこに本題へ。先月の『始末の極意』と同じく当席では珍しい演題となった『片棒』である(平成7年8月の204回公演で桂雀松師匠が演んじられて以来7年ぶり)。
一門ではいとこにあたる桂雀松師匠からの口伝を忠実に、自分のアドリブを余り入れない演出は、愛嬌タップリ、元気一杯の高座とプラスされ好感度満点。ツボツボで、会場全体から笑いが起こった、20分の高座であった。 二つ目は五代目林家小染師。「たぬき」の出囃子で登場するや、その笑顔で客席を「小染ワールド」へ導く師匠で、今回は何を演じてくれるか満員の場内が期待の中、「ちゃかちゃんりん、ちゃんりん・・・」とお馴染みの『たぬき』の出囃子で、楽屋へ「お先へ勉強させて頂きます」と一声かけて高座へ登場。「えー、続きましては『上方落語界の山田邦子の寝起きの顔』と呼ばれております(場内大爆笑)」と掴みも万全。マクラを二、三、振って、本題の『首提灯』が始まる。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
**楽屋よもやま噺 其の壱 (楽屋で師匠連との談笑) 小 生「おはようございます」 小染師「おはようございます。いつもおおきに。(ネタ帳を見ながら)こうして見ると以外 と出てない噺ありますなぁ」 小 生「今日は何を?」 小染師「ここは、何でも演(や)りたいねんけど、『悋気独楽』なんか・・・・けど、二つ 目やし」 仁勇師「今日は、相撲の噺は出来まへんで(笑)・・・・。けど、前で『花筏』なんか出て も、関係なく『相撲甚句』やりはりまっせ、あの兄さん(再び笑い。一同、理解 度満点)」 小 生「トップから熱演が多いから、バレ(終演)が押し(延びる)ますねん。この頃9 時廻ることが多いんですわ」 ざこば師「もともとは、9時位やったわ、ここは。6本やし。今日は9時までに、はねる (終演)で。時間厳守や!」 小染師「今日は『首提灯』。18分で」(事実18分で演じきり、持ちネタでもある、ざこ ば師匠とネタ談義があった) 松枝師「遠慮せんでもええで、『悋気独楽』でも。そしたら、僕『鶴』で11分で下りるし・・・。 『首提灯』か、そうなると難しいなぁ。(ネタ帳を見ながら)よっしゃ、決めた。『親 じゃわやい』しょう」 と、『胴乱の幸助』が決定した。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
三つ目は仁鶴一門から笑福亭仁勇師。「上方落語界の皇太子殿下」のギャグは健在。独特の風貌と師匠譲りの爆笑落語は当席期待の◎です。高座へ登場した仁勇師、「上方落語界の皇太子殿下」のギャグは省略して、さっそく本題へ。演題は、前の小染師の『首提灯』と、最後の部分でややネタが付いたが、盗人の出てくる『花色木綿』。 殆どのお客様が噺を筋をご存じなので、ある意味非常に難しい噺であるが、そこは、天性の明るさの一門の伝統か、底抜けに明るい。満員の客席を笑いの渦に巻き込んでの18分の高座であった。
中トリは笑福亭一門の重鎮・笑福亭松枝師匠。この師匠も、当席常連で本格派のお馴染み。今回も数多いネタの中から、 「舌によりをかけて」の熱演が期待される。 いつもの通り、過去一年の当席でのネタを事前に確認されて楽屋入り。さらに、前の演者の噺に耳を傾けながら自分の演題を決めておられる様子である。さらに、出番が近づくにつれて師匠からは近寄りがたいオーラの様なものを感じるようになる。実際はちょっとオーバー。実は楽屋では、家庭の話題でバカに盛り上がっていたのだが。
『早船』の出囃子に乗って高座へ登場した松枝師匠。マクラも、ほどほどに本題へ。演題は、予定通り『胴乱の幸助』。多くの先人の名演を土台に松枝師匠独自の工夫をプラスした口演は、発端からサゲまでタップリの35分に及ぶ。「しもた、汽車で来たら良かった」の、お馴染みのサゲ。大喝采に送られて中入りとなる。 満員のお客様が一服するので、ロビーも満員。コーヒー、ジュースが飛ぶように売れる。シャギャリの迎えられるように再び場内に入られたお客様の拍手に迎えられ、中入り後、カブリの定位置で桂文福師匠が登場。深々と頭を下げて「バアッ」といつも通りの掴み。「えー、大入満員で
ございまして・・」とマクラが始まる。 楽屋では弟子の桂まめだ師が早くからCDラジカセを準備し、何か趣向でもあるのか?
高座での文福師匠はいつもの通り、相撲のマクラから。それにしても、この師匠の相撲 博学はご立派である。ツラツラとよどみなく力士の名前やエピソードが出てくる。話題は、相撲からプロレスに変わって、ここでも博学ぶりを遺憾なく発揮し、本題へ入る。初来日する予定が中止になったの謎の覆面レスラーに急遽代演を立てて、その場逃れを計る興行主と覆面レスラーになりすました男の巻き起こす奇想天外なストーリー。題して、奥井康弘作『グレートアマゾン』。この様に書くと『動物園』と『花筏』をミックスした様な噺のようであるが、師匠自ら覆面を付けたり、とんちんかんの登場の際のテーマミュージック(まめだ師がラジカセとテープを駆使して演出。もう少しボリウムUPが必要)が流れたりと、こりに凝った演出。 満員の客席の笑いを誘う。マクラも入れて28分の高座は、師匠もお客様も大満足。師匠のテンションは、高座を下りても高く、お開きになるまで延々続いた。
さて、今公演のトリは、上方落語界の大御所桂ざこば師匠。ここはもう紹介の必要のないところで、過去、当席では『狸の化寺』『坊 主茶屋』『遊山舟』『青菜』『一文笛』と期待を裏切らない熱演。会場全体から巻き起こる拍手に迎えられて、高座へ登場したざこば師匠、「えー、娘の携帯電話代。五万なんぼでっせ・・・・(会場からクスクス笑いが)。高い!高い!」と、今もっとも受ける話題へ。「あのコマーシャル、大変でしてんで。ほとんど合成ですけど。まず『普通に、高い!言うて下さい』。次ぎに『怒って』次ぎに『泣いて』と注文が多いんだ。まぁ。三千万貰ろたらしゃないわ」会場全体から笑いが。「(楽屋に向かって)笑ういうことは信じてないで」そして、会場に「嘘ですけど」と会場全体から爆笑を誘う。
そのざこば師匠の本日の演題は『月並丁稚』。 過去、当席では、
・昭和56年 2月の第 35回公演 桂 春團治 演 ・平成 5年10月の第186回公演 桂 ざこば 演 ・平成 9年 8月の第228回公演 桂 團 朝 演 の3度演じられただけの珍しい演題である。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
**楽屋よもやま噺 其の弐 (ざこば師匠と) 小 生「いつもありがとう、ございます」 ざこば師「すんまへんなぁ。ご無沙汰してしもて」 小 生「師匠、来年は25周年、300回ですねん。よろしく」 ざこば師「よっしゃ、言うてや。出してもらうで」 *
横におられた米朝事務所の小林専務が、すかさず手帳に記帳 ざこば師「(ネタ帳を見ながら)懐かしいなぁ。ここへ来ると想い出すことが多いなぁ。春 蝶やんも、死んでもう10年になるもんなぁ。六代目(松鶴)、楠さん(楠本喬 章氏)、枝雀兄ちゃん」 小 生「そうですね」 ざこば師「(パンフを見ながら)『遊山船』なんか、よう出てんねんなぁ。僕、六代目から 付けて(噺を教わること)もろた噺は、これ一本や。もっと習ろときゃ良かった と思うわ。三代目(春團治)からは『お玉牛』『月並丁稚』の二本やし、文枝師匠 からは、『ろくろ首』だけやし・・・」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
随所に三代目師匠直伝の噺を彷彿とさせる箇所が、そして、随所にざこば師匠の演出が光る。口上を忘れた丁稚が思い出すためにお尻をひねってもらう。番頭、関取が駄目で、大工の棟梁の秘策が光ってのサゲとなる。
打ち出しは、ざこば師匠の予測を10分オーバーする9時10分。
9月10日大入公演であった。 |