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       第287回の記録                                   吉村 高也
       公演日時: 平成14年 7月10日(水) 午後6時30分開演  

             出演者             演目

         露の   吉   次  「兵庫舟」
         笑福亭 純  瓶  「黄金の大黒」
          桂    枝女太  「住吉駕篭」
         桂    米  二  「口入屋」 
            中入
         桂     小米朝  「青菜」   雀々 代演
    主任    笑福亭 鶴  瓶  「子はかすがい」

 2002年の7月10日に『第287回恋雅亭』は、人気者の鶴瓶師匠や雀々師匠らが出るとあって、6月下旬から前売券も絶好調(7月6日に締め切り)。その後も「当日券は?」の問合わせはひっきりなしで当日を迎える。

  当日は台風6号の直撃の中ではあったが、お客様の出足は絶好調。五時過ぎには列は一階の売り場まで溢れ、定刻の五時半を五分早めて開場。列を作られた多くの熱心なお客様が、笑福亭瓶太師が打つ一番太鼓に迎えられ会場へ吸い込まれる様にご入場され次々に思い思いの席へ。場内は次第に埋まっていく。その後も当日券を求めるお客様が来場され、最後列に椅子を並べて対応し、折角お越し頂いたお客様にご入場頂こうと努力。二番太鼓(着到)が鳴り定刻の六時半に開演した時には大入満員となる。

  その公演のトップは、露の五郎一門から当席初出演となる露の吉次師。上方風コテコテ落語は師匠、一門の兄弟子譲り。さらに勉強熱心。基本に忠実。演じられる上方落語は楽しく、昭和62年入門でキャリア16年目で満を持しての出演となりました。

『石段』の出囃子で高座へ登場するや、囃子にかぶって「えー」と元気一杯に始まる。マクラもそこそこに始まった本題は旅の噺の『兵庫舟?』。なぜ、?かというと、「兵庫は鍛治屋町の浜から・・・」という紹介がなく、いきなり、「時刻がまいりますと、船頭さん・・・」といきなり舟が出る。その後、謎掛けがあって鱶(ふか)が出てくるので『兵庫舟』と判断した次第。サゲは当然、「わしはかまぼこ屋や」であったが、場所を明らかにしなかったのは、演出か単に抜けたのか。当人に確認しなかったが、それはともかくとして、全編笑いの連続の高座であった。

 二つ目はトリの鶴瓶一門から笑福亭純瓶師。出に際して、楽屋に向かって、会場の最後列まで聞こえる大声で「お願いします」と挨拶し、元気一杯高座へ登場。ぽっちゃりとした体を揺すって座布団に座ると、場内の女性から『純ちゃん』と声がかかる。

 愛称で呼ばれるのはみんなから可愛がられている表れで、愛くるしい顔をさらに、にこやかにして「ありがとうございます。決して身内ではございません」と笑いを誘って、「ここ(恋雅亭)は、私らにとりましてあこがれでございまして、なかなか出ることが出来ません。十年以上経たないとトップにでれません。トップの吉次さんは、十六年で初出演ですし、私はこれでキャリア十八年ですけど、今回で3回目です。緊張するんですわ」と当席への思い入れを紹介。さらに、楽しく、愛嬌一杯、元気一杯にマクラが続き、そして「本日は古典落語でございます。『黄金の大黒』というお話でおつき合いを願いまして・・・」と本題がスタート。

キッチリした土台の上に自身の工夫をたっぷり盛り込んだ一席は、純瓶師の明るさが登場人物と一致し、爆笑の連続。おしむらくは、持ち時間をあまり気にせず、演じたいマクラを振り、あと2、3分でサゲなのだからサゲ直前で切らずサゲまで演じればよかったと思うが・・・。この当たりが純ちゃんの純ちゃんらしい気遣いである。自身で決めた、持ち時間をきっちり守った20分の高座であった。

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   **楽屋よもやま噺  (鶴瓶師匠を囲んでの談笑)

小 生「この間の27時間テレビ、お疲れさまでした」

鶴瓶師「あれなぁ、全部マジやで、やらせなしや。あの島で27時間、おってんで。あの

島(秋田県の人口268人)の人な、午後7時には寝るらしい。人がおらへんね

ん。全員の望みを叶えるのが企画やったんやけど、酒飲み過ぎて、朝起きて「生」

やいうのん忘れて、さんまの昔の彼女の名前言うたり、**玉見せたり、久しぶ

りに始末書取られた」

小 生「島の只一人の未成年の女の子の望み『ジャニーズJrと友達になりたい』でスマ

ップの中居君に電話してはりましたなぁ」

鶴瓶師「僕ら、スマップで、年代的に、ぎりぎりや。Jrなんて知らんしなぁ。息子も、

26歳やし」

枝女太師「うちとこは娘で、16歳で、モー娘ですわ」

小 生「うちは、18歳でキンキキッズ」

鶴瓶師「そや、そや、君らモー娘、全員の名前言えるか。この前、全員と対談して覚えた

で。一番しっかりしてるのは矢口いう子や」

米二師「なんか、一番パッパラパーみたいでっせ」

小 生「師匠、今日は何を?」

 今回の出演は鶴瓶師匠ご自身から出演を希望しての登場。9月に開催される東京国立劇場での春風亭小朝師匠との落語会での口演候補の『化物使い』『子はかすがい』『鴻池の犬』を当席での反応で決定するためネタは3つに絞られていた。

鶴瓶師「『子はかすがい』思てんねん。一席は『化物使い』で決めたし、もう一席はこれに

しようと思てんねん」

枝女太師「六代目流ですやろ。母親が出ていくパターン」

  ここで、枝女太師の出番となり噺は中断する

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 「三つ目、中トリには当席期待の本格派の二師匠が登場」と紹介したが、その期待通り『住吉駕篭』(第261回公演以来2年ぶり)、『口入屋』(第239回公演以来4年ぶり)と大ネタが並んだ。その三つ目は文枝一門から桂枝女太師。個性豊かな一門にあって古典落語一筋なのは当

席でもお馴染みである。「えー続きまして、私の方でおつき合い願います。昔の旅は・・・」とキッチリとした噺のマクラから始まる。

 よく受けるお客様を前にすると、噺と全く違ったマクラで笑いをとることの師も多い中、枝女太師は本題のマクラをきっちり振り本題へ入る。まさしく本格派である。「旅の手段」から「駕篭」の説明を経て『住吉駕篭』が始まり、発端からサゲまでタップリ30分。満員の客席を大満足させる出来であった。

中トリは米朝一門から桂米二師匠。この師匠も当席ではお馴染み。今回は初の中トリとあって大張り切りで、上方落語の大ネタを披露予定。今回のプログラム(コラムとして過去1年間の演者・演題を記載)を片手に、「こうして見ると抜けてる噺もあるなぁ。出てそうやのに出てない噺。よっしゃ、今日は『口入屋』や」「そうや、前にチャアちゃん(米朝師匠)が、『おなごしさんの出来るもんを並び立てるくだりでなぁ。「単(ひとえ)もんが(中略)、羽織に袴、襦袢、十徳、ひふコート、トンビにマント、手甲、脚絆、足袋、そのほか針の掛かるもんでございましたら、網貫(あみぬき)から雪駄の裏皮、畳の表替え・・・と、【あみぬき】ちゅう言葉が出てくるやろ、あれなぁ【つなぬき】が正しい』と指摘されて、それから『綱貫(つなぬき)』でやってるんやけど、テンポで覚えてるんで、まだひっかかるわ」と苦心談を披露して、出囃子に乗って高座へ。

     ちなみに、HP『世紀末亭』によると「綱貫(つなぬき)とは、猪の一枚皮で作られた山仕事で履かれることの多かった防寒用の靴」とある

「えー続きまして、私の方は『夜這い』のお話で・・・・」と当席では8回目・第23

9回公演での笑福亭松枝師匠口演以来、4年ぶりの『口入屋』が始まる。米朝師匠直伝を崩すことなくキッチリと、サゲ前の番頭が膳棚を担いだくだりで。初めて「私もこの間、掃除中にクーラーが肩の上に落ちてきて担いだ」とちょっと脱線し、笑いをとり、「それでは、本題に戻ります」と、スッとタイムスリップさせ、サゲとなった。見事、中トリの大役を果たす。

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   **楽屋よもやま噺  (雀々師匠、台風に巻き込まれる)

     ・ 日本列島を直撃した台風6号の影響は恋雅亭にも及んだ。・・

前日、東京でのテレビ取材を終えて、当席出演のため帰阪中の雀々師匠が新幹線で立ち往生したのである。

     これはシャレではなくマジなドキュメントである。

 10時  東京発の新幹線へ乗車。熱海付近で停車。

 15時   本人から「米朝事務所」へ当席の代演要請有り。

 16時   「南光、ざこば、米朝、小米朝」の順でスケジュール調整に入り、小米朝師匠

に決定。(前出の3師匠は、京都南座の米朝一門会でブッキング中のため)

 17時   当席へ連絡有り、メクリを用意。

 18時    小米朝師匠到着。雀々師匠、長良川で立ち往生の連絡有り

   鶴瓶師匠を中心に出番順を検討。

  @中入までに到着の際は予定通り

    A中入までに未着の場合は小米朝・鶴瓶の順で口演

    B打出しまでに到着の場合は鶴瓶師匠の後に口演

 20時    中入りとなるが、未着。長良川付近のためAの案となる

21時半  鶴瓶師匠の携帯に「今、新大阪着」の連絡有り。   お疲れさまでした

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 中入後は、枝雀一門から桂雀々師・・・。ではなく、桂小米朝。メクリが「小米朝」に変わって、一瞬どよめく客席。師が姿を見せると万雷の拍手に、「えー、雀々さんが、台風の影響で・・・」と事情説明。

「えー、雀々さんを聞きに来たのに残念と思うお客様は?」に対して会場から拍手。「小米朝の方が良かった?」にはさっきより大きな拍手。満足と申し訳なさとが入り交じったような感想を述べながらマクラを振って、夏の噺の定番『青菜』。仁鶴、故文我師匠らの名演がお馴染みのこの噺であるが、小米朝流の『青菜』である。ツボツボで場内から笑いが起こり、それが次第に大きくなる。そして、大爆笑のうちにサゲとなる。打ち上げ後、師匠に苦心談をお伺いした(詳しくは、当会も大変お世話になっている村上健治氏が神戸新聞に掲載されるのでお楽しみに)。

 さて今回のトリは笑福亭鶴瓶師匠。忙しい中、今回は師匠ご自身から出演を希望しての登場となりました。当日は4時から楽屋入り(そういえば六代目師匠も楽屋入りは早かった)。

 ネタも『子はかすがい』に決めて『新ラッパ』の出囃子で登場。満員の客席からは今日一番の拍手が起こる。「えー、ここへ出るとおちつきますねん。なんか・・・。けど昔から、色々ありますねん、ここは・・・」と師弟二代にわたっててのつなぎの話題から27時間テレビの話題。そして「子の可愛さはまことなりけり」と『子はかすがい』が始まる。2年前の初演から、さらに工夫を重ねての好演に会場は聞きいる。随所に笑いを散りばめられているが、そこは上方では珍しい人情噺。テレビのイメージとは180度違う、噺家鶴瓶の真骨頂の一席であった。