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       第286回の記録                                   吉村 高也
       公演日時: 平成14年 6月10日(月) 午後6時30分開演  

             出演者             演目

         笑福亭 生 喬  「平林」
         桂    三 風  「動物園」
          露の   新 冶  「七段目」
         笑福亭 仁 智  「ハード・ラック」 
            中入
         桂     九 雀  「蛇含草」
    主任    笑福亭 福 笑  「宿屋ババア」

      お囃子  

                      打出し  21:05

2002年の6月10日に『第286回恋雅亭』が開催された。

6月に入って前売券や問合わせも、うなぎ登りとなって迎えた当日。定刻の五時半に開場。列を作られた多くの熱心なお客様が会場へ吸い込まれる様にご入場され次々に思い思いの席へ。場内は次第に埋まっていき、ついに満席。一番太鼓、二番太鼓(着到)が鳴り定刻の六時半に開演。

  その公演のトップは、松喬一門から当席へは初出演となる笑福亭生喬師(平成3年入門でキャリア11年目・実は平成8年新春初席の『寿獅子舞』で兄弟子の三喬師匠のスケが当席初出演である)。勉強熱心で知られる一門の三番弟子として、野田阪神で毎月開催されている『おそばと落語の会』や各地の落語会で基本に忠実に演じられる上方落語はその風貌と共に明るく楽しいと評判。

 『石段』の出囃子で高座へ登場するや、元気一杯で「えー、只今より第286回恋雅亭、開演でございまして、トップは私、生喬(せいきょう)で、セイキョウと申しましても笑福亭生活協同組合ではごいざいません・・・」と簡単に自己紹介で、笑いをとり、早速本題の『平林』が始まる。

 この噺、皆様方よくご存じであるが、以前は上方・東京では多くの演者が演じられた噺、しかし、最近は珍しい噺の部類に入ってしまったのか、当席でも今回でなんと2度目の口演である(昭和63年9月の第126回公演で桂小春師匠(現小春團治)以来14年ぶり)。その噺を基本に忠実に、そこに自身の工夫をプラスし、さらに、トップの位置づけをよく理解してキッチリと演じる。サゲも「こんなこと言うて、気が知れんなぁ」「なに、わては字が知れん」となり、13分でお後と交代となった。

  高座を終えての感想は「初出演で緊張しました。何を演(や)ろかなぁと迷いまして、この噺にしましてん。師匠(六代目松喬)に『トップは長ごう演(や)んなよ、後のこと考えてなぁ。受けるから調子に乗るのが多いけどな・・・』とだけ注意されましてん」とのこと。自身で「生喬まるかじりの会」「出没!ラクゴリラ」「生喬・こごろう らくご道」「石切亭ごくらくらくごの会」「心斎橋寄席〜一献亭〜」「生野弁天寄席」の6ケ所での落語会を開催される勉強熱心の師であり、大ネタにも果敢に挑戦されている。皆様も一度、足を運ばれてみられては・・。

 二つ目は三枝一門から桂三風師。師匠譲りの切り口で演じる創作落語は  若々しい顔と感性で、楽しく元気一杯。当席では『テレショップパニック』『カリスマ美容師』と創作落語を演じられている。そして、これも師匠譲りの『おそずけ』の出囃子で登場し「えー、久しぶりに呼んでいただきまして、・・・」と「売れていない事例」、「師匠への入門秘話」、「吉本興業での扱い」と小咄風のマクラから、「今日は会場の皆様方も参加していただく、いわば参加型落語でございます」と始まった噺はお馴染みの『動物園』。

主人公は暴走族上がりの男(特攻隊長)。この男を昔から気にかけ働き口を世話する恩師に諭(さと)されて、移動動物園でトラの皮をかぶる仕事をすることになって繰り広げられる爆笑噺である。 オーソドックスなストーリーに随所に師の工夫が入って、本日のアトラクション「トラとライオン」の一騎打ちの場面となり司会者が登場する。 ここで、マクラでの『参加型落語』の意味が会場にも判り、三風師の「わすれていませんか?」の一言で場内は大爆笑。ここからは、高座と会場が一体となって一気にサゲとなる(ライオンも暴走族のリーダーとのおまけ)

  三風師は汗を拭き拭き「お客様が全面協力で、気持ちよかったですわ。けど、お客様が大声を出してくれはったんで受けてるみたいですけど出来はまだまだですわ」と実に謙虚な感想であった。

  三つ目は五郎一門から露の新治師。当席へは約八年ぶりの出演。昭和50年に林家染三師匠に入門しはん治その後、五郎門下へ移った師でキャリアも27年で落語一筋で実力派。林家、露のの伝統のこてこての上方落語と一昔前の寄席芸人の匂いを残した芸風、さらに、その人柄の良さとセンスの良さは大いに期待出来る。実は何度か出演の機会があったのだが、スケジュールが合わず8年もたってしまったのである。今回の出演を師匠以上に喜んだ皆様も多い。

 『金比羅舟』の賑やかな出囃子で高座へ顔を出すと、会場の至る所から「新治さん。待ってました」と声がかかる。(当日のパンフでは出囃子を『せり』と紹介したが間違いでした。ここにお詫びし訂正いたします)かけ声に応えて「お声をかけていただきましてありがとうございます。新治でございます」とあいさつして『新治ほんわか噺』とでもいうような世間噺が続く。「笑うことはよいことで、血の循環が良うなって、血圧の高い人は下がる。低い人は適度に上がり、ガン細胞の増殖が抑えられて、イボ疣痔が引っ込むと言われています。反対に体に悪いのが厚生省のデータによりますと寄席の客席で仮眠をとる」。会場全体が揺れるように受ける。さらに、「スポーツの無意味性。特にカーリング、スポーツは力一杯するものなのに・・・」「森首相のクリントン大統領へのあいさつ」「福田首相もええかげんやった」「電車で化粧する女性」「変身する楽しみ」とマクラで笑いをとった後、すっと始まった噺は『七段目』。お囃子との息が合わなければ演じにくい噺であるが、今日の下座は林家和女嬢で、息もピッタリとあって演じることになったのである。

  出来はバツグン。客席からも幾度も拍手が起こり、高座も客席も大満足 「お軽、勧平、平右衛門。そら七段目や」「いや、てっぺんから落ちました」と工夫したサゲ再演を期待するような万雷の拍手であった。

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   **楽屋よもやま噺  (新治師匠のホームページより抜粋)

 十年ぶりに「恋雅亭(れんが亭)」に出してもらいました。市民の手により運営され、250人以上の寄席好きを集める、噺家あこがれの寄席。震災後さらにパワーアップしたそうで、神戸市民の心意気を感じる寄席です。お客さんは、落語好きで、かなりの通の方もおられます。それでいて素直ないいお客。よくうけます。私もはじけさせて戴きました。番組は新作落語3題、古典落語3題という取り合わせです。新作はみなおもしろく、私もお客になって笑ってしまいました。魅力的な新作を作る人達を尊敬します。私もいつか、笑える新作を作って見たいと思います。

 なお、来月は、一門の露の吉次が出演します。どうぞお運び下さい。

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 中トリは「オクラホマミキサー」で笑福亭仁智師匠の登場となる。当席ではお馴染みで紹介の必要もなく、会場全体がすでにホンワカムード。

 「えー、この時期になりますと学生さんの前で演じる機会が増えてきまして、今日も女子高生の前で演じてきましたが匂いが違いますわ。まるで、ビダルサスーンの匂いで、花月はサロンバスの匂い・・・ここは・・まあ、よろしいですわ・・・」とマクラが続き本題、世の中でもっともついてない男の物語『ハードラック』が始まる。

 いつもの仁智流の爆笑噺は紙面では表されない。トントンとテンポよく話が展開し22分の高座に会場は爆笑が渦巻いていた。                 

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   **楽屋よもやま噺  (仁智師匠のホームページ)

  創作落語を積極的に演じられている師匠である。ここでその演題をご紹介してみたい。

「落語道場笑いのタニマチ」の公演順

「スタディーベースボール/53」「健康居酒屋DHA/210」「アフリカ探検/98」「老女A/61」「Do your best!/94」「ハードラック/286」「めざせ甲子園/113」「大阪弁講座/193」「川柳は心の憂さの吹きだまり/244」「うそつき鉄砲B助(?)/130」「恐怖の民宿百物語/136」「自分に逢った男/121」「アイスクリーム/264」

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 中入後は、枝雀一門から桂九雀師。この師匠も常連。師匠譲りの落語は基本の裏付けがある逸品。カブリに相応しい、楽しい爆笑噺を会場全体の期待の中、高座への登場し、始まった噺は『蛇含草』。

  この噺、季節は真夏。暑さの表現は師匠譲りで実にオーバー。そして、冬の食べ物の代表の餅の大食いとなる。枝雀師匠は食い意地の張った主人公に腹を立て、餅箱一杯の餅を食べさすことになるのだが、ここでは九雀師が一工夫。餅の曲食いの演出でも大爆笑をさそい、三百の餅を二つ残して家へ帰ってのお馴染みのサゲとなる。

  東京ではこの噺、『そば清』として蕎麦の大食いの噺であるが、上方では、やはり餅。昔は町内や家中集まって総出で餅をつき、丸餅を作ったものですが、最近はそういう習慣もなくなり、スーパーで買ってくることが多くなった。さらに、日持ちがするということでパック詰めではあるが意外と美味しいのである。しかし、時たま和菓子屋さんの店先で丸餅などを見かけると、昔の年の瀬がよみがえりる。だいぶ歳をとったのか?・・・。

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   **楽屋よもやま噺  (福笑、仁智両師匠の楽屋噺)

高座が下りて一息ついた仁智師匠に向かって

福笑師「良かったで、あの噺、前聞いた時からだいぶ変えてるなぁ」

仁智師「前の方がちょっとくどかったから。よう判りまんなぁ」

福笑師「そらそうや、ちゃんと聞いてるで、君の噺面白いもん。ところで、今日終わったらどう、キューと一杯」

仁智師「あきませんねん。明石の方へ行かなあきまへんねん」

福笑師「そう、後でよかったらおいで、三宮のいつものとこ」

     福笑師匠の行きつけは元町の南京町にあった「レテイシャ」。もう20年以上もの常

連である。最近三宮へ移転した後も足繁く通っておられるのである。体力に自信の有

る方は一度同席されることをお奨めする。真面目な師匠を確認出来るはずである。

もちろん午前様はお覚悟を・・・。

福笑師「そういうたら、今日の番組はええなぁ。古典、新作、古典、新作、そんで、今、、、

『蛇含草』。古典やがなぁ。ここはええで、お客さんの乗りがええわ。わしとピッ

タリや。よっしゃ・・・」

     会場へ到着した途端にネタを繰りだした福笑師匠。気合いをいれて高座の袖に向かわれた。

その師匠の本日の演題は『宿屋ババア』。内容を紹介したいが、ちょっと難しい。筆舌に耐え難い見る落語はこれと言わしめる内容、演出(写真の顔でババアを演じる)そして、会場の乗りであった。大満足の会場から惜しみない拍手でお開きとなった。