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       第284回の記録                                   吉村 高也
       公演日時: 平成14年 4月10日(水) 午後6時30分開演  

             出演者             演目

         桂    團  朝  「寄合酒」
         桂    珍  念  「権兵衛狸」
          桂    梅團冶  「千早振る」
         笑福亭 小  松  「うどん屋」 (アイラブ松鶴付) 
            中入
         桂    枝三郎  「天狗裁き」
    主任    笑福亭 松  喬  「寝床」

 2002年の四月十日に『第284回恋雅亭』が、春本番の水曜日に開催された。

  定刻の五時半に開場。列を作られた多くの熱心なお客様が会場へ吸い込まれる様にご入場され次々に思い思いの席へ。場内は次第に埋まっていく。そして、一番太鼓、二番太鼓(着到)が鳴り定刻の六時半に開演。

  その公演のトップは、米朝一門から桂團朝師。師匠の教育と一門の伝統よろしく基本に忠実に演じる上方落語は各地の落語会でも実証済みで、キャリア16年で、トップとしての登場するとの、なんとも贅沢な顔付け。

 『石段』の出囃子で高座へ登場するや元気一杯で「えー、只今より開演でございまして、トップは私、桂團朝からございます」と簡単に自己紹介し。早速本題の『寄合酒』が始まる。多くの演者が演じるこの噺を基本に忠実にキッチリと演じる(さすが、米朝一門)。さらに、トップの位置づけをよく理解して18分でお後と交代となった。

 二つ目は文珍一門の二番弟子、桂珍念師。名前同様に愛くるしい笑顔と声で演じる落語は悪人は登場しない。性格を表しての出囃子か?『ずぼら』のコミカルな出囃子で登場すると、マクラでのつかみ。

 お馴染みになった感のある『携帯電話』や『猿の運転手』の小咄で場内を大爆笑に誘っての、今日の演題は『権兵衛狸』。  お馴染みの噺のように思われがちであるが、当席で演じられるのは初めてと珍しい噺であった。各師匠連が演題に苦労する中、大穴であった。

 「えー、今日は民話を題材にした実に他愛のない処で・・・。」と始まった噺であるが、師匠のイメージと一致し、ほんわかとした暖かい噺に仕上がっていた。17分でトントンと演じる。 ちなみに当席で過去1回しか演じられていない噺としては『明石名所』『一眼国』『浮世根問』『勘定板』『けんか長屋』『平林』『天狗尺』『道灌』『不精床』『味噌豆』『淀川』などがある。

  三つ目は春團治一門から桂梅團治師匠です。平成9年4月に春秋から現名を襲名し、早や5年。すっかり板に付いた感があり、今回も底抜けに明るい高座を期待する中、出身地の岡山にちなんだ『桃太郎』の出囃子から襲名をきっかけに変えた重厚な『竜神』に乗って登場。さっそく、趣味のSLの撮影秘話からスタートし『千早振る(竜田川)』に入る。当席ではお馴染みの部類に入る噺であるがこの師匠にかかるとまた別の味わいのある噺に仕上がり、至る処で笑いが起こる。マクラも含めて20分の楽しい高座であった。

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   **楽屋よもやま噺  (梅團治師匠とSL写真笑談)

小  生「お早うございます。SL写真撮影は?」

梅團治師「行ってまっせ。この間も十日間、日本全国飛び回ってました。最近は、SLブ

ームでしてね。いろんな線で走らせてますわ。そこで、重要になるのはバック

(背景)ですわ」

小  生「場所の取り合いですか?」

梅團治師「そうでっせ、一つのゾーンに狭い処やったら、2〜30人しか入れませんから。

1日前にはその場所を確保しとかんと」

小  生「そんなに早よう行かんと駄目なんですか?」

梅團治師「そうでっせ。けど、どこへいっても同じ人と会いますしねぇ。栃木の誰々、茨

木の、富山の、と顔見知りも多いでっせ」

  今回は写真集の販売はないそうである。

 中トリは、「小松ちゃん」こと笑福亭小松師匠。癌に勝った不屈の精神  と明るさ、さらにその実力に裏付けされた高座をお楽しみに。今回も出るか「アイラブ松鶴」。と先月紹介した。 元気一杯登場した小松師匠を会場は大喝采で迎える。「えー、お待たせ致しました。生存率15%癌復帰から5年経過致しました。まだ、元気で生きております。そして、今日は嬉しい夜間高校への入学式でございました。夢は現在中学2年の息子と同時に大学に進学することです」と、最近の状況を説明(今日は読売TVが朝からの密着取材。16日火曜日のPM6時から放映された)。

  そして、『アイラブ松鶴』と称するマクラが始まる。『笑福亭流の太鼓の練習』、『マクラ14分、本題1分落語』、『私だけへの松鶴の暖かい言葉』などの立て続けの「思い出話」に会場はドッカン、ドッカンと大受けで、乗って乗っての20分マクラが続く。

 そして、本題は先月の『馬の田楽』と並んでの師匠直伝の『うどん屋』。声や仕草は勿論、唐辛子(とんがらがし)にくっしゃみし、鼻からうどんが飛び出し笑いながらすする処など「晩年の松鶴師匠そっくり」と会場のあちこちで漏れ聞こえる出来の良さで20分。都合40分の高座でお中入りとなる。

 中入後は、三枝一門の実力派で、上方落語界にあっての博学は五指に入る桂枝三郎師匠。会全体で自分の位置を理解されて演じられる師匠だけに、今回ズラッと揃った実力派の中で、その幅広い演題から何を演じていただけるか楽しみであった。出番待ちの楽屋で「何しょっかなぁ。えーと、ネタ付かんようにせなあかんし・・・。『けんげしゃ茶屋』なんか出てないけど、季節を考えると出来へんしなぁ。『天狗裁き』なんかええなぁ。太鼓なんか入れて盛り上げてねぇ」と決めたのかお囃子方ときっかけの打ち合わせに入る。

 そして、東京では柳家小三治師匠が使われている『二上りかっこ』で高座へ登場した桂枝三郎師匠。さっそく、いつもの『枝三郎の世間話』が始まる。これが、また面白い。「えー、今日はお客様は阪神に釘付けでどなたもお越しにならんのでは、と心配しておりましたが、幾千万とお越し頂きましてありがたい限りでございます」「野村夫妻も中が本当は良いので主人が縦縞のユニフォーム脱いだら、サッチーが横縞を着たりして」「あまり明るいニュースのない中で愛子様のご誕生。よろしおましたなぁ。次男さんにお子さまがあって皇太子さんになかって、けど『これであいこやなぁ』ちゅうたりしてね」と立て続け。

  本題は予定通り『天狗裁き』。米朝師匠が復活し、磨き上げた噺をさらに磨きをかけるべく、本筋は外さずに新しいくすぐりをプラスしての口演に会場は爆笑で応える。乗っての高座は30分の力作であった。

  さてトリは六代目笑福亭松喬師匠。その実力は折り紙付きで、今回も忙 しい中、即答での出演快諾となりました。師匠(六代目松鶴)直伝でのど っしりとした、豪放磊落な上方古典落語を、さらにトリとして、何を演じ ていただけるかと楽しみで、師匠自身も楽屋入りから熱気ムンムンで、出 番を待っておられた。

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   **楽屋よもやま噺  (松喬師匠と笑談)

偶然、入口の提灯の前で師匠と遭遇

小 生「あっ、師匠でしたか、お早うございます」

松喬師「お早う。ホームページ用の写真撮ってんねん。日記は毎日更新してんねんでぇ。

大変やけどなぁ。また見てなぁ」

小 生「毎日更新ですか。そら大変ですねぇ」

松喬師「今日のメンバーやけど、もっと充実させなあかんで。わしなんかを三つ目位に出

して、トリは別の人にとってもろて」

小 生「そら、無理でっせ。師匠がトリとらんと誰がとりまんねん」

松喬師「時代やなぁ、どこに行ってもそう感じることが多いねん。わしなんかまだまだや

けど・・・。ああ、そうや、わしのCDの第二弾考えてんねん。なにがええかな

ぁ。最近に演じてて(松喬になってから)、軽くて、短くて、出来のええ音探しと

いてくれへんかなぁ。自費出版やから放送録音でもええからなぁ」

  楽屋での落語談義

松喬師「昨日、東京で『三人会』やってなぁ。『寝床』演(や)ったんや。今日もネタ固め

る意味で『寝床』やろ思てんねん」

小 生「師匠にピッタリでんなぁ。染丸師匠とはちょっと違うやり方ですか?」

松喬師「染丸兄さんのは先代(三代目染丸)直伝や、そっくりやからなぁ。味が濃いから。

ちょっと変えんと」

『東西三人会』は、昭和44年1月に入門した、柳家小里ん(こりん:五代目柳家小さん入門、前名:小たけ)、古今亭志ん橋(しんきょう:二代目古今亭志ん朝入門、前名:志ん太)、そして、松喬の三師匠が、東京と大阪で定期的に開催されて会であり、多くの熱狂的ファンで満席が続いている会である。

枝三郎師匠のサゲを受けて、出囃子が『高砂丹前』に変わる。それを聞いて「よっしゃ」と楽屋から高座の袖で向かい、珍念師に時刻を確認する。

  三味線・林家和女、草尾正子。大太鼓・笑福亭遊喬、締太鼓・笑福亭風喬、笛・笑福亭喬若の面々の囃子に乗って出となる、師匠の後ろ姿は貫禄充分。本日一番の拍手に迎えられ座布団に座る。

「えー、私(わたくし)もう一席でお開きでございまして・・・。」と始まる。そして、「お楽しみと言いますと昔は大店(おおだな)のご隠居さんなどは、浄瑠璃に凝ったそうで、『五色太夫』と呼ばれたそうで、『まだ蒼(青)い。素人(白)浄瑠璃、玄人(黒)がって、紅(赤)い顔して奇(黄)な声を出す』とマクラを振った後、本題の『寝床』が始まる。

  語りたいのに意地を張り続ける旦那、長屋の衆の断りで旦那を怒らせる手代、頭を下げて長屋の衆を集め、旦那を「芸惜しみ」と説得し語るように説得する番頭、さまざまな人間模様を展開する長屋の衆、そして丁稚定吉と登場人物全てが、生き生きと描かれた秀作は30分超。会場全体からわき起こるような大喝采の内にお開きとなった。

松喬師匠の独り言

「マクラの長い二人で時間が押してしもてたなぁ。ちょっと後のことちょっと考えなあかんな。こんな時にピシッとまとめるのもトリの仕事やなぁ。残念やったが、もう5分ジックリ演(や)りたかったなぁ」