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       第280回 公演の記録           吉村 高也
       公演日時: 平成13年 12月10日(月) 午後6時30分開演  

             出演者             演目

          笑福亭 瓶  太    「野ざらし」
          桂    む  雀  「替り目」
          露 の  團四郎  「子ほめ」
          立花家 千  橘  「宗悦殺し」
 真景累ヶ淵より

             中入

          はな   寛  太  漫  才
          いま    寛  大

          
      主任 笑福亭 鶴  瓶 「宮戸川」

いよいよ2001年もあと一回の公演となった『恋雅亭』。

その師走公演は木枯らしが身に凍みる十二月十日の月曜日に開催された。師走の人通りの多い本通り同様、お客様の出足も好調。列を作られた多くのお客様が待ち焦がれる中、五時半に予定通り開場し、会場へ吸い込まれる様にご入場されたお客様は、思い思いの席へ。

場内は次第に埋まっていっての開演を迎える。

  その公演のトップを飾るのは、鶴瓶一門の若大将・笑福亭瓶太師が師匠

との競演で、はりきっての当席三回目の出演。過去の演題は『大安売り』『田楽喰い』とトップらしいネタ。

 師匠の奮闘よろしく落語に邁進する姿勢は今後の大化けを予感させるものがある瓶太師。満員の会場が待ちこがれる中、定刻の六時半キッチリに『石段』の出囃子と拍手に迎えられて高座へ。

「えー、ありがとうございます。ただ今より今年最後の恋雅亭の開演でございまます。まず、トップは三回目の出演で、又、師匠との競演で喜んでおります、笑福亭瓶太からでございます。本当にここは私にとって憧れでございまして・・・。」とマクラが始まる。そして、同人会の特別会員の村上先生のマジックの本の特別販売の紹介を・・。村上先生は元関西TVのディレクターで現在は神戸新聞への芸能の記事を執筆中。落語を心から愛しておられ、当席にとっても良き理解者である。

  続いて、鶴瓶師匠がまだ楽屋入りされていないのを確認して、師匠の物 まねも交えてのマクラで笑いをとる(やや受け)。   

 本題は『野ざらし』。上方では珍しい『骨釣り』として、東京では定番の『野ざらし』として演じられているこの噺の瓶太師は東京バージョン。

誰から口伝されたのかを師に聞けなかったので不明である。小生の薄学であるが、東京の『野ざらし』を上方へ移植したのは月亭可朝師匠ではないだろうか? ここからは想像だが、『野ざらし』の柳好(三代目)↓?↓談志↓可朝↓八方↓?↓瓶太。この想像が正しければ、瓶太師の『野ざらし』は純粋培養である(ちょっとオーバーか)。

  随所に自身の工夫を感じされる演出はあったが、土台は可朝師匠のそれであった。トップから汗を一杯かいての熱演は師走公演のヒートアップを感じさせる高座であった。

 二つ目は各地の落語会への出演回数も多い桂む雀師(故枝雀一門)。 

達者な揃いの一門にあって、他の師匠と遜色のない実力は年に1回のペースでの当席への登場で実証済みでお馴染み深いところ。今回も師匠譲りの爆笑落語を期待する満員の客席からの拍手に迎えられて高座へ登場。

 「続きまして、そこに戒名がかかっておりますが『ひらがなまじりの可愛い名前』・・・。」といつものフレーズで自己紹介。

親子の酒飲みの小咄から、本題の『替り目』へ。亡き師匠も十八番だった噺であるので、む雀師のそれも完全に自身の噺として消化されている。 

飲んだくれの旦那が妻に酒のあてを買いにやらせてからの自己反省のくだりでは、そう感じる人が客席にもいるのか共感の笑いが随所に起こり、大満足の18分の高座であった。

 三つ目は五郎一門の芸風を色濃くみせる露の團四郎師。

昨年、久々の登場での『忍法医者(蘭法医者)』の好演で、再演を期待する多くのファンと本人の希望の声に後押しされての出演。今回も初代春團治からの伝統の味の濃い上方落語を演じてくれることと期待の中、ちょこちょこという感じで高座へ登場。「えー、続きまして・・・。」の声と風貌に場内からはもう笑いが起こる。

 そして、つかみのマクラは子供の話題。これが独特の味わいで実におかしい。シャレとマジの区別が付きにくいうえに、正しいか言い間違いかが不明な演出。さらに、お客様の反応と自身の笑いのツボとの微妙なズレとなんとなくおかしげな高座に会場からは含み笑いが随所に起こる。

 手伝いにきていおられた弟弟子の團六師も袖で吹き出す始末。そして、「兄さん、乗ってはりますわ。この辺は誰も真似出来まへんで。」との感想を述べ、又、吹き出す。

 高座ではマクラから続いて本題の『子ほめ』。

ここからは、いたって真面目?に基本に忠実。叔父師匠にあたる三代目春團治師匠のスッキリとした演出とはあきらかに違い、初代、二代目春團治、そして、師匠の露の五郎の師匠連に脈々と受け継がれているコテコテの純上方風の演出である。

特に師匠である五郎師匠は前座噺の名手。勿論この『子ほめ』も十八番であり、團四郎師のそれも師匠直伝で大爆笑噺に仕上がっていた。

  中トリは、同じく五郎一門から総領弟子の立花家千橘師匠。

過去、『蔵丁稚』『一文笛』『質屋芝居』と大ネタでトリ、中トリの重責をこなされて登場はこれで四回目となる。

 今回も満を持しての登場で、その幅広い演題の中から選りすぐり、舌によりをかけて演じて頂こうと期待がつのる。それは師匠も同じで、今回の出演に際して師匠は二つの演題を用意されての楽屋入りであった。一つは師匠自らの工夫を満載した『天下一浮かれの屑より(紙屑屋)』。いま一つは師匠直伝の『宗悦殺し』である。後者は怪談であり、夏に演じられることが多いが、発端は師走であり、時期的にはおかしくないのである。そして、師匠が選ばれた演題は『宗悦殺し』。本日に前に出た演題などを考慮された結果である。

まず、高座へ登場し、たわいのないマクラで楽しむように笑いをとった後、狙いすましたように本題へ入る。ここからは基本に忠実にじっくりと演じる。と、言うより語るという感じである。会場も聞き入る中、物語は核心部分へ入り、そして、「真景累ケ淵の発端でございます」と演じ終わる。

一瞬、余韻を楽しむような何ともいえない間があって拍手が起こり中入りとなる。

  中入りでは村上先生の本の即売会も開催され、来席の前売券も販売され賑わう中、シャギリが鳴る。

  チョン・チョンと祈が入って中入後は、色変わりとしてはな寛太・いま寛大師匠の登場。

上方しゃべくり漫才をお客様は勿論、演者自身もタップリ楽しもうの高座を期待しての登場となる。「えらい、高いなぁ」とまずつかみの笑いをとる。

  現在のテンポと乗りで演じる若手の漫才と違って、ネタと間でじっくり聴かせる寛・寛師匠のそれは爆発的な笑いはないが、ジックリとそして、継続的に笑いが起こる。ネタ的にはなんと言うことはないのだが、両師匠の乗りに乗っての高座と相まって笑いが増幅されていく。

乗っての高座は延長され、当初の十八分の予定だったのが、二十分を過ぎても終わらない。最後まで爆笑の連続の高座は二十三分であった。

 さて、本年の大トリは、故松鶴一門から笑福亭鶴瓶師匠。今回も大変お忙しい中(当日は4本の仕事有り)、昨年の『子はかすがい』に続いて、本年は『宮戸川・お花半七』とネタを設定しての出演である。

  今回の演題が決まったのは、9月の終わり頃であった。

師匠から小生に電話が「吉村君、今度、『宮戸川』演(や)ろ思てんねん。テープ用意してくれるかなぁ。」とのこと。

「お安い御用」と用意して送ったテープは八代目春風亭柳枝、五代目古今亭志ん生、三代目古今亭志ん朝、五代目三遊亭円楽、そして、五代目立川談志の各師匠連。

そして、1ケ月経ってさらに柳家花禄師匠のそれが加わった。ネタ下ろし(初演)は、ダイエー甲子園店の特設会場で実施された『鶴瓶一門会』であった。

  そして、今回が2回目の口演となったのである。師匠自身が「ここに、標準を合わせて作り上げてきたんや。おそらく、こないだ(鶴瓶一門会)聴いた人はビックリしてるで、今日で完成や」と語っておられたが、独自の工夫が盛り込まれていた。

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     *楽屋 よもやま噺 其の一(三師匠との雑談)**

高座を終えた師匠連に感想を伺った。

瓶太師「えー、大満足ですわ。これで、三回目の出演ですが、私ら一門にとっては、ここ

は聖地ですねん。それも今日は師匠との競演でしょ。嬉しいです」

團四郎師「えー、きっちり、やらしてもらいました。よう、受けましたわ。今度は俄(に

わか)もやらして下さい」

千橘師「乗ってやりましたわぁ。ええ。お客さんや。わたいの会でないとなかなか聴いて

もらいまへんねんけど・・・・。とにかく、ここに出るのん、わたい嬉しいんで

すわ」

寛寛師「よろしなぁ。ここは。わたいら、キッチリ演じる処がありまへんねんホームグラ

ウンドの浪花座も閉まりますし、TVは時間が短いしねまた、頼みます」

  む雀師は、次の仕事へ行ったため話は出来ず。

高座へ登場した師匠。にっこり笑って会場全体を自分の世界へ引き込む。

「えー、ここに出たのがちょうど一年前ですわ。その時えらい目にあいましてん。ご存じの方もいらっしゃると思いますが、中トリで『子はかすがい』やりましてん。何がおかしい。人情噺でっせ。きっちり、30分やって下りてきたら、トリの染丸師匠が来てはりまへんねん。電話したら家にいてはりましてん。エーッてなもんですわ。豊中から小一時間はかかりますやん。カブリの仁福。面白い男だ。『まかしとけ、延ばしたるで』と上がったんはええけど、マクラが滑りますねん。ほんで、すぐ噺に入ってしもて18分ですわ・・・。」

と去年を振り返ったネタから、昔の親は怖かったの話題へ。前出の村上先生曰く「鶴瓶はマクラの天才や!」である。

 そして、『宮戸川』が始まる。全編工夫の跡が見られる秀作である。

@     半七は大阪人で、お花は1年前に東京から引っ越してきたという設定である。これで、

うら若い女性(お花)がコテコテの大阪弁を喋ることなく、半七との会話が進めること

が出来で変な笑いが起こらないのである。

A     東京のそれは、二階の二人の会話が下の叔父さん夫婦に聞こえるのだが、師匠のそれは

聞こえない設定。これのほうがより自然に二人が結ばれやすくなるのである。

B     二階へ上がって横になった二人の仕草に工夫があった。ちょうど腕枕をしたような仕草

で二人の会話が進むことによって、よりリアル感が出てくるこである。  

この三つは師匠の狙いと小生の感想が一致した点であった。 

もう一つ一致した点があった。それは、この噺の原点は八代目柳枝師匠ではないか? という点。どこがどうということはなく、まるで水墨画を見ているような、そんな口演であるのだが、志ん朝、円楽、談志、そして、小朝師匠のどれもその影響を感じるという点である。

  鶴瓶師匠の『宮戸川』は全編笑いの連続、まさしく、『鶴瓶の宮戸川』であった。

  打ち出し後に開かれた鶴瓶師匠を交えての打ち上げがお開きとなったのは、午前2時近かった。

               12月10日 叶 大入