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       第277回 公演の記録           吉村 高也
       公演日時: 平成13年 9月10日(月) 午後6時30分開演  

             出演者             演目

          林家   そめすけ  「ちりとてちん
          桂     米  平  「看板のピン
          桂     文  也  「持参金
          桂     文  枝  「猫の忠信

             中入
          林家    染語楼   「首屋」   
     主任   桂      春 駒   「一人酒盛

九月になって残暑の残る中で十日が近づく。そして、台風も近づく。台風直撃の九月十日の月曜日『恋雅亭』の九月公演が開催された。
その最悪の空模様の中、熱心なお客様が来場される。最終的には百名を超えるお客様であった
(これぞ、落語会の決死隊・『蔵前駕篭』引用)。

  その公演のトップを飾るのは、染丸一門から林家そめすけ師(キャリア十年)。几帳面な一門にあっては、やや異色の芸風のそめすけ師であるが、トップでもあり緊張の中、定刻の六時半キッチリに『石段』の出囃子で当席二度目の出演。まだ緊張の残る中、高座へ登場。
  しかし、高座に登場するやいなや、いつものそめすけ師の元気一杯の芸風に戻る。「えー、トップバッターは、私、林家そめすけでよろしくおつき合いを願っておきます・・」とあいさつし、「台風ではございますが、この会のお開きの頃には雨も上がっておりまして・・・
(場内から『ほんまかいな』の声と爆笑)。いやっ、ここは台風でも極楽でして・・・・・」と、三泊四日の大揺れの船での落語会の話題で笑いをとって本題へ。台風の中のご来場のお客様は最初から反応は最高潮(この乗りはトリの春駒師匠まで続く)。

 今日の演題は林家のお家芸の『ちりとてちん』。若手らしい元気一杯の熱演に場内も笑いの連続。自身の工夫のギャクも散りばめられた高座はマクラ5分、本題14分の会心の19分であった。

  二つ目は、勉強熱心の米朝一門の伝統を受け継いだ正当派。当席の常連でもあり、その愛くるしい笑顔で演じる爆笑落語で当席にもファンも多い桂米平師。楽屋入りも早く今日の演題をネタ帳を見ながら検討する。
  さらに、一番太鼓、二番太鼓(着到・ちゃくとう)を担当するのも一門の伝統(伝統を受け継いでいないのは体型だけか・失礼)である。
  ノッシノッシという感じで、まん丸い顔一杯の笑顔で高座へ登場。「続きまして桂米平のほうでおつき合い願いますが・・・」と始まったマクラは『沖縄三泊四日、二万円の旅』でひどい目にあった話題。これが、又爆笑の連続。

 そして、「これも一種の博打ですわ」と本題の師匠直伝のキッチリした演出の『看板のピン』がスタートする(ここらも見事)。その一言、一言に、仕草の一つ一つに会場全体からは笑いが起こる。
トップと同様で19分の爆笑高座であった。

 

  ***  楽屋 裏ばなし(米平師と恋雅亭) ***

 米平師は当席常連でもあり、二つ目では五本の指に入る出演回数。今回で9回目の出演である。(実は震災が発生していなければ平成7年2月公演に出演予定だったので10回と数えられるのであるが) 演題も『子ほめ』がダブルのみである。

その全データを紹介すると、

@昭和58年4月・第 61回   『桃太郎』

 記念すべき初出演は、開席5周年記念公演でのトリの米朝師匠の前座として師匠直伝の噺を演じる。

A平成 1年8月・第136回   『子ほめ』  2回目は5年後。トップとして出演。

B平成 5年4月・第180回   『子ほめ』

   3回目も記念公演(開席15周年記念公演・昼の部)。今回も米朝師匠ざこば師匠の前座として登場。

C平成 7年7月・第203回   『犬の目』

  4回目も記念公演となる震災再開2回公演でトップの重責を果たし師匠直伝を披露。

D平成 8年2月・第210回   『七度狐』

  ランクは一つ上がって、今回から二つ目で登場となる。

E平成10年2月・第234回   『つる』

F平成11年3月・第247回   『猫の茶碗』

G平成12年9月・第265回   『試し酒』

H平成13年9月・第277回   『看板のピン』

と、平成10年から今回までは、1年間隔のハイペースでの登場となる。全演題共に師匠直伝のキッチリした噺を披露。

  三つ目は、文枝一門から「自称・師匠の落語マネージャー」桂文也師匠が久々の登場。今回も茶目っ気タップリな若々しい高座は健在と会場も期待の中、腕を痛めたと見えて包帯を巻いての登場となる。「えー、滅多に落語しませんので、会には出ません。私の落語聴いた事の有る方はよっぽどの通(つー)というか物好きというか・・・。さらに、腕が動きませんので出来る噺も限られておりまして、・・・」と始まった噺は『持参金』。
そう断られるとこの噺は登場人物も少なく(二人での会話が続く)、仕草もオーバーではない。逆に難しい噺である。その『持参金』をキッチリと演じ、師匠にバトンタッチとなる。

 中トリは、上方落語界の重鎮五代目桂文枝師匠。昭和5年生まれの師匠も今年71歳。年齢を感じさせないその若々しい高座は健在で、今夏の『東西落語名人選』では『茶金』と『崇徳院』を、過去当席では『悋気の独楽』『船弁慶』『宿屋仇』『軽業講釈』などの大ネタを演じられ、今回も何を演じていただけるかと楽しみな中、『郭丹前』の名調子で高座へ登場。登場しただけで、舞台が締まるるマクラを簡単に振ったあと、当席では初演となる『猫の忠信』が始まる。

この噺は笑福亭の始祖と言われ、歴代松鶴師匠の師匠筋に当たる松富久亭松竹(しょうふくていしょちく)師匠作。
  35分にも及ぶ熱演は、高座を降りてこられ、「いやー、今日は喉が痛とうてなぁ」のコメントが信じられない、小生が説明するまでもなく文枝十八番の名演であった。

 中入後は、「市ちゃん」こと四代目林家染語楼師匠。
当席常連師匠ですので皆様には説明は不要。今回も『食堂野球』『市民税』『青空散髪』か。それとも、師匠(先代染語楼)の創作落語かとワクワク。

  中入り後、『鞍馬』の名調子が鳴る中、ピンクの紋付きの染語楼師匠は、「押してるし、トリの駒ちゃんも張り切ってるし、わたいはトントンと軽く『首屋』」と一言小生に言い残して高座へ。

「えー、染語楼でございまして、染語楼と申しましても決して市川ではございません。林家でございまして・・・・」といつものフレーズで笑いを誘う。
「えー、本日はトリの歌之助兄さんが緊急入院で・・・、よう酒飲んではりましたからねぇ、あの兄さんは、前回も入院の時にレントゲン見ながら先生から『あれ、膵臓あれへんで』ちゅうて言われてましたが・・・。これを我々は『天罰覿面』と呼んでおります」。「あの人が落語会に出演しますと何かが起こります。皆様よくご存じな処では『千日デパートビル火災』『天六ガス爆発事故』が起こっておりまして、今回も『歌さんが恋雅亭へ出演するで』『何が起こるんやろ』と我々の関心事でしたが・・・、今回は台風を引き寄せました
(場内爆笑)。
 しかし、あの人には災いは起こりません。ですから本日お越しの皆様方には災いは降りかかりません」とのマクラに会場の反応も絶好調。

 乗り乗りの師匠は、好きな小咄と断って四つ(『鏡と私』『魔法の鏡』『通訳猿』『猿の運転手』いづれも小生命名。ややネタばれの感有り)を披露する。
これが実に面白い。噺の間と師匠の風貌に会場のお客様が乗っかって会場は大爆笑。まさしく生の落語での真骨頂である。            

  それと『小咄ではサゲは短いほうがベストである』を証明する洗練された演出であった。「さて、落語の方は珍しいだけで面白くない『首屋』でございまして」と楽しむように12分で演じきった。いつもながら見事な中入りカブリの高座であった。

   トリは『白拍子』の出で桂春駒師匠が登場。本人曰く「この頃、突発的な代演が続いておりまして、この会も長いことやっておりますが珍らしいことで・・・。」と断って演じ始めたのは『一人酒盛』。
 この噺は今年の『春駒の会』に用意した演題。出番前に「『一人酒盛』か『船弁慶』のどっちかや今日は。ここの反応が参考になんねん」と語っておられ文枝師匠の『猫の忠信』を確認され、この演題となった。      

  この噺は故松鶴師匠と米朝師匠の演出にと二分されるが、春駒師匠は米朝師匠直伝の演出。松鶴師匠の酒飲みがウダウダと語る演出ではなく、噺の場面設定をキッチリとし、展開もトントンと進む米朝師匠の演出(直伝である)。壁紙を貼る仕草も見事(拍手有り)で、五合の酒をテンポよく飲み干して、繰り返し多いがダレ場を感じさせない名演でお馴染みのサゲとなった。