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       第276回 公演の記録           吉村 高也
       公演日時: 平成13年 8月10日(月) 午後6時30分開演  

                『怪談噺特集 お化けも出るでぇ!』

             出演者             演目

          笑福亭  た  ま  「ろくろ首
          林家   染  雀  「化物使い
          桂     米  左  「皿屋敷
          桂     春  駒  「化猫

             中入
          旭堂    南  鱗   「恨みの片袖」   
     主任  笑福亭  福  笑  「怪談 じたじた

 猛暑。猛暑の連続の続く八月十日の金曜日に『恋雅亭』の八月公演が開催された。世間は夏休み、お盆休みモードでもあるが、前売券、当日券、そして、会員様(今年に入って毎回五十人を超えるご来場であったが、今回は六十人超)のご来場で、お客様の出足はいつも通り。
 列を作られた多くのお客様が待ち焦がれる中、五時半に予定通り開場。一部を黒幕で装飾した会場へ吸い込まれる様にご入場され、思い思いの席へ。場内は次第に埋まっていく。

  その公演のトップを飾るのは、福笑一門の総領弟子、笑福亭たま師。
京都大学落語研究会出身の有望株で、出番のない当席へも手伝いとして皆勤。袖から熱心に師匠連の高座を見つめる勉強家である。
 今回は、特例扱いで、多くのファンの熱望の中『ろくろ首』で初出演となった。いつも通り一番に楽屋入りし、楽屋の準備、二番太鼓を打ち、熱演に期待の集まる中、定刻の六時半キッチリに『石段』の出囃子でドキドキの初出演の高座へ登場する。

「えー、トップバッターは、私、笑福亭たまでよろしくおつき合いを申しておきます・・・。
今日は怖い噺の特集でございまして、多いに笑って頂きますように。私は受けけないと師匠が怖い。」とあいさつし、トップらしくさっそく本題へ。若手らしい元気一杯の熱演に場内も笑いの連続。
約十三分の高座であったが、本人いわく「いやぁ、緊張しましたわ。ここは憧れでした。だいぶ噛みましたけど・・・」と大満足の感想であった。

  二つ目は染丸一門より林家染雀師(キャリア九年)。勉強熱心の一門の伝統を受け継ぎ若手正当派である。
「えー、私の方はこういう立派な処に出していただける身分ではないんですが、この顔立ちと体型です。おいおい出演の理由も判っていただけると思いますが・・・又、後で登場します。」と自己紹介。
 そして、「プログラムには『七度狐』となっておりますが、六月に九雀さんが演(や)ってはりますので、ネタを替えさせていただきまして」と断って『化物使い』を演じ始める。

  この噺、以前、笑福亭鶴瓶師匠が演じられた時にも書いたが、東京の故三代目桂三木助師匠らの十八番として演じられている。主人公は人使いの荒い隠居さんが新しく引っ越した家に現れる化け物(たぬき)に用事を言いつけるストーリーであるが、鶴瓶師匠が落語作家の小佐田定雄先生の脚色での協力を得て、純上方風に移植して演じられた。
  染雀師の演じる『化物使い』も随所に鶴瓶師匠直伝であることを感じさせれる演出。
主人公も長屋に住む中年夫婦で、安い家賃の家を探して引っ越してきたのはいいが化け物が出るとのこと。怖がった嫁さんを実家に帰して残った人使いの荒い主人のところへ化け物が出てくる・・・・。  
 サゲも鬼太郎、子泣き爺、砂かけ婆、一反木綿、ぬらりひょんらが登場してお馴染みの言葉でサゲとなる。

 三つ目は、米朝一門から桂米左師。演じる怪談噺は、師匠直伝の『皿屋敷』。お馴染みの噺であるが、欠かせない演題である。                

「えー、続きまして私の方は『米』の字があります通り、米朝一門でございまして・・・。
先程の染雀さん。大変な大学を出ておりまして、なんと大阪大学文学部でございます。さらに、トップのたまさん。元気の良い高座でございましたが、彼がなんと、京都大学経済学部卒という・・・アホでっせ。我々の高い税金を使って学校出てやる商売ちゃいまっせ・・・」と前出の二人を紹介し、続いて師匠である米朝師匠の最近の元気で、たちの悪い酒飲みの状況をネタに笑いをとってから『皿屋敷』が始まる。  

  この噺は、師匠直伝とあって多彩な登場人物や場面転換も達者に演じ、ツボツボでは会場から大きな笑いが起こる。発端からサゲまでキッチリと30分の高座であった。

中トリは、春団治一門から桂春駒師匠が登場。
先月もスケで『抜け雀』を演じられた師匠であるが、今月はチョットばかりゾクッとする『仔猫』。この噺、サゲは判りにくいが、ストーリーは面白いく、もっと演じられてもよいと思うのだが、春駒師匠が高座で言われていたように「上方落語で最もキショイ(気持ちの悪い)噺」であるのか、又、カットする箇所も少なく時間を要するのかあまり演じられていない。

 春駒師匠もマクラもあまり振らずに本題へ入る。本題も型通り崩さず、船場の情景を彷彿とさせ、場面転換、話題もトントンと変わり飽きさせない。30分の高座であった。

 中入後は、本格怪談噺を講談で! 旭堂南鱗演の『江島屋騒動』。
この噺は三遊亭円朝師匠の創作『鏡ケ池操松影(かがみがいけみさおのまつかげ)』が正式名であり、その最も怖い部分の抜き読みである。
  大太鼓に送られて登場した南鱗先生。「えー続いて講談の方でございまして、それも本日は怪談ということで・・・」と挨拶。
「しかしながら、わが旭堂一門には怪談噺が伝わっておりません。なぜかと申しますと・・・。」と、一門の先輩が高座で怪談をやっている時に幽霊を見てと事情説明し、東京の講談界からの移植噺として『江島屋騒動・恨みの片袖』が始まる。

  落語とはまったく違う口調での怪談噺は迫力満点。場内の雰囲気も高座への一点集中となり、咳払い一つ聞こえない程、聞き込んでおられるのがよく判る。「・・・・・、『江島屋騒動、恨みの片袖』と題する一席の抜き読みでございます。」で大喝采の中、高座をトリの福笑師匠に譲る。

 八月公演「爆笑怪談噺特集」のトリとして、笑福亭一門から笑福亭福笑師匠が登場し『じたじた』を演じる。
  小生も聞いたことのない題名であり楽しみな中、さらに楽屋の準備も?完了した中で高座へ登場。

「えー、私、もう一席の処でございまして・・・。」とあいさつした後、「えーただ今は講談でございまして、よろしいなぁ。やっぱり、ああいった口調は怖いですなぁ。落語や浪曲やったら、ああいう風にはいきまへんなぁ・・・」と三つの話芸の比較をやって笑いを誘う。
「えー、私事ですが、三日前にすずめ蜂に二箇所、刺されましてえらい目に遭いました。血清をうって事なきをえましたが、医者がつきっきりですねん。『蜂に刺されたんは大丈夫やけど、血清にショック死する患者さんがおりまんねん』ですと・・・。早よ言えちゅうねん」(会場大爆笑)

 そして「えー、この噺は、時は大正末期でしょうか、船場から始まりますが・・・・」怪談『じたじた』が始まる。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

  さて、怪談『じたじた』とは? 当日ご来場の会員様や、多くの落語ファンはお気付きだと思うが、この噺は師匠の創作ではなく、六代目松鶴師匠の十八番であった『饅頭怖い』の一部分の怪談の部分の抜き読みである。

農人橋から身投げした女が濡れ草鞋で歩く音、じたじた。もうお解かりのことであろう。

 その部分をゆっくり、ゆっくり(小生にはそう感じた)演じられる。後で師匠にお伺がいすると「ここ(恋雅亭)のお客さんは、笑いへの反応がええから、今日はちょっと早めに演じたんや。よそでさら(落語をあまり聞いたことのないお客様が多いこと)の場合はもっと探りもって演(や)るからなぁ」とのこと。

  それに合わせて場内は次第に暗くなる。それも、次第次第に。ここらが非常に難しい処で早いと場内がザワザワし、演者が演じにくいし、遅いと感じが出ないのである。

師匠の感想は「場内の照明の落とし方。よかったなぁ。場内もザワつかへんし、ああ上手いことできへんで・・・」とのこと。

  そして、女の「さっき助けてやろうとおっしゃったお方へなぁ〜」からドロドロと太鼓が鳴り、場内は完全に暗転。

生首(??嬢)やお化け(染雀師)が登場して客席を脅かし、場内が明るくなって「さて、怖ろしき(チョン)執念じゃなぁ」とお開きとなる。

 

  ***  楽屋 裏ばなし(怖がりの福笑師匠) ***

 今回トリの福笑師匠の楽屋入りは驚くほど早く、会場前。楽屋入りするや、高座の後ろにお守りを貼る。そして、ネタ繰り(本日演じる演題を事前に練習すること)始める。

 楽屋入りされた師匠がネタ繰りをされることはそう珍しいことではないが、場所は、定番の楽屋外の地下への踊り場ではなく、楽屋内のちょっと離れた場所。ここでは楽屋での談笑が聞こえ集中出来ないのだが?

  楽屋雀が集まって談笑(もちろん、輪の中心は福笑師匠)。しばらくして、師匠がスッと離れてネタ繰りを始める。気を遣って楽屋雀連も楽屋から退散し、高座袖へ・・・・。

  そこへ福笑師匠が近づいてくる。

福笑師「君ら、なんで出ていくねん」

楽屋雀「師匠のネタ繰りの邪魔にならんようにと思って」

福笑師「かまへんねん。一人にしたら怖いがな」  チャンチャン