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       第275回 公演の記録           吉村 高也
       公演日時: 平成13年 7月10日(火) 午後6時30分開演  

                 
出演者             演目
   林家 花 丸 「たぬき」
   月亭 遊 方 「奇跡のペンダント」
   露の 團 六 「西遊記」
   桂  春 駒 「抜け雀」
   桂  福團治 「南京屋政談」
    
中入   
   桂  雀 々 「さくらんぼ」
主任 月亭 八 方 「蛇含草

  梅雨明け前であるが、好天が続いた七月十日の火曜日に『恋雅亭』の七月公演が開催された。平日でもあるが、前売券、当日券、そして、会員様で、お客様の出足はいつも通り。

列を作られた多くのお客様が待ち焦がれる中、五時半に予定通り開場。

  その公演のトップを飾るのは、染丸一門から林家花丸師。

はんなり、もっちゃりの一門の伝統を受け継いだ、その芸風は当席でも既に多くのファンを持つ、平成三年入門の有望株である。

今回も熱演に期待の集まる中、定刻の六時半キッチリに、『石段』の出囃子で高座へ登場する。「えー、トップバッターは私、林家花丸でよろしくおつき合いを申しておきます・・・。」とあいさつし、自分の好みのアイスクリーム(棒付きのラムネ味)の食べ方の失敗談。呉服屋に夏物の反物を買いに行き、落研と間違えられた恥かき話で笑いをとってから、本日の演題の『たぬき』が始まる。

 この噺は『狸の賽(たぬさい)』として前座噺として演じられることが多いが、花丸師は、狸がお札に化けて恩返しする『狸の札』から、兄貴の男児出産の祝いに鯉に化けた狸を持っていったからさー大変・・・『狸の鯉』である。随所で大いに笑いをとって、『狸の賽』まで行かずにトップの重責を無事果たした二十分であった。

  二つ目は八方一門より月亭遊方師。キャリア十九年で、自身の工夫の創作落語と師匠譲りの独特の芸風。さらに、そのキャラクターを生かしいての高座も板に付いた感がある師である。

今回も、そのキャラを生かしてのマクラからスタート。

  いかがわしい商品を紹介する近所のおばちゃんに騙されると判っていて、断り切れず買わされて失敗した話や、エビスさんの笹が触れたともめる二人の男の話題と本題に関連する話題。

 そして始まった本題『奇跡のペンダント』が始まる。舞台は現代。口調も現代で、噺は進む・・・。

本人曰く「いやー、今日も噛んだわ」と反省の弁。噺自体は面白いが、まだ消化されていないのかトチリも多い。それを照れながら演じるのが遊方師の芸風か・・・?。       

  紙面に紹介された「奇跡のミラクルウルトラペンダント」の文面を読んで展開する会話は繰り返しの面白さと相まって、会場は理屈なしの爆笑の連続。何となく、ほんわかした三十分の高座であった。

 三つ目は、五郎一門から地元神戸出身の露の団六師。

個性的な一門にあって、一門の知恵袋の位置を占めている師匠が繰り広げる上方落語は多くのファンを引きつけている。 

その師匠が今回演じる演題は何か? と客席の期待の高まる中『かじや』の小気味よい出囃子で長身を折り曲げるように黒紋付で登場。         

「えー、続きまして出て参りました露の團六でございまして、知ってる方は知っておられますが、知らん方はこっから先も知らんという・・・」とのいつものフレーズからスタート。本日の演題は『西遊記より、金角・銀角の巻』。

この噺は團六師匠の露の五郎師匠が昭和30年代に創作した噺。この噺と『西遊記 落胎泉』を五郎師匠も演じられたが、最近は「このごろ、とんとんとテンポ良く語らなあかんねんけど、あかんわ。もうやれへんねん。わしの全集出すときはええ時の、音貸してなぁ」と、小生に語っておられた。その噺を師匠の原作に忠実に、自身の工夫や小道具にふんだんに使った演出に、会場の反応は大爆笑あり、沈黙あり。

当たるギャグあり、滑るギャグありの三十分であった。

  ここで、時間はいつもなら『お中入り』となる。八時十分前。出囃子は『白拍子』となり、桂春駒師匠の登場。出囃子が鳴る中、お茶子さんによって名ビラが張られる。当席ではイレギュラーな状況である。         

  ***  楽屋 裏ばなし  ***

  この日の八方師匠のスケジュールが発端となった今回の長講公演。

朝日放送の深夜番組の録画撮りが当日あった。それも、開始は夜の七時からのスタートである。どう短く終わったとしても二時間後の九時。当席への到着は九時半を廻ってしまうのである。

  対策は、@各演者が出来るだけ長演とする。A演者の数を増やす。であった。

  花丸師「『たぬき』をタップリ演(や)らしてもらいました。ここでこんなに時間あると

はラッキー。勉強になります」

  遊方師「創作をいつもよりゆっくり目に。お客様の反応を待ってかぶさず演(や)りま

した。ちょっと噛みなしたけど」

  團六師「わたいの噺で、一番長い噺ですわ。師匠が昭和三十年代に創りはった噺を私な

りにアレンジしてますねん。今日の受け方では、まだ発展途上ですわ」

と、三師の感想であった。

  高座へ登場した春駒師匠「えー、私がここへ出てきたということわ・・誰か遅れているのであります・・・。昔はよくこういうことはあったもんだそうで・・・。いとこい先生

(夢路いとし・喜味こいし)に聞きますと『最高は一時間半も延ばした』ちゅうことで・・・。もっとも私にはとても無理ですが・・・」とマクラで出てきた理由を説明。

 そして、始まった噺は『抜け雀』。

 この噺、元は講釈種に属し、東京では古今亭志ん生、志ん朝。金原亭馬生の三師匠(親子)らの多くの演者がいる噺であり、現在でも独演会や寄席のトリなどで演じられることが多いが、上方では桂米朝師匠の名演が光る噺である。勿論、春駒師匠は米朝師匠直伝である。

 その春駒師匠は、舞台を小田原の宿におき、一文無しの名人の絵描きが宿賃にと、描いた雀が絵から抜けだし、千両の値が付く。さらに、その父親が鳥かごを描く。これにさらに千両上積みの二千両の値が付く。お馴染みのお話。

登場人物が大阪弁なのも、これも愛嬌であると感じさせる、春駒十八番の三十分の高座であった。

 中トリは、春団治一門の筆頭弟子、上方落語の重鎮でもある桂福団治師匠が『梅は咲いたか』の名囃子でゆっくり、ゆっくりと高座へ登場すると会場からは一段と大きな拍手が起こる。

 そのどっしりとした高座はお馴染み。この師匠が高座へ登場するだけで、会場のあちこちで笑いが起こるのは期待の表れであろう。

元気者揃いの出演者の中トリに、この師匠が座るだけで公演に重みが加わる。

  高座へ登場した師匠「えー、暑いでんなぁ(小笑)・・・・。たまりまへんで(中笑)・・・・。けどよう、お客さんもよう辛抱してはりまんなぁ(大笑)・・・・。落語も五つも聞いたら当たりまっせ(爆笑)・・。」と一言、一言に場内は反応。楽しむようにマクラを振った後、スッーと本題の『南京屋政談』へ。    

  今回のイレギュラー公演。楽屋で師匠に長演をお願いした。

福團治師匠は、「よろしいで、ここのお客さんはキッチリ聞いてくれはるから・・・。さあ、何、しまひょかなぁ『住吉駕篭』をきっちり演(や)ったら40分・・・。けど、同じするんやったら・・・・。」と自信の人情噺の口演となったのである。

  師匠の人情噺は、夏向きの『南京屋政談』『藪入り』。冬向きは『ねずみア穴』『しじみ売り』を当席で演じられておられる。            

  この噺は東京では『唐茄子屋政談』と呼ばれる江戸落語の大物。

六代目三遊亭円生、五代目古今亭志ん生、三代目三遊亭金馬、八代目林家正蔵、十代目金原亭馬生師匠らの故人や当代古今亭志ん朝、古今亭円菊師匠ら多くの名人・名演が耳に残っている。

 上方では福團治師匠が東京から移植され演じられている。当席では昭和59年7月の第76回公演が初演。今から16年前であり、今回で三度目である。

  語りこんだ噺であるだけに出来も最高。

じっくり、じっくりと聞かせる高座に客席も聞き込んでいるとあって、咳払い一つ聞こえない。八方師匠の到着を知らせる「チン」の合図も聞こえない程の熱の入った高座は途中で切ることもない。発端から幕切れまで、40分であった。               

  ここで、「お中入りーーーー」となる。

主任の八方師匠の到着もあって中入りは五分。短い片シャギリ、チョンと祈が入って『新かじや』の囃子で(最近は師匠の出囃子の『昼飯(ひるまま)』も使われるが)、故枝雀一門の元気印、桂雀々師匠がいつもの派手な顔で登場。笑顔一杯、サービス満点の高座は皆様お待ちかね。亡き師匠譲りの大爆笑高座がスタート。

「えー、私の方は・・・・・皆様、怒らず付いてきて下さい」と、始まったのは、落語の中の落語『さくらんぼ(あたま山)』である。          

この落語をここまで面白くしたのは枝雀師匠。

 その師匠譲りの演出も「頭のテッペンにおひさんが、カッー」のお馴染みのフレーズも随所に入り、爆笑の連続。途中でははめものもタップリ入る。お囃子方との息があわない処もあったが、これも演出か?

 声を飛ばしての熱演で、汗をブルブルかいた20分であった。

  七月公演のトリは、月亭可朝一門から月亭八方師匠。過去、当席の高座では『高津の富』『始末の極意』『軒付け』などの上方古典落語や『エコロジー落語・孫』や『ザ・ダイエット』の創作落語と幅広い名演・好演の連続である。

  高座へ登場した師匠。「えー、お待たせいたしまして、ここ(恋雅亭)へは一年に一回のペースで出させて頂いておりますが、たしか昨年も同じようにご迷惑をおかけしましたが、一年というのは早いもんで、早いと言えば今年の阪神も早かったですわぁ。例年やったら4月に始まって梅雨に終わるんですが、今年は3月に始まって4月に終わってまうねんもん」とお得意の阪神ネタ。場内は待ちかねたように大爆笑。

 暑い夏の話題から始まった本日の演題は、師匠十八番の『蛇含草』。

十八番だけに手慣れた噺とあって、ツボツボで大爆笑を誘う。

特に餅の曲喰いの処の仕草では手を叩いての大受けとなる。時間が押していても手を抜くことのない八方師匠の高座は25分にもおよび、場内も大満足。終演時間を1時間以上オーバーした七月公演であったが、大いに盛り上がった七月公演であった。