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       第274回 公演の記録           吉村 高也
       公演日時: 平成13年 6月10日(日) 午後6時30分開演  

                 
出演者                演目
   桂   文 春 「花色木綿」
   桂   福 車 「半分垢」
   桂   文 喬 「寝床」
   笑福亭 仁 智 「老女A」
    
中入   
   桂   九 雀 「七度狐」
主任 笑福亭 松 喬 「壺算」

  六月十日の日曜日に『恋雅亭』の六月公演が開催された。『今日は「伝統の阪神巨人戦」「サッカーの決勝戦」のTVでの放映があり、誰もお越しにならんのでは?』と楽屋雀の危惧の声をよそに、お客様の出足はいつも通り。列を作られたお客様が待ち焦がれる中、五時半に予定通り開場。

 そして、定刻の六時半キッチリに、トップを飾って文珍一門のから桂文春師が『石段』の出囃子で高座へ登場する。

前名の文時(ぶんどき)から改名し、一段とどっしりとし、同時に独特なキャラクターの落語も板に付いた文春師であるが、当席ではトップとあって、やや緊張ぎみ。「えー、トップバッターは私、桂文春でよろしくおつき合いを申しておきます・・・。」とあいさつし、さっそく本題。お馴染みの『花色木綿』がスタート。

 この噺は、東西を通じてよく演じられ、笑いも多い噺であり別名を『出来心』。そのお馴染みの噺を、やや現代的な口調と表現方法であったが、文春師も大いに笑いをとり、トップの重責を十五分無事果たした。

  二つ目は福團治一門より桂福車師(キャリア十九年)。古典と新作の両刀使いと幅広い芸風が師匠譲りの福車師。当席でも『無い物買い』『借家怪談』『寺うどん(創作)』『強情灸』とその片鱗を見せる。今回もと期待の集まる中、『草競馬』の軽快な出囃子で高座へ登場。拍手の多さは期待の表れか。

 まず、「噺家の数(東西で550名)」を、現役東大教授数や白ながす鯨の数と比較して、その希少価値をアピールし笑いをとる。さらに、数の少なさ比較で「一年を二十日で暮らす・・・」と昔の相撲取りの話題へ、そして、さらにつなげて本題の『半分垢』へ。

  この噺、別名を『富士の雪』とも言うが、この名前の方がサゲが判らないからであろう。

お相撲さんの出てくる噺としては、以外と珍しく、時間も十五分以内とあって東京の寄席(持ち時間十五分内)と違って、持ち時間が比較的長い落語会 では『花筏』や『鍬潟』などと違って敬遠されるのか?口演回数も少ない。

  その噺を福車師は基本に忠実に、自身の工夫を加えて演じる。師の雰囲気とおかみさんを重ねると面白いとあってか場内からはクスクスと笑いが起こる(福車師の頭に女性用のカツラを着けると、どこかにいそうな女性に・・・)。

 そして、その笑いは、サゲの「ああ、見えましても半分は垢でございます。」でピークに達して大爆笑となった。

マクラも入れての十五分は、実に内容の濃い充実した高座であった。『平林』『寿限無』『味噌豆』などと共に軽い噺であるが、こういう噺こそ、力量がいり、難しい噺である。再演を期待したい熱演であった。

  高座は変わって、文枝一門から地元明石市出身の桂文喬師匠の登場。  

三枝、きん枝、文珍、文太、小軽、文福、文喬・・・と続く、個性的な文枝一門で知恵袋の位置を占めている師匠であるが、昨今、豪放磊落な芸風が加わりファンを引きつけている師匠でもある。

・・・・・・・・・・ 楽屋裏話・其の一   文喬・仁智師匠との笑談・・・・・

小 生「お早うございます。元の体型に戻りはりましたねぇ」

文喬師「そやろ、薬飲んで、1年前より20キロ体重が減ったからね。けど、今も毎日
           飲まなあかんねん。やっかいな病気やで」

仁智師「けど、そない痩せたら病気ちゃうか?」

文喬師「そやから病気や言うてるやろ。甲状腺異常や。けど、君も頭、病気やろ。
           薄なってるで」

仁智師「・・・・・・・」

  その文喬師匠の高座が始まる。これが実に面白い。

そして、趣味の話題から入った演題は『寝床』。故枝雀師匠ばりの、ややオーバーアクションの熱演に場内は爆笑の連続。当席では近年、この噺を染丸、歌之助、仁福師匠が熱演・好演されたが三十一分の文喬師匠の『寝床』も、その師匠連と肩を並べる出来であった。

  その余韻が残る中、中トリは、仁鶴一門の筆頭弟子、笑福亭仁智師が、いつもの通りフォークダンスの名曲『オクラホマミキサー』の出囃子で登場。先月の会報で「昭和四十六年入門で、同期には、桂雀三郎、桂文太、桂春駒と実力派がズラリ。今回も自作の創作落語を引っさげて中トリの重責を果たす。そのとにかく面白い高座を皆様でお確かめ下さい。」と紹介したが、まさにその通りで、のっけの「えー地味な着物で・・・(実際は黄色の原色の紋付き)」と、つかみから笑いをとる。

 ・・・・・・・ 楽屋裏話・其の二  仁智・文喬師匠との笑談 ・・・・

  生「おはようございます」

仁智師「こないだは、お世話になりまして・・・」

仁智師匠がインターネット上のファンから頼まれた仁鶴師匠演の『アナウンサー志願』のテープダビングのお礼である。(小生もこの噺は1テイクしか持っていない仁鶴師匠の珍品である)

小 生「師匠、今度は英語落語を?」

仁智師「そやねん。うかっと言うたら現実になってなぁ。わしの持ちネタ考えたら
         『老女A』が一番面白そうやから、それに決めてんけど・・・」

文喬師「創作の英語落語て、どないして作るの?」

仁智師「これ、以外と手間かかるねんで。英語は標準語やろ。大阪弁に変換するのが難儀でな。
       息子に手伝どうてもろてなぁ。ほんで今日はその日本語版やろと思て。ここ(恋雅亭)は、
       よう出してもろてるけど、それでも、平成四年以来の九年ぶりや。覚えてるかなぁ」

文喬師「兄さんは、多少間違がうほうがお客様喜びまっせ」

仁智師「そらそや。・・・・・・なんでやねん」

  仁智師匠の一人時間差ボケで会話はお開き

    そして、仁智師匠不朽の名作『老女A』の九年ぶりの再演となった。今回の口演も、ややたどたどしく、そして、間違ったか?、忘れたか?と、お客様をヒヤヒヤさせて、実はそうでないところが実に面白く、笑いをとる仁智師匠の芸である。(小生は芸と思っているが、案外忘れておられるかもしれないが・・・)

 とにかく、楽しい、楽しい仁智ワールドの二十二分であった。

楽屋から大きな声で「お中入りーーーー」。

 中入後は、故枝雀一門から桂九雀師匠がいつもの派手な長い顔で登場。笑顔一杯、そして、大きな声で演じる、サービス満点の高座は皆様お待ちかね。明るくほんのりとした雰囲気な中、噺が始まる。

 いつも九雀師匠の勉強熱心には感心する。師匠はトップが高座へ登場すると、会場の入りやお客様の雰囲気を客席の後ろから観察し、楽屋へ引き上げて今日の噺を組み立てておられる。いつもの行動である。

 その九雀師匠が本日のお客様向けに選んだ噺は、東の旅・伊勢参宮神の賑わいの内『七度狐』の一席。これを発端からサゲの「畑の大根抜いとりました」までを、どこをカットしたでもなく、口調が早いわけでもなく、二十二分で演じる。

随所に笑いが起こる大満足の高座でトリへバトンタッチ。

  六月公演のトリは、故松鶴一門の六代目笑福亭松喬師匠。

過去、当席の高座では『尻餅』『崇徳院』『禁酒関所』『首提灯』『へっつい幽霊』と笑福亭のお家芸を名演・好演され、今回もと期待の集まる中、『高砂丹前』のどっしりとした出囃子で高座へ。

客席からは待ちかねたように拍手が起こる。実はこの時点ではまだ、本日の演題は決まっていなかったのである。

     ・・・・・・・・・・・・ 恋雅亭 データベース・・・・・・・

仁智師匠が『老女A』を当席で演じられたのは、これで六回目。

@     1983年 4月 第 61回「開席五周年記念公演」

A     1984年12月 第 81回「上方落語食べて観る会」

B     1990年 9月 第149回 公演

C     1990年12月 第152回「上方落語食べて観る会」

D     1992年12月 第176回「上方落語食べて観る会」

・・・・・・・・・・・・・・・ 楽屋裏話・其の二  松喬師匠との笑談  ・・・・・・・・・

  生「おはようございます」

松喬師「おはよう。(ネタ帳を見ながら)ここでのネタ、難しいなぁ。今日は三つに絞って来てんけど最近に三つとも出てるがな。『高津の富』は松枝やんが、『饅頭怖い』は先月出てるし、『はてなの茶碗』は文珍やんがやってるしなぁ」

小 生「『尻餅』も『崇徳院』もやりはりましたしね」

松喬師「こないなんねん。しゃないけどな。そんだけ、ここの会に皆、力、入ってるちゅうこっちゃ。けど、困ったな・・・・」

 すかさず、小生が『らくだ』と注文した。

松喬師「時間がないがな。もう半(八時)廻ってるで」と、さらりと流し、話題が六代目師匠(松鶴)のCD全集の噺、そして、「ワッハ上方」の話題に移る(内容は長すぎるので割愛)。

松喬師「そやそや、今度な、独演会で久しぶりに『市助酒』演(や)んねん。皆に、『あの噺、どこが面白いんでっか?』と言われるけど、わしら、おやっさんのが耳にこびりついてるからな。憧れやし、好きなもんは好きやしな」

小 生「元気な頃の『市助酒』は良かったですね。晩年は『後引き酒』が多くて、あんまり、『市助酒』は演(し)はらへなんだけど・・・。そう言うたら『一人酒盛』に比べて、演(や)る師匠は少ないですね」

松喬師「けど、困ったなぁ。・・・・何しょうかなぁ」

  ここで、九雀師匠がサゲとなり、高座へ向かわれる。

「えー、もう一席でお開きということで・・・」とゆっくりと語りが始まる。マクラは趣味の釣りの話。師匠の想い出話。そして、上方と江戸の長屋の違いの説明から水壺の説明(この辺で演題は『壺算』と推測がつく)

  現代(今)の話題からいつしかタイムスリップして明治時代へ。

松喬師匠の『壺算』のネタ下し(初演)は比較的古く、入門5年目の1974年10月の『第二回三日月会公演』ではないだろうか? 以後、演じられておられる十八番である。

 上方では、二代目春団治、円都、米朝、枝雀、仁鶴らの師匠の好演が、当席では、米朝、仁鶴師匠の他、仁福、鶴志、小米朝、都丸の各師匠が演じられておられる。

  松喬師匠は当席初演となるが、ネタ下しの頃から何度となく聴いた噺であり、師匠自身も十八番とあって上出来であった。師匠の一言、一仕草に会場からは笑いがこぼれ、会場も師匠も大満足の好演。

いつもながら、トップからトリまで、ツボ、壺で笑いが起こり高座と客席のやりとりが肌で感じられる「恋雅亭公演」であった。