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       第273回 公演の記録           吉村 高也
       公演日時: 平成13年 5月10日(木) 午後6時30分開演  

                 
出演者                演目
   桂  こごろうへっつい盗人
   月亭  八 天饅頭怖い
   桂   勢 朝ハイウェー歌合戦
   笑福亭 小 松泣き笑い癌日記
    
中入   
   桂   文 福農村ラブソディ
主任 桂   南 光桜の宮

 一年中でもっとも過ごしやすい時期であるこの時期。十日に『恋雅亭』の五月公演が開催された。

GWの休み疲れの上、平日であるにもかかわらず、お客様の出足はいつも以上。列を作られたお客様が待ち焦がれる中、五時半に予定通り開場。お客様をお迎えする一番太鼓が景気よく鳴り、会員様や当日券での入場されるお客様が挽きも斬らず、吸い込まれるように入場される。会場に並べられた席が埋まっていき、二番太鼓が鳴る頃には大入満員になる。

 さて、大入り公演のトップは、トリの南光師匠の筆頭弟子、桂こごろう師。命名は、幕末の志士で桂とくれば小五郎。そこから桂こごろうとなったとのこと。それはさておき、師匠の教育よろしく、平成三年入門でキャリア十年。そろそろ本格派の風格が出てきた当席常連の師である。

『石段』の出囃子で高座へ登場した、こごろう師、マクラもほどほどにさっそく本題の『へっつい盗人』へ。初代春團治師匠から連綿と続く、小便やオナラが随所に登場する上方爆落語をこごろう流に演じる。サゲまでいかずに大いに盛り上がった処で「わあわあ、わあわあ、云っております。『へっつい盗人』交代いたします」と、初代春團治流の短縮形で交代。全編元気一杯で滑舌も良く、盛り上がった高座であった。

  二つ目は八方一門より月亭八天師(キャリア十五年)が『おかめ』で登場。各地で開催されている落語会や自身の勉強会に数多く出演し、現在の若手の中で一ケ月の口演回数はトップクラス。

落語はもちろん笛や太鼓にも精通し、当然今席のお囃子方もキッチリ努める。八方師匠もりにして一目置く勉強家でもあり実力派でもある。

その八天師、出囃子に乗って、ややゆっくりと高座へ登場。 「えー、変わり合いまして・・・」から八方一門を紹介する。「一番弟子が、もう現役を退いてしまいましたが、漫才コンビのきびのだんご。二番弟子がこれも辞めてしまいましたが月亭かなめ。月亭と名乗っておりますが、上岡竜太郎さんの弟子のぜんじろうとコンビを組んで漫才をやってました。三番弟子が月亭遊方さん。こちらは、以前はT・遊方兄さんで過激な落語を演(や)る方でございまして、そして、その次が私でございまして、初めてまともな弟子でございます。しかし、困りましたなぁ。初めて宮川大介・花子師匠にご挨拶した時ですわ、「えー、今度、八方の弟子になりました八天と申します」。と、花子師匠が「まぁ、八方ちゃんの弟子。もう相方決まってんのん?」「私、漫才やのうて落語やるんです」「えー?!、漫才ちゃうのん、アホちゃうのん」うちの師匠がここ(恋雅亭)で着物を着替えながら、

八方師「八天、何しょうかなぁ」                                   

八天師「(私、師匠の噺は全て熟知しておりますが、両手で足りますから)師匠『軒付け』をお願いします」                             

八方師「『軒付け』なぁ、長いことやってないから出てくるかいなぁ」   

八天師「何を言うてはりまんねん、ど忘れしてはるだけですわ、大丈夫、大丈夫。(心の中では大丈夫かなこのおっさんと思いながら)」 

八方師「そうかなぁ、途中で浄瑠璃が出てくる『朝顔日記』の文句、なんやったかなぁ?」とネタについて聴きだしますねん。

  そして、「おい、サゲなんやった」と言われた時、持ってた扇子で目突いたろかと思いましたが、一言「師匠、今度、私の家へおいなはれ。一から教えますわ」と客席の笑いを誘って、本題の『饅頭怖い』の一席がスタートする。まず、好きな物の訊ねあいから、嫌いなもの、そして、怖いもので光ちゃんが「饅頭」が怖いと言い出すお馴染みの話。とんとんと爆笑噺に仕上がっていた。

  三つ目は、米朝一門から桂勢朝師。いつも同じ紹介だが、一門の異端児ぶりは今も健在。今回も一門の芸風とは若干違う、その爆笑高座を楽しみにされている客席の拍手に迎えられて、前出の八天師とは違って、飛び出すように高座へ登場。

  「こないだ、ちょっとむかついたことがありまして。たまたま、ここの前を通った時にチラシ見てましたら、ここの人がチラシを持ってきてくれて「よかったら来て下さい」言われましてん。「2000円高いんちゃいます」と言うたら、「前の三人はご存じないでしょうけど、小松さんからの三人はご存じでしょう? 」(場内、大爆笑)。わしは前の三人や !。

と、勢朝ペースの高座が続く。自身も飛ばし過ぎと感じたのか「今日はこれでまいります・・・」と断って、自身の創作落語『ハイウエー歌合戦』が始まる。

 商店街のバス慰安旅行に八木さん、和田さん、坪井さん、新庄さんや藪さんらが、ゲストに勢朝師をよんで出かけるという設定ので噺。まだまだハイペース。

 新庄さんの発案で歌合戦が始まる。まずは、勢朝師が「おけら、毛虫、げじ、かにぼうふら、蝉、かわず、やんま、蝶々にキリギリスにはたはたげんげの背中はピーカピカ」。

  そして、「君が代」。続いてフラワーショップ遠山の大将が「今日でお別れ」「アカシヤの雨にうたれて・・・」「蜂のムサシは死んだのさ」。と暗い歌のオンパレード。

 続いてバス酔いのメンバーが「伊勢佐木町ブルース」「そして 神戸」を歌ってよけいに気分が悪くなったり、今回が最後参加となる野村さんが「ハァーーーーー」と民謡と思いの外、「晴れた空ーーーーー」「花摘む野辺にーーーーー」「惚、れーてーーーーー」と歌が続く。そして、「この噺はあと、十分位続く、ただただ歌が歌いたいだけの噺でございます。お後と交代いたします」

 中トリは、『小松ちゃん』こと笑福亭小松師匠が登場。昭和四十七年に入門後、紆余曲折を経て現在がある師匠だが、落語への情熱と達者な高座は健在。今回も早くから楽屋入り。楽屋の話題の中心になったり、舞台袖で他の師匠の高座を観て笑う。落語会を楽しんでいる様子である。

「えー、お待たせを致しました。誰も待ってへん」「久々の落語会で緊張致しております。若いみんな、太鼓うまいですなぁ。私だけですわ。太鼓叩けへんのは、出会いがわるかったんですわ・・・」と、十八番の『アイラブ松鶴』が始まる。昭和六十一年に亡くなられた師匠で、もう十五年も経つのであるが、受ける、受ける。「ババが臭い奴は出世せん」「九官鳥の鼻事件」に場内は大爆笑。

 そして、病気に詳しいベテラン患者、絶食を告げる肥えた看護婦、気弱な先生、痛がっている患者に「静かにして」と言う護婦、癌告知をする兄などが登場し、暗くなる闘病日記が見事な爆笑落語に仕上がっている『泣き笑い癌日記』であった。

  中入後は、『和歌山のおいやん』こと、文枝一門の桂文福師匠が『まりと殿様』の出囃子と、いつもの派手な衣装で登場。出るか『河内音頭!』『相撲甚句!』と、そのサービス満点の高座を皆様お待ちかね。「ばあっ、芸名を文福と言いまして、本名を深田恭子と申します。(場内大爆笑)今日は勢朝さん、小松さんとテンションの高い出演者が多いので負けない様に派手な着物で・・・。これで、今日は古典ではないとお判かりでしょう。この私も二十年前は古典落語の申し子と言われてまして、古典落語の名作『三十石夢の通い路』を四十分演(や)りまして、お客さんを寝かしたんですわ。それから新作を・・・」と、なぞかけから相撲の噺へ

  そして、和歌山のタワーレコードの売上BEST三を紹介。一位ヒッキー、三位アイ、そして、二位は「和歌山ラブソング21」。唄うはザ・ツレモテイコラーズ。メンバーはザをダと発音。和歌山ではザ行とダ行が逆転する話へ脱線する。さらに脱線し『河内音頭』が始まる。ここで、終わるかと思いの外、元へ戻って、バラード「和歌山ラブソング21」を披露し、場内は大喝采。続いて二番が始まる。これも大喝采。「この歌売れると思う?」

 さらに、話は自身の爆笑創作落語『農村ラブソディ』へ。もう二十五年以上も前から演じられているふるさと紹介落語はいつ聞いてもほんのり、ゆったりした名作であった。

  五月公演のトリは、故枝雀一門の総領弟子である、桂南光師匠。過去、当席トリの高座は『花筏』『初天神』『あくびの稽古』『仏師屋盗人』と名演・好演の連続で今回も大入満員の会場は期待大。『猩々』の囃子に乗っていつもの通り、やや前屈みで高座へにっこり笑っての登場。場内からは万雷の拍手が起こる。

  「えー、ありがとうございます。後一席の処をおつき合い願っておきますが、やっと普通の噺家が出てまいりまして・・・(場内は拍手混じりの大爆笑)。どうも大変個性の強い方ばっかりがお出になられまして、えー文福さんも私個人的にファンなんですけど、大変、楽しい舞台でございますけど、この落語会の会場がヘルスセンターに変わるんでございます。お客様も素面(しらふ)でやっとられんなぁ・・・」と雰囲気を南光バァージョンへ。 

  「まぁ、今は若葉の季節でございまして、大変気持ちの良い、すがすがしい時候でございますねぇ。まぁ日本というのは春、夏、秋、冬、四季と、マクラを振り、文化文政の穏やかな時代の噺の『桜の宮』が始まる。
この噺は、東京では『花見の仇討ち』と言う名前で演じられ、東西とも大ネタである。小生の薄識ではこの噺は松之助師匠、枝雀師匠を通じての口伝であり、五代目笑福亭松鶴の流れをくむ上方落語である。随所に古き伝統と自身の工夫を織り交ぜた現代の上方落語に組み立てられており、現在の上方落語界の一方の旗頭に相応しい二十八分の名演・好演であった