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       第271回 公演の記録           吉村 高也
       公演日時: 平成13年 3月10日(土) 午後6時30分開演  

                 
出演者             演目
   桂   春 菜延陽伯
   笑福亭 猿 笑孝行糖
   桂   きん枝おねおね
   笑福亭 鶴 志長短
    
中入   
   桂   枝三郎僕達ヒローキッズ
主任 桂   吉 朝七段目

平成十三年、二十一世紀を迎え二回の公演を大入でお開きとした『恋雅亭』。

三月公演の前売券販売も月が替わって、好調に推移。そろそろ春本番の暖かさを期待したが、前々日あたりから戻り寒波が発生。当日の土曜日も「お天とう坊がししたれしそうな空模様」となったが、元町本通の人通りは多く、当席の提灯に目がそそがれる。

  出足はいつも通り早く、四時半には、もう列が出来る。先月と同様、どんどん長くなった列が元町本通に達し、お客様が待ち焦がれる中、五時半に予定通り開場。お客様をお迎えする一番太鼓が景気よく鳴り、吸い込まれるように入場されるお客様で会場一杯に並べられた席が埋まっていく。当日券を求められるお客様が後をたたず、出来るだけ多くの方に座って頂こうと木戸口の長椅子まで並べた。最後には「申し訳ありません。立ち見ですが、よろしいですか?」とお断りした上での入場願った(最終的には、風月堂様の御好意で食堂のパイプ椅子を入れて、全員にお座り頂いた)。

  さて、トップは、故春蝶師匠の実子でその風貌も最近とみに似てきた感があり、各地の落語会で中年女性ファンの声援を一身に受けて大活躍中の春團治一門の桂春菜師。

当席へは二度目の出演。

  ** 楽屋よもやま噺   其の壱 平成六年入門者 **

 今席トップで登場の桂春菜師。そして、来席初出演の桂吉弥師が入門したのは、共に平成六年。

この年の入門者は、平成四年の十人に次いでの九人の多くを数える。(敬称 略)

 ・桂  都んぼ(都 丸門人) ・桂  三 若(三 枝門人)  ・桂  春 菜(春團治門人)

 ・桂  福 矢(福團治門人) ・桂 ちゃん好(文 福門人) ・桂  かい枝(文 枝門人)

 ・桂  三 金(三 枝門人) ・林家 染 弥(染 丸門人)  ・桂  吉 弥(吉 朝門人)

 楽屋で見台を持ってウロウロの春菜師と遭遇。実は先月めげた(壊れた)ため、なおして(修理)いる最中だったので、古くなって、しもてた(なおして・片づける)見台を出してきていたのである。

「膝隠しとえろう大きさが違うけど?」と思案げな春菜師に、小生が「それ古いやつでっせ。六代目(松鶴師匠)やお父さん(春蝶師匠)の唾の染み込んだ・・・」。それを聴いた春菜師。おもわず、頬ずりをする。

  『石段』の出囃子で高座へ登場した春菜師。「えー、ありがとうございます。ただ今より開演でございまして、まず、私、桂春菜の方でお付き合い願いたいと思いますが、えー私も芸人になりまして七年になりまして」と自己紹介した後、地域の言葉の違いのマクラからスタート。関西の言葉の特徴は、言葉を短くすることと紹介し、

・これこれこれこれありませんか? の質問に「おま」

・危ないことをしている子供を注意するのに「こら、死んでもしらんで」

・女性を口説くときに、手を握りながら「なぁ」

・森首相に質問する時も「あんたのやってること、ちゃうんちゃう?」

そして チャウチャウ犬の話題。読んでおわかりいただけるだろうか?「おい、あれ、ちゃうちゃうちゃう」「え、ちゃうちゃう、ちゃうちゃうちゃうちゃう。ちゃうちゃう」「ちゃうちゃう、ちゃうちゃう、ちゃうんちゃう」「えー、ちゃうちゃう、ちゃうちゃう、ちゃうんちゃうちゃうちゃう」一部間違いがあるかも。

  続いて、福岡ドームで席が空いているかをたずねている。「おばちゃん、そこ、とっとうと」「とっとうとよ」「あー、とうっとうとか」「とうっとうとよ」と笑いをとって、本題の『延陽伯』。東京も『たらちね』として、東西共で多く演じられる噺。その噺を若手らしく、全体的に高いトーンでトントンと演じる。

サゲは「酔ってくだんの如し」ではなく、判り易く工夫されていた。

  二つ目は、上方で東京落語を演じる唯一の師、笑福亭一門の笑福亭猿笑師。「えー、決して怪しいエロ坊主ではございませんで。私の方は間に入って東京の噺でございまして・・・。」と自己紹介。

  そして、懐かしい故柳亭痴楽師匠の物真似で綴り方教室。そして、山の手線を織り込んでの綴り方教室に対抗しての大阪環状線の綴り方教室。

会場の拍手と共に、袖から「チン」と鐘が鳴る。

  ** 楽屋よもやま噺   本日の出番変更について **

  この「チン」には、意味があった。実は桂きん枝師匠の楽屋入りが遅れていたのである。予定では、仕事でのゴルフから当席へ、そして、また、次の仕事先へ。が最初の予定であったが、携帯電話がかかる。

きん枝師「あー、ごめん、ちょっと道に迷ってな、遅れるわ。けど、次の仕事があるから、三つ目に出してなぁ。」

楽屋で重要緊急出番順会議が開催され、

@     春菜・猿笑・きん枝・鶴志・中入・枝三郎・吉朝

A     春菜・猿笑・鶴志・きん枝・中入・枝三郎・吉朝

B     春菜・猿笑・枝三郎・鶴志・中入・きん枝・吉朝

の三案を協議(そんな、たいそうな)。きん枝師匠の到着を待つこととなった。そして、師匠を到着を知らせる「チン」となったのである。

  しかし、きん枝師匠到着を知った猿笑師も、次に上がった急いでいるはずのきん枝師匠も時間タップリの高座であった。

  猿笑師の本日の演題は『孝行糖』。この噺、上方でも演じられるが、やはり、先代三遊亭金馬師匠の名演で有名な、与太郎が主役の東京ネタでる。

  この噺、東京では、ややオーバーアクション気味に演じられる。師匠もそう感じられておられるのか、自身でも自身につっこみをいれながら演じられる。お馴染みの「おいどこが痛い」。頭と腰を押さえて「こうこうとう、こうこうとう」でサゲとなる。

受け囃子が鳴り、それを止めて、余興の一瞬芸を披露し、二十二分でお後と交代となる。

  三つ目は、桂きん枝師匠。いつもは中入カブリでの軽い噺を聞かせていただいている師匠だが今回は出番が中トリとあって、古典落語の大ネタを期待されたお客様もいらっしゃたか?

  それはともかくとして、メクリると会場全体から、ワアーと歓声が起こる。やはり、人気者である。

  「えー、どうも久しぶりの恋雅亭でございまして、まぁ、久しぶりの恋雅亭と言うよりも、久しぶりの落語でございまして、着物探すのに苦労いたしまして・・・。」と場内を「桂きん枝の世界」へもっていく。

  そして、「車上荒らし着物盗難事件」。「羽織の紐」の名前が判らず楽屋へ助けをかって笑いを誘う。「キャッツ鑑賞」のくだりでは、ミュージカルが判らず再び楽屋へ・・・(場内爆笑)。「なんで、池乃めだかを出して猫の真似ささへんねん」と爆笑を誘い、「宝塚大嫌いの理由」「なんばグランド花月定員オーバー、はいれます事件(吉本では通路も通路席という客席)」と『おねおね』が続いて、「なんと言いましても飲む、打つ、買うというのがあるわけでございまして・・・たまには落語しとかなあかんやろなぁ、君ら」と最前列の学生さんに聞く。「えー別に漫談でも、ええと思てまんねんけどねぇ、なんぞせんとまずいわなぁ?」客席から「漫談でもええ」と声がかかる。それにきん枝師匠「漫談でよろしい?(場内喝采)。ええけど、そのかわりわしの漫談長いで、オチがないから。あ、そう、かまへんのん。まぁ落語は後で吉朝君がきっちりしたやつやってくれますから、私、ファンでんねん。私と小枝は上方落語を聞く会のファンですからね。誰々ええなぁ言いながら・・・」と、『おねおねPARTU』が再スタートする。
「私が文枝師匠を選んだ理由」そして、「四天王の落語の教え方」「二度の破門の理由」「芸名命名秘話」。最後は「私も落語しょうと思って来たんですけど、途中で道に迷って練習出来まへんでしてん。また、今度やりますから、すんまへん。どうも」と、二十五分の『おねおね』であった。

  勢いのある『だんじり囃子』に乗って、中トリの笑福亭鶴志師匠が飛び出してくる。顔と体型と声通り、笑福亭の豪放磊落な上方落語を「早く!トリで」と期待されているお客様も多い鶴志師匠であるが、きん枝師匠の出番順変更で中トリでの登場となった。

  「えー、御来場いただきまして・・・。寒なりましたなぁ。十人寄りますと気は十色と申しまして・・・」と始まったマクラは「血液型で性格は判らない」「気の短い人間の代表はやはり、笑福亭松鶴師匠でんなぁ」と、やはり、師匠の思い出噺。「元気な頃の鶴志、晩年の小松」と言われる松鶴師匠の物真似はバツグン。

  ここで、ハプニング。メクリを間違えたお茶子さんが訂正するために高座へ急に登場し、場内大爆笑。それに、動じることもなく師匠の思い出噺は続く。いつもながら爆笑の連続のマクラから始まった今日の演題は『長短』。

  ** 楽屋よもやま噺   鶴志師匠の長襦袢 **

  楽屋で顔と同じ位の大きさの真っ赤な羽織の紐の房の紋付きを着、準備万全の鶴志師匠と笑談。

小 生「ありがとうございます。ちょっと風邪ぎみですか?」

鶴志師「そうでんねん。喉が痛とうて」

小 生「今日は中トリで、ご苦労様です。何を?」

鶴志師「久しぶりに『長短』を。忘れてるかなぁ」

小 生「小三治師匠直伝の?」

鶴志師「そうだ、ちょっとこれ見て。」と長襦袢を見せて頂く。「これ『夢』ちゅう字を崩して模様にしてまんねん」

小 生「ええ、色で、噺の途中にちらっと見えて」

鶴志師「意外と色気のあるもんですわ。『長短』にもピッタリや」

東京落語の定番のこの噺を鶴志師匠は見事に上方へ移植。筋も言葉も原形を一切変えることのない、鶴志十八番の上方落語『長短』であった。

「お中入りぃ」の声で中入となった。

  中入カブリは、三枝一門の実力派、桂枝三郎師。ご存知の通り、当席常連。『地獄八景』を三十五分で演じられたり、『首の仕替え』を楽しそうに演じたりの数々の名演、好演がある、実力に裏打ちされた、公演全体のバランスを考えた演題をと期待の中、登場。

  「えー、ようこそをお越しをいただきましてありがとうございます。代わり合いまして、私、桂枝三郎と申しまして・・・。さぞ、お力落しの方もございましょうが、えー、ひとつお後お楽しみに・・・」と自己紹介。

そして、題して「枝三郎のマスコミ裏話」がスタートする。「奈良にはホームレスが無い理由」「ホームステイとホームレス」「夫婦喧嘩のホームレス・『お前、表へ出え!』」「和歌山カレー事件。和歌山ではカレーライスのことをハヤシライスと呼ぶ」「松田聖子、元の主人と歯医者(はいしゃ)復活」「笑いが一番と言いながら怒っている、みのもんた」「三波春夫と村田英雄」と速射砲のように笑いを誘う。

 そして、「ジュン、おかあちゃん、なさけないわぁ・・・。」と師匠直伝の創作落語『僕達、ヒロー(疲労)キッズ』が始まる。マクラの延長のようにトントンと、三枝師匠の良い処を随所に感じさせながら、物語は進む。

 楽屋での枝三郎師匠は、「今日はトリの膝をキッチリ努めまっせ。」と一言、本日の意気込みを述べられていたが、今までの演者とトリの吉朝師匠をつなぐ

創作落語を演じ場内を大爆笑に導く。いつもながら達者な枝三郎師匠であった。

 三月公演のトリは、米朝一門から、桂吉朝師匠。一時期、体調を崩された師匠であったが、本格回復され、以前の緻密な上方落語が復活し、全国区で大活躍中。今回もその忙しい中を裂いての登場となった。

 過去、『はてなの茶碗』『抜け雀』『天災』『遊山船』などを演じられ、当席のトリも今回で三回目。過去の名高座を覚えておられる皆様も多い中、高座へ登場し、「えー、私もう一席でお開きでございます。最後にやることをトリと言いまして、非常に重い責任があります。火の元を確認するという・・・。」と笑いを誘う。

 マクラから芝居に関係する話題で、始まった演題は『七段目』。

ハメモノのキッカケもキッチリと合って、お囃子との息もピッタリ。随所に会場から拍手喝采が起こる名演は、トリの重責をキッチリ果たした二十五分であった。