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       第269回 公演の記録           吉村 高也
       公演日時: 平成13年 1月10日(水) 午後6時30分開演  

                 
出演者              演目
   笑福亭 銀 瓶 千早振る
   桂   珍 念大安売り
   笑福亭 岐代松くっしゃみ講釈
   桂   春 駒 初天神
    
中入   
   桂   小米朝 親子茶屋
主任 桂   文 珍はてなの茶碗

あけましておめでとうございます。

  平成十二年の全十二公演が無事お開きとなり、二十一世紀のスタートを飾る第二六八回新春初席は、一月十日に開催されました。

  新世紀を迎えての初笑いは『恋雅亭』で、とのお客様のありがたい想いを受けて前売券の販売も絶好調。当日は水曜日の平日にもかかわらず、お客様の出足は早く、四時半にはもう列が出来る。先月と同様、どんどん長くなった、列が元町本通に達し、お客様が待ち焦がれる中、五時半に予定通り開場。お客様をお迎えす一番太鼓が景気よく鳴り、吸い込まれるように会場一杯に並べられた席が埋まっていく。出来るだけ多くのお客様に座って頂こうと、木戸口の長椅子まで並べたが、その後も来席されるお客様が後をたたず、「申し訳ありません。立ち見ですが、よろしいですか?」とお断りしたうえでご入場願ってのご入場となった。

  大入り公演のトップは、一番に楽屋入りした鶴瓶一門の「銀ちゃん」こと笑福亭銀瓶師。

前座の仕事であるお囃子や楽屋番をこなして、二番太鼓、そして、祈が入って、いつもの『石段』ではなく、初席のトップに奏でる『十二月』の出囃子で登場した銀瓶師。

「えー、あけましておめでとうございます。ありがとうございます。二十一世紀初の『恋雅亭』でございまして、ありがとうございます。実は私、二十一世紀の最初に落語するのが今日でございまして、生まれ故郷の神戸で出来るのは嬉しいかぎりでございまして、落語家になった時から新世紀の初の落語は『恋雅亭』でと心に決めておりまして・・・。」と笑いを誘う。「えー、お後お楽しみに・・・」と、始まった本日の演題は『千早振る』。この噺は東西で演じられて、上方では『立田川』とも呼ばれているお馴染みの噺である。

  鶴瓶一門にあってマスコミと落語の両刀使いを器用にこなす、皆様よくご存知の逸材、銀瓶師。随所に工夫の演出が溢れた十九分の爆笑高座であった。

  続いて二つ目は、トリの文珍一門から桂珍念師が、笑顔一杯で高座へ登場。「続いて私が桂珍念!」と自己紹介。「こう見えましても私も師匠の処へ入門しまして十五年でございまして、この前も師匠に呼ばれましてね『おい珍念、お前も十五年か、ええ機会や』。えー、期待して返事すると、『いつ辞めてもええねんで』・・・・やさしい言葉でございまして」とマクラからなんとなく暖かさを感じさせる高座、会場は大爆笑。

そして、相撲の話題から始まった演題は『大安売り』。噺の筋はお馴染みであるが、その誇張された演出と顔で演じる高座は十四分であったが、爆笑の連続であった。

 三つ目は、故松鶴一門から『どてふく』の出囃子に乗って、その若々しい高座と実力は折り紙付きの笑福亭岐代松師(一月生まれの四十歳)。

元旦に道頓堀の浪花座でしころ太鼓を打った仕事、そして、八日の成人式での全然受けなかった落語の話から、始まった本日の演題は、五代目松鶴師匠から続く笑福亭のお家芸、『くっしゃみ講釈』。師匠(六代目松鶴)譲りの豪快さに自身の工夫を加えた知的な演出の高座は、爆笑の連続。山場のくっしゃみのくだりの熱演は、場内から惜しみない拍手が起こった。

  中トリは『駒ちゃん』こと桂春駒師匠。皆様ご存知の通り『恋雅亭』の噺家諸師の窓口として、縁の下の力持ち的存在。また古典落語へ取り組む自身の独演会も回を重ね、毎回のネタ下しで増やした落語の数も数多(あまた)。今回は『くやみ』と『試し酒』だそうですが・・・。『白拍子』の囃子に乗っての登場し、「あけましておめでとうございます。二十四年目に入りました『恋雅亭』でございまして・・・」と挨拶。そして、トリの文珍師匠のCD販売の宣伝をして、子供の話題から、「かか、羽織出せ・・・」で始まる『初天神』の一席。

この『初天神』という噺、前座噺のようでもあるが、きっちり演んじると登場人物も多く、

結構骨が折れる噺ある。その噺を発端から女郎屋のくだりも抜かさず演じる。初天神の出店は、八百屋、飴屋、団子屋と続いて、二十分の爆笑高座で中トリの重責を果たした。

 休憩をはさんだ、中入後は、桂小米朝師。最近とみに師匠で実父の米朝師匠に似てきた師。もう「桂七光り」ではない実力を備えられ、当席へは一年半に一回のペースでご出演され、『あみだ池』『けいこ屋』『替り目』『厄払い』を熱演・好演して実証済み。今回も名高座が期待出来る。

 「えー、ありがとうございます。中入後でございます。『御曹司』でございます。自分で言わんとあかんのんは、大変なんですよ。落語会というのは、今も言われましたお客さんに。『まぁ、ファンなんですよ、お父さんの』『サイン貰えませんか、お父さんのCDの』とかねぇ。色々ありますよ。こないだも北海道へ行ったら名ビラに『桂子米朝』と書いてありまんねん。こうなったら、あほボン丸出しですわ。三木助さんの気持ちが良く判るような。正月早々ではありますが・・・。」と爆笑マクラが続く。

「新聞社からコメントを求める電話が掛かってきましてねぇ。こっちがまだ何にも言わん先に向こうから喋りまんねん。『どうやら、お父さんの圧力に耐えられなかったんでしょうねぇ。』しょうもないこと言わんでええのに、『はぁ。そうですか』と返事して電話切りましてねぇ。すぐ、滅多にしないですけど、東京の古今亭志ん朝師匠の家に電話しましてん。あの方もお父さんが志ん生師匠ですから、立場一緒やと思いましてね。『あー、大変なんだよねぇ、親のプレッシャーなんてあいつより俺の方がプレッシャーなんだよ。君は大丈夫だよ、誰にも期待されてないからね』と言われたんですよ。親の後引くのは大変ですわ。

横で文珍さんが笑うてはりますわ。あの人は駄馬ですから・・・。」と場内の大爆笑でマクラを締めくくって本題へ。

 本日の演題は『親子茶屋』。この噺、米朝、春團治、文枝師匠をはじめ多くの師匠連が演じられており、お囃子もタップリ入った、いかにも上方落語らしい演目である。その噺を師匠の奮闘よろしく演じた二十二分の名演であった。

 新世紀のスタート、新春初席のトリは、今や上方落語界の第一人者と、乗りに乗っている桂文珍師匠に飾って頂く。当席初席のトリは、桂春団治、桂枝雀、桂文枝の各師匠連に次いで平成七年から四度目。過去『たいこ腹』『七段目』『星野屋』と新・文珍十八番を披露頂いており、十二月の鶴瓶師匠と同様、当席への出演は別格と「他の仕事を融通しても・・」と、ありがたい言葉を頂いての出演となった。

 当席ではいつも、早くから楽屋入りして、他の演者の高座を舞台の袖で楽しいそうに聴く姿を拝見する師匠。『本業は落語』を自負しておられる師匠の心意気にいつも感心する次第である。

  舞台へ登場した師匠、「よう来て頂きまして、二十二世紀になっても、『ハハァ』と笑って頂きますように・・・」とあいさつの後、骨董品の値打ちの小噺を二つ。この噺を演じるのに京都の現場を確認してきたと断わって始まった演題は『はてなの茶碗』。桂米朝師匠の十八番の噺である。

基本を踏まえた上で師匠流の演出が加わるのだから、面白くない訳がない。三十分の高座は爆笑の連続であった。

  サゲの後、「ありがとうございました。どうぞ、お気を付けてお帰り下さい。どうぞ、今年もよろしくお願いいたします。」と三度繰り返し。落語と当席へかける意気込みを感じ取れる見送りであった。

 その後、木戸口で販売中のCDにサインをされた文珍師匠(用意のCDは完売)。楽屋へ着替えに帰ってきて「楽しかったなぁ。気分ええし、さぁ行こか。」と打ち上げへ出かけた大盛況の新春初席であった。

楽屋よもやま噺  * 文珍師匠のCDについて *

師匠のCDは現在第4集まで発売中で次の通り

第1集     『後生鰻』       B  『七段目』

第2集     『蔵丁稚』       B  『宿屋仇』

第3集  AB 『心中恋電脳』

第4集     『はてなの茶碗』    B  『星野屋』