公演記録目次へ戻る


       第268回 公演の記録           吉村 高也
       公演日時: 平成12年12月10日(日) 午後6時30分開演  

                 
出演者                演目
   林家  うさぎ動物園
   桂   出 丸餅屋問答
   笑福亭 純 瓶いらち車
   笑福亭 鶴 瓶子はかすがい
    
中入   
   笑福亭 仁 福手洗廻し

     笑福亭 鶴 瓶 鶴瓶噺
主任 林家  染 丸尻餅

  今世紀の最後を飾る、第二六八回公演は、林家染丸、笑福亭鶴瓶の両師匠の競演で十二月十日に開催されました。

  当日は日曜日とあって、お客様の出足も絶好調。四時半の開場一時間前に、もうお客様の列が出来る。どんどん長くなった、その列が元町本通りに達し、そのお客様が待ち焦がれる中、五時半に予定通り開場。

お客様をお迎える一番太鼓が景気よく鳴る。その音に吸い込まれるように会場入りしたお客様で席が会場一杯に並べられた席が埋まっていく。

  その大入り公演のトップは、一番に楽屋入りし、前座の仕事であるお囃子では一番太鼓、そして、二番太鼓も打った林家うさぎ師(本日のトリの染丸一門)。うさぎという芸名の命名理由は、先々代の二代目染丸師匠が卯年であり、大の「うさぎ」好きであった為。よって、先代うさぎも存在する。ちなみに上方の林家の定紋も「うさぎ」をかたどったものであるのである。

  二番太鼓、そして、祈が入って『石段』の出囃子で登場したうさぎ師。久々の出演とあって、林家伝統のもっちゃり、はんなりした演出の上方落語を期待するお客様の期待ムンムン。「えー久しぶりに出して頂きまして・・・、私事ですが、と嫁さんの話題からスタート(8年前に結婚したカナダ人(日本名はショーン(史恩))。その端正な顔立ちとは落差のある高座に場内は大爆笑。

 そして、「明石大橋ツアーの舟の旅」のマクラから、本日の演題は『動物園』が始まる。キッチりと演じてお後と交代となる。

  二つ目は、先々月(十月)出演のざこば一門から当席二度目の出演となる桂出丸師。その若々しい高座とその実力は折り紙付きで、ざこば師匠と大師匠にあたる桂米朝師匠の長所を受け継いでの、そのもじしない高座には定評がある。

  その出丸師、満員の観客にまず感謝し、落語を語るに良い五つの条件を紹介。その条件とは@圧迫感がある  A顔・顔・顔で面で圧迫させる。B高座がある Cお客さんが下から見上げる D出口の鍵が掛かっている。だそうで、続いて悪い条件を紹介。

  そして、ざこば一門の師匠から弟子への激励の話題。師匠を選んだ理由のマクラが続く。そして、親分肌の主人公が登場する『餅屋問答』が本日の演題。この噺は、東京での『こんにゃく問答』で大変ポピュラーな噺であるが、東京のこんにゃくを上方の餅に変えての演出である。上方が発祥の落語が多い中、この噺は純東京作。二代目の林屋(家ではない)正蔵の作である。ちなみに現在、正蔵の名跡は空き名跡で七代目の実子の林家三平師匠の海老名家の預かりとなっている。

  九代目正蔵の襲名については、予測の域を出ないが、故三平師匠の実子のこぶ平、いっ平師匠か、春風亭小朝師匠(故三平師匠の次女の泰葉さんの夫で義子にあたる)のいづれかであろう。この話題は最近は下火である。

大きく脱線したが、出丸師のこの噺。出演者が生き生きとして、全編漫画チックで大爆笑の二十二分であった。

三つ目は、鶴瓶一門から『純ちゃん』こと笑福亭純瓶師。テレビでお馴染みの愛くるしい笑顔で演じる上方落語は期待大。さらに、今回は超人気の自分の師匠の前で高座を努めるという大役も同時に受け持ちます。『純ちゃん』の声援の中、高座へ登場。「本当に沢山のお運びでありがとうございます。私の後は親子競演でございまして・・・気合が入っておりまして、暑い。着物がポリエステル。」「私が入門したのが昭和五十九年六月一日。翌、二日に師匠の師匠の六代目松鶴師匠に挨拶に行きまして・・・。ちょうど松鶴師匠が機嫌が良うて「よっしゃ、わしが名前付けたるさかいに・・・三百年の歴史上初めてでございますよ。私の顔をじっと見て「数字の(よん)に鶴瓶の(べ)で、死瓶(しびん)・・・。」これには場内は大爆笑。

嬉しそうにニコニコしての笑顔で語るマクラは続く。会場は『純ちゃん』モードに。サンTVの「水曜の気持ち」の宣伝をして、便利になった世の中を強調して、始まった初代春団治師匠の創作し、東京では『反対車』として有名な『いらち車』の一席が、あまり上方では有名ではないと断わってスタートした。

 上方では文太、雀三郎の両師匠が十八番として演じており、その両師匠をお手本に、全身で一生懸命、汗びっしょりで演じる噺に会場は大爆笑。そして、大喝采であった。

  そして、中トリは上方落語界、超売れっ子の笑福亭鶴瓶師匠が登場。今回も超過密スケジュールの中、『恋雅亭』なら、と出演を快諾。

これで震災後、95年7月『化物使い』。96年3月『大安売り』。97年6月『二人癖』。98年6月『長短』。99年10月『化物使い』と、年に一回のペースで登場された師匠である。

  各地での落語会に真剣に取り組み、今年も、上方古典落語を積極的にネタ下しをされる師匠。その前向きな姿での爆笑高座はおまかせである。

会場全体から巻き起こる拍手と笑いで迎えられた師匠。会場からは「上方大賞 おめでとう」と声が掛かる。つかみはお得意のトークである。よく「鶴瓶教」なる言葉を聞くがまさしくこの高座を聴いていると知らず知らず入信(あたりまえだが、御布施や経典はない)してしまう。

がっちりお客様を掴んだ、その師匠が演じた演題は『子はかすがい』。皆様よくご存知の古典落語の名作中の名作である。「えー、この噺はうちのお親っさんのテープで覚えたんですが・・・誰も教えてくれませんねん。それでテープで覚えましてん・・・その中で『しりすべ?』ちゅう言葉が分かりまへんねん。・・・テープで覚えるてもだめで・・・。けど、私だけですわ。この間も春団治師匠に稽古付けて下さい言うたら『いやや!お前とこの親父さんがいやや言うてんのに、わしも・・・。』言われましてん。」

『しりすべ』については故米之助師匠に教えて頂いたことを紹介。「『この噺、時代は大正の末期。豆腐。風呂屋が七銭。鰻が二十五銭。 ・・・』と、よう知ってますわ。その米之助師匠も、もういはりまへんし、米朝師匠に生きててもらわんと・・『出丸!言うたらあかんぞ!』」で、スタート。

 東京でのこの噺は、『子別れ 上・中・下』と分れる一時間半にも及ぶ超大作で、『文七元結』『鰍沢』と並んで本格派で演じない噺家はいないとされている。一方、上方では余り演じ手のいない噺であったのだが、故笑福亭松鶴、笑福亭松之助師匠から多くの演者に口伝されている。家を出て行くのが、夫(男)か嫁(女)の違いで、『男の子別れ』、『女の子別れ』と区別されており、・・・・このうんちくは紙面の都合でカット。

 鶴瓶師匠は、六代目師匠と同じく結構な『女の子別れ』であった。

そして、中入後は、笑福亭仁福師匠。軽くて、ほんのり、暖ったかい人柄そのままの高座は、何でも十八番の爆笑噺です。

 中入り後、いつものように、はずかしそうに高座へ登場。さっそく、暖かい高座が始まる。前出の鶴瓶師匠の高座や、世間話で笑いを誘うがスベル。小豆島で「それではお迎えします三笑亭にふく(仁福)さんです。どうぞ・・・。でっせ。この間は『ごふく』でっせ。・・・売れまへんでん・・。」と、ぼやきの高座から、本日の演題は『手洗廻し』。

  この仁福師匠の高座中に、大問題が発生する。連絡不足か、師匠の勘違いか、染丸師匠が到着しないのである。さっそく電話で連絡すると「まだ家に居る。今からすぐ行く。」とのことであった。

  さて、どうしようとなっての結論は、仁福師匠が延ばすということで、高座に上がったのであったが・・・。『手洗廻し』自体は、師匠のイメージと田舎の、のんびりとした風景とが一致し、やや、オーバーアクションが会場の爆笑を誘った名品であった。

  もうひとつの目的の延ばすほうは、マクラをタップリ振っての高座であったのだが、いかんせん『手洗廻し』自体は、約十五分の噺である。ここでの演題は、師匠十八番の『寝床』ではなかっただろうか?

  それはさておき染丸師匠がまだ来ない。そして、再度の鶴瓶師匠の「僕が、つなぎますわ。」の一言で、再演が決まった。今の仁福、なんでんねん。『僕、延ばしますわ。』言うてあれですわ。」と、鶴瓶師匠がもう一席というクリスマスプレゼントとなった。

  お客様は大満足。ドッカン、ドッカンと大爆笑が起こっての高座は約三十分も続く。題して『鶴瓶噺』。

  そして、トリは、四代目林家染丸師匠が到着する。着替えもそこそこに『正札付き』の名囃子に乗って高座へ登場。がらっとムードが変わる。二十世紀をビシッと締めてるとあって、師走らしく『掛取萬歳』か、襲名披露で演じた『たばこの火』か、新世紀への架橋『三十石夢の通い路』か。はたまた? と期待が膨らむ。

 「えー、まあ、なんと申し上げてよろしいやら、私は二十日とばっかりと、思ってましてまして、もう百年前から十日でっしゃろ。間違える時は、そんなもんですわ・・・。遅れたけど、一生懸命演(や)ろと思ってると舞台の袖で『後で打ち上げありまっさかい。短く!』てなことを言いまんねん・・・。ところで今日は何が出てまんねん。」と今日の演題を楽屋と確認し、時間が押していたので、マクラもそこそこに、始まった演題は、『尻餅』。

 先代・当代染丸、小染師匠と林家一門のお家芸であるこの噺、時期的にもピッタリ。もちろん、出来は、すこぶる付きの ◎ 。先月の松喬師匠とネタがダブった感はあったが、同様に拍手が起こる名演となった。