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       第260回 公演の記録           吉村 高也
       公演日時: 平成12年 4月10日(月) 午後6時30分開演  

                 
出演者               演目
   笑福亭 瓶 太田楽食い
   桂   坊 枝けいこ屋
   桂   小 福代書屋
   露の  五 郎たけのこ
    
中入   
   笑福亭 鶴 志天王寺詣り
主任 笑福亭 松 枝饅頭怖い

今回は、四月の第二六〇回公演。トリに笑福亭松枝、中トリに露の五郎、さらに、カブリに笑福亭鶴志師匠がズラリと揃った恋雅亭絶賛の顔合わせとなった。

 いつも通りに開場。階段に列をつくられたお客様の列が、吸い込まれるように会場へ入場されたのは定刻の五時半。そして、六時半に開演。当日は月曜。さらに天気は雨の影響もあってか、久々お客様の出足の悪いの中でのスタートとなった。

 その中、トップは笑福亭鶴瓶一門から、笑福亭瓶太師(キャリア十二年・昭和六十三年入門)が『石段』の出囃子に乗って、当席へは二度目となる高座へ登場(前回は元気一杯『大安売り』を演じた)。「えー、(客席から「待ってました」「ええ、男!」「きゃー」と声援がかかる)ありがとうございます。私が笑福亭瓶太でございます。(相変わず、会場からは声援が・・・やかましいなぁ。おばちゃん、あんたの方が声、大きいがな」「えー、ここ、恋雅亭はメンバーも厳選していますが、今日は酒癖の悪い人選でして・・・。今日は酒飲みの噺を・・・」と『田楽食い』の一席が始まる。この噺は別名を『運廻し』とも言う『寄合酒』と対のような噺である。

  演じ方には二通りあり、金は無いが酒を飲みたい若い衆が、兄貴分の家にある酒をあてこんで飲みに行き、田楽を食べる演じ方。もう一つは、持ち寄り散財(ただで手に入れたあて)をするのだが、失敗の連続で、食べられなくなってしまい、そして、田楽を食べる演じ方。後者の方はやや無理があるが、時間をつなぐ場合や、リレー落語として、よく演じられる。

笑福亭瓶太師は師匠の落語へ傾注の影響を色濃く受け、きっちりと前者の演じ方をした。

  「ん」の字の数だけ田楽が食べられことになり、考えた「ん」の言いたては、「よお、言わん(1本)」「南京(なんきん・2本)」「ミカン、キンカン、こちゃ好かん(4本)」「コンコン、チキチン、コン、チキチン(祇園祭・5本)」「テンテン天満の天神さん(6本)」「本山、坊さん、看板、ガーン(7本)」と故初代桂春団治師匠から続く、セオリー通り。

そして、「かあさん、お肩を叩きましょ。タントンタントンタントントン・・・トン」と8本。「新幹線、今晩、突然、停電、全線、動かん、運転困難、原因判らん」17本と、ぐっと現代の工夫が入った「ん」廻しになる。

  さらに、例の「先年、シンゼンエンの門前・・・」の43本の言いたてでお後と交代となる。

  二つ目は、桂文枝一門から桂坊枝師が登場。「えー、応援をしてくれるお客様がいるということは、心強いもので・・・」と坊枝師の高座がスタートする。師は昭和五十八年に入門し、童顔のため師匠から坊枝と命名された。ラジオでの軽るくて、可愛い活躍はご存知のところですが、今日は上方古典落語にキッチリと演じる。今日の演題は『けいこ屋』。この噺は当然のこと師匠直伝である。

 女性にもてないため、色事に忙しい男がもてる工夫を聴きに甚兵衛さんところへ。「そら、昔の人の言うてはることをちょいちょいと小耳に挟んどくこっちゃ『一見栄(みえ)、二男、三金、四芸、五精(せい)、六おぼこ、七台詞(せりふ)、八力、九胆(きも)、十評判』の一つでも我が身に備わっていると、おなごが出来るちゅうなぁ。」と話を聞く。

 顔と芸の話を聞いて、打つ手なしと考えた甚兵衛さんは、横町のけいこ屋のお師匠はんのところへ行くことを薦める・・・。

  「横町を曲がりますとけいこ屋はん・・・正面では、十二、三の女の子を舞台に上げまして、越後獅子、踊りのけいこ真っ最中。そこへ、右のあほ、さーくさくやってきよった。さぁ、しっかり、舞いなはれよ。」のキッカケで英華嬢のお囃子が華やかに入る。

  この噺へ登場の小川市松なる女師匠。今までは、ちょっと細身の色気溢れるイメージだったが。過去、当席では、どちらかというと細身の桂文枝、林家染丸、桂文太、桂春駒、桂小米朝、桂む雀の各師匠が演じられていたせいか? 

 ぽっちゃり、ふっくらの坊枝師の小川市松師匠も結構、勿論、全編爆笑の渦であった。

  そして、三つ目は、福団治一門の総領弟子、桂小福師。「私が、大阪文化祭奨励賞に輝いた桂小福さんです」と自己紹介し、噺家に最も適している師匠譲りの「胴声」という、よく通る声と、ややゆっくりしたペースで、本日演じる上方落語は『代書屋』。

主人公は、大師匠にあたる三代目春団治師匠が演じる河合浅治郎ではなく、田中彦治郎である。よく練り込んだ噺らしくツボツボで笑いが起こる名高座であった。

 さて、中トリはご存知、上方落語協会会長、露の五郎師匠。名囃子『勧進帳』に乗って万雷の拍手で高座へ。一礼で「えー・・・」と始まるが拍手が鳴り止まない。しばらく待って「えー、見てもろてましたかいな。朝の連続テレビ小説・・・(見たという拍手多数)。ありがとうございます『あすか』というね。あの主人公の可愛いこと。ねえ、それに引き換え、あの暖簾会の会長。いやな奴でんなぁ。あれわ、なんの恨みがあんのんか知らんけど、ぐじゅぐじゅいびりたおしてね。最後にちょっと、よおなったら終わりですわ。けど、テレビと現実とがごっちゃになってね。こないだも近所の奥さんから意見されまして『もう少しなんとか・・・』。弟子にも気の毒がって『大変ですね、あないごちゃごちゃ言われて・・・』。その時、弟子は絶対否定しません。」

  そして、今と昔のテレビCMの話題から、季節感の話、売り声の話と師匠十八番の話題が続く。もちろん「人さんから、ぼんぼん、ぼんぼんと言われてた子と遊んでた・・・」も出て大爆笑。竿竹、印肉の詰め換え、コウモリ傘の修繕、松茸と筍の売り声の話。そして、松茸狩りの今昔から松茸の探し方、筍の探し方の話題。会場との会話や一体感を楽しみながらから五郎師匠の世界が続く。

 そして、「べくない、べくない・・・」と本題に入る。『たけのこ(たけのこ手討ち)』である。実に粋な噺であるが難しい噺であり「滑稽噺・芝居噺・人情噺・怪談噺・創作噺」と何でもこいの師匠ならではの演題。 今回が三十一回の口演を数える師匠だが、この噺は初演題。トントンと演じてサゲとなった。(当席では、過去、昭和六十年七月の第88回公演で桂文紅師匠が『たけのこ手討ち』『尿瓶の花活け』と連続して演じられて以来、十五年ぶり)

  そして、中入り後は五枚笹(笑福亭一門)が並らぶ。まず『だんじり』で笑福亭鶴志師匠が元気一杯で登場。まず初舞台の話「えー、私の初舞台は大阪新世界のジャンジャン横丁にあった『新花月』で今から二十六年前ですわ。こんな雰囲気(恋雅亭)と、ちゃいまっせ。目が違います。拍手もなく、出てきたら『こら!やめんかい』『引っ込め』ですわ。」と笑いを誘い。「暑さ、寒さも彼岸まで・・・」から、師匠直伝の『天王寺詣り』の一席。

  話題は変わるが、今日の演題は、直伝の噺が多い。この『天王寺詣り』やトリの『饅頭怖い』は当然、故松鶴師匠から。坊枝師の『けいこ屋』は師匠の文枝師匠から、『代書屋』は大師匠の春団治師匠から、そして、瓶太師の『田楽食い』は師匠の鶴瓶師匠と言いたいが、兄弟子の故松葉師匠(七代目松鶴)から。

  その直伝の『天王寺詣り』をキッチリと演じる鶴志師匠。「元気な頃の師匠(松鶴)は鶴志。弱った頃の師匠は小松」と言われるだけあって、豪放磊落な笑福亭のお家芸。スケッチ落語のこの噺を聴いて、元気な頃の六代目の師匠の高座を思い出した。

  そして、今回のトリは笑福亭一門の重鎮、笑福亭松枝師匠。

 昭和四十四年、故六代目笑福亭松鶴師匠に入門し、松枝。現在まで本格的古典落語一本の師匠。過去、当席でのトリで『一人酒盛』『たばこの火』『口入屋』と、トリに相応しい上方落語を演じられている師匠で、楽しみな中、「私、もう一席のところで、えー、今回の出演者は上方落語協会の顔のええ六人で、来月は性格の悪い六人で、ちなみに露の五郎師匠は本当は来月の出演予定で・・・」とマジともシャレともとれる話からスタートし、さっそく、本題の『饅頭怖い』へスッと入る。

  この噺は、東京では前座噺の代表のように演じられる機会も多く、また時間も十二、三分と短いが、上方では三十分を越えるネタにもなるのである。というのは、この噺は、「好きと嫌い」「狐に騙される」「怪談調」「饅頭怖い」と四つの噺を自由に足したり、カットしたり出来る噺であるからである。(小生の手元にある五十三種類のこの噺の上演時間は、八分から四十五分まで千差万別である)

  その噺を松枝師匠は「好きと嫌い」から「饅頭怖い」を二十二分で演じた。随所に師匠独特のくすぐりと絶妙の間に大爆笑が連続の高座で無事、お開きとなった。                      

平成十二年四月十日