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       第259回 公演の記録           吉村 高也
       公演日時: 平成12年 3月10日(金) 午後6時30分開演  

                 
出演者               演目
   笑福亭 喬 楽みかん屋
   桂   文 昇狸の賽
   桂   都 丸禁酒関所
   林家  染 丸けいこ屋
    
中入   
   桂   あやめ厩火事
主任 笑福亭 松 喬崇徳院
 

今回は、三月の第二五九回公演。トリに笑福亭松喬、中トリに林家染丸。さらに、桂都丸、桂あやめの各師匠がズラリと揃った恋雅亭絶賛の顔合わせとなった。

 いつも通りに開場。階段に列をつくられたお客様の列が、吸い込まれるように開場へ入場されたのは定刻の五時半。当日は会員様を中心にお客様の出足も好調で、前列の方から席が埋まってゆき、六時半に開演。

 トップは笑福亭松喬一門から、四番弟子の笑福亭喬楽師(キャリア八年・平成三年入門)がトップで登場。
実は、当方のミスで喬楽師には悪いことを二つしてしまった。

  @ 出番を喬楽師であるのに、生喬師と紹介したこと

  A  前回の平成三年入門紹介の記載で本名を川満を川崎と誤植したこと

  この場を借りてお詫びと訂正を致します。

『石段』の出囃子に乗って高座へ登場した喬楽師。「初めての出演でございまして笑福亭喬楽でございます。よろしくおつきあいを・・・」とあいさつし、世界の億万長者の話から「お金の噺で・・・」と断わって、本日の演題は笑福亭のお家芸ともいえる『みかん屋』。

 この噺、師匠は勿論、大師匠(六代目松鶴)や一門でも演じ手の多い噺で、東京へも先代(四代目)小さん師匠によって『かぼちゃ屋』として移植されて、これも演じ手の多い噺である。

  その噺を喬楽師は、純上方風の演出で長屋の便所から商売のきっかけが始まる(東京ではこの演出はない)

     *落語ミニ情報・・・「恋雅亭」での『みかん屋』**

  喬楽師の演じられた『みかん屋』は、恋雅亭では数多く演じられているのでは? とちょっと調べてみた。これが、意外と演じられていないのである。今回の喬楽師で、八回目である。演じられたのは、故桂 春蝶、桂 都丸、露の団六、桂 喜丸、笑福亭仁勇、桂出丸、桂 文華、笑福亭喬楽の各師匠連である。

二つ目は、桂文枝一門から桂文昇師。師は昭和五十九年に入門。師匠が本名の上国の一字を取って桂小国と命名。師匠が文枝を襲名後、一門には「小」の字が付く名前(名跡)

弟子を襲名させる方針により、一昨年に文昇を襲名。(同様に小つぶ師が枝光を、小茶久師が枝曾丸を襲名している。小枝師匠は計画はないらしいが・・・)文枝一門の、そして当席期待の有望株で、会場のお客様もよくご存知。大きな拍手が起こる。

マクラは「えー、私も名前を変えまして初めての出演でございます。名前を変えて、この間、ビックリするようなギャラ貰いまして、高座が終わって降りてくると『はい、これ』と袋をくれましてん。袋が立ちますねん。ビックリして『はー、名前変えるとすごいなぁ』と思って、家へ帰って中開けるとこれが、ビール券でんねん。・・・そこで、師匠の言葉を思い出しましてん。『我々の仕事は世間にあっても、無くても、ええ仕事や。いわばギャラはあぶく銭や』・・・あぁ、そんでビール券か」(場内大受け)

  そして、麻雀の話題から、今日はお金にまつわる噺をと、『狸の賽』の一席がスタート。

  上方落語の最もポピュラーな噺だけに面白いし、笑いも多い。しかし、噺の筋立ては、良く知られているので、逆に難しい噺である。

  そして、三つ目は、ざこば一門の筆頭弟子、桂都丸師が登場。当席の常連であり、多くの爆笑落語は各公演で立証済み。やはり会場からの拍手も多い。(話は変わるが今回の出演者は、体型的に太、細、太、細、中入で細、太とコントラストが面白い)

 その太めの都丸師匠。高座へ登場すると「えー、私は、お酒を飲むと気が大きくなる性格でして、この前も京都からの終電に乗りましてん。前の客が酔っ払って、タバコ吸うてまんねん。注意したら、からんできましてん。こっちも酔うてまっさかい。言い合いになってしもたら、降りるん同じ駅ですわ。改札抜けたら、反対方向に一目散でしたわ。お互いによっぽど怖かったですわ。私も怖かった・・・。

それから、しばらくして昼間、駅でなんか見覚えのある人が・・・。よう見たらこないだの酔っ払いですわ。『やぁ、こないだは』『こっちこそ。どうも』『どうです、ちょっと一杯』これがええ男で、今や、飲み友達ですわ」会場は大爆笑。

  そして、「昔、お侍のいさかい(トラブルとは言わないところはさすが)が起こると大変で・・・」と、酒の噺の『禁酒関所』が始まる。

 さすがに練り込んだ噺だけに上手い。うまい。会場は爆笑につぐ爆笑で二十八分の熱演高座であった。

 さて、中トリはご存知、四代目林家染丸師匠。いつもはトリでの登場だが、今回は笑福亭松喬師匠に譲っての中トリで、いつも通りの『正札付き』の名囃子をいっぱい聞かせて高座へ。

「えー、突然でございますが、去年の十月に本を出しまして。売るなら本人自身が直接売るのが一番ええやろと言われまして・・・。今日は、たまたま、偶然にも持ってきております。ご入用の方はどうぞ」と本の宣伝をさらり。

  そして、当席では三回目となる染丸十八番の『けいこ屋』。過去は昭和五十四年三月の十二回公演。一年後の四月の二十五回公演の口演。そして、二十年後の今回の口演となったのである。

  色事をしたい男が、ぶさいくな顔と至芸?の話から、けいこ屋へ行くことになる・・・

  けいこ屋でのやりとりは、お囃子もタップリ入る(三味線は息もピッタリの英華嬢が担当)お馴染みの陽気な噺。大爆笑の連続の、三十分の長演で中入となった。ここまでの四席は、いずれも熱演。ここで定刻より十五分遅れとなる。

  中入後のシャギリが終わり、祈の入る直前に、染丸師匠が舞台へ。「えー、お蔭様で本が完売しました。まだ、お買い求めではないお客様は、また送らせていただきます。勿論、お名前も書かせて頂きます」とあいさつ。ここらが、生のよさであろう。

 さて、中入り後は、今や女流上方落語家の第一人者となった、桂あやめ嬢が登場。当席へは年に一回のペースで出演。今回も彼女独特の切り口の創作落語を元気一杯、楽しく表情豊かに聴かせてもらえると、客席が期待する中、『あやめ浴衣』で登場。

「えー、染丸師匠の本が完売したのを聞きまして、『なんで、私も持ってこえへんかったんやろ』と思いまして、実は私も今年の一月に本を出しまして」とつかみの笑い。

  そして、ワイドショーの話題が続く。その中でイチロー選手の結婚の話題。「何で、神戸の女の子が捕まえへんかったんや。神戸に豪邸建てて神戸に税金収めて、神戸空港も作ってもろて・・・」には大受け。

ホストのだまし方の話題に続けて、昔の女性に頼って生活している男が登場する噺、『厩火事』。あやめ師も言っているが、数ある噺の中で女性が主人公の東京落語である。

  その噺を上方風に、そして、彼女流に演出。得意の押して、怒鳴って、一流の切り口で大熱演。男性では表現できない女性ならではの心の動きも良く表現された口演であった(三十分の熱演)。その中にも、神戸の話題が出てくる。腹を立てた主人公が「そら、腹立つわぁ、そんな男、許されへん。家へ怒鳴り込んで、火炎瓶でも、ほおり込んで・・・おいおい、その話題は今の神戸では刺激が強よ過ぎる」これには、場内から大きな笑いで反応。神戸以外では難しいが・・・。

  そして、今回のトリは笑福亭一門の重鎮、笑福亭松喬師匠。昭和四十四年故六代目笑福亭松鶴師匠に入門し、鶴三。昭和六十二年に笑福亭の名跡六代目松喬を襲名し、現在まで本格的古典落語一本の師匠である。今回もトリに相応しい上方落語を楽しみにされたお客様の拍手と『高砂丹前』で高座へ登場。

「えー、私のほうは本も出しておりません。へへへ・・・この頃、本も読うと思ったら眼鏡要ります。本来でしたら、もうお開きの時間ですが、もう一席お付き合いを願いまして、もう短いのをトントンと演(や)って降りたらええんですが、なんか、イヤミやしね、もう遅なりついでさかい」

  松喬ワールドは、まず、初めてした結婚式の司会の話。「披露宴は何回もやりましたが、結婚式の司会ですわ。お父さんが宮司やさかい祝詞(のりと)あげたりせなあきまへんので、私が司会しますねん。緊張してね。タイミング判りまへんねん。目で合図もらいますねん。言葉もめちゃめちゃですわ。『はい、指輪どうぞ』とええかげんですわ・・・。」そして、本題へ子拍子を叩いてスッツと本題へ入る。今日は『崇徳院』。

 松喬師匠の高座が素晴らしいのは、マクラは現代調で面白く、本題に入ると、スッとその時代の雰囲気になること。さらに、言葉は昔の雰囲気を壊さない程度に現代調になっている点ではないだろうか。マクラではカタカナがどんどん出てくるが本題へは一切出ない。ここらが、古典落語をあまり崩すことをよしとしない師匠の落語への取り組み姿勢の現われであろう。

  噺はお馴染みであるが、場面展開や登場人物がそれぞれ生き生きと描かれている、トリに相応しい熱演は三十五分。大満足の公演であった。