第255回 公演の記録 吉村 高也 |
公演日時: 平成11年11月10日(水) 午後6時30分開演 出演者 演目 桂 出 丸 「牛ほめ」 |
十月の公演も大入り満員で無事お開きになって、今回は十一月公演を迎えた。今回は、中トリに桂春駒師匠、中入りカブリにTVでお馴染みの、桂きん枝師匠。そして、トリに「炎の噺家」桂ざこば師匠が登場。 十一月十日は水曜日。平日であるが、前売券の売れ行きは十一月になって絶好調。その影響は当日まで続き、「当日券はありますか?」の電話があいついだ。 当日は、十一月とは信じられないような、晴天で絶好のお出かけ日和。 いつも通り、お客様の出足はすこぶる好調。定刻の五時三十分には、開場を待たれるお客様の列が入り口近くまで続き開場となった。すぐさま、前列から席が埋まってゆき、開演の六時半には先月と同じく満席となったが、その後も来場されるお客様が続いた。
大入りとなった、この日のトップは、ざこば一門から桂出丸師。ケーブルTVの司会者として、神戸ではお馴染みの顔だが、師匠譲りの落語は、各地の落語会で活躍中。今回は、師匠と同じ高座とあって、張りきっての登場となった。
その出丸師が、和女嬢の弾く『石段』の出囃子に乗って高座へ。「えー、ありがとうございます。えー、二五五回の『もとまち寄席』ということで、トップバッターは桂出丸君でございまして・・・」とまずは自己紹介。各地の落語会の紹介から、『牛ほめ』の一席を、トップらしく最初からサゲまでキッチリと演じて交代となる。
二つ目は、三枝一門から、当席では二度目の出演となる、桂三風師。前回同様、こちらも師匠譲りの創作落語を披露して頂けると期待する中、高座へ登場。「落語界の新しい風・桂三風です。よろしくお願いします」と自己紹介。
マクラは、プロ野球、阪神タイガースの話題。そして、中日優勝が決まった瞬間から阪神ファンからダイエーファンに変わるおばちゃんの話。阪神野村監督夫人サッチーに代表される金満夫人の話、世界の名画を前に「きょうは、どんな、絵が入っているのかしら?」「奥様、モネでございます」「まあモネ、いいわね」「これが、シャガール」「シャガールもい、いわね」何も知りまへんで。「あーら、これ、知ってるわよ。ピカソでしょ」「いえ、奥様、それは鏡でございます」(拍手が起こる爆笑)。 美容整形の話では、「えー、野村さんの奥さん、大変だったんですって」「どうなさったのかしら?」「交通事故に遭われたんですって」「まぁ、お気の毒ね。顔がクチャクチャになったんですって」「お気の毒ね」「でも美容整形のお陰で元に戻ったんですって」「お気の毒ね」(爆笑)。
だんご兄弟ブームも去ったしと、ブームの移り変わりは早いと、今が旬の話題の『カリスマ理容師』の一席。カリスマ美容師と思って取材に行ったが美容師ならず、理容師。古典落語の『不精床』を土台にしたようなクスグリに、随所に入った三風師の工夫の演出に場内は大爆笑。 三つ目は、笑福亭一門から笑福亭伯枝師。さる七月に出演されたばかりの師だが、「ぜひとも」と、自薦での登場となった 」
「えー、恋雅亭はよろしいわ。わたい、今、浪花座へ出てまんねん。ここよろしいわ。・・・浪花座の楽屋はびっくりしまっせ」と、フラワーショーのバラ師匠と酒井くにお師匠の素顔を紹介。「ちょっと、怖いけど、好きですわ・・・」との楽屋の話から、人間は誰でも恋愛感情を持っているもんでと、マクラをふって、『故郷へ錦』を演じる。 ちなみに、前回の演題は、師匠(六代目松鶴)も十八番の『鴻池の犬』だったが、本日も師匠直伝。 *落語・ミニ情報 落語『故郷へ錦』について この噺は滅多に演じられることのない珍品。当席でもただ一回、昭和五十五年十二月の第三十三回公演「年忘れ艶一夜・大人のための道道話集」で演じられた記録があるだけである。 皆様はよくご存知であろうが、年末特番で開催されていた艶笑噺の公演である。 その時の出演者は次の通り。 ・蔵丁稚 桂 小 米 ・大名道具 森乃 福 郎(故人) ・茶漬間男 桂 米 朝 ・故郷へ錦 笑福亭 松 鶴(故人)
小生がこの噺と始めて出会ったのは、米朝師匠のレコード「いろはにほへと」である。艶笑噺を集めたレコードであるが、そのトリの演題として演じられたのが、この『故郷へ錦』であった。さらにこの公演での松鶴師匠の音と露の五郎師匠のCDがこの噺を聴いた全てである。 その後「続・いろはにほへと」と、松鶴師匠の「上方へそくずし」の三枚が小生の上方艶笑噺の宝物である。聞き比べてみると、両師匠の芸風がよく出ていて面白い。
その伯枝師、やや恥ずかしいそうに演じたのは御愛敬か。やはり、珍しいのか、サゲを言った後、しばらく、囃子と拍手が鳴らない。
中トリは、春團治一門から桂春駒師匠。愛称は、駒ちゃん。恋雅亭の陰の功労者であり、古典落語一筋の努力家。また、毎年十一月の独演会『春駒の会』では、新しい噺に挑戦して、持ちネタを増やしている。今回のネタ下しは『佐々木裁き』。
高座へ登場して、「えー、私のほうもお付き合いを・・・今日は受付で、春団治師匠と、ざこば師匠のCDを販売をしておりまして・・・」と宣伝パートTを。
そして、子供の話から演じた演題は、やはり『佐々木裁き』。多少、小生の独断になるかも分からないが、今、人間国宝の米朝師匠にちょっとした仕草が最も似ている春駒師匠。満を持しての米朝十八番に挑戦となった。 判かり難くなった、町奉行所や逸話談を紹介して本題へ入る。ちょっとこましゃくれた四郎吉と佐々木信濃守のとんち問答は、いつ聞いても面白い。中トリの重責を秀作で締めた駒ちゃん(失礼)、春駒師匠であった。
中入り後は、文枝一門から桂きん枝師匠が、『桂小つぶ改メ桂枝光襲名披露公演』以来の出演。
楽屋では、「ここは、なんぼやってもエエのん?何時までゆうのん決まってるんやろか?マクラ二十分振って、『動物園』で三分で降りたろかしらん」と言い残して高座へ。
高座へ笑顔を見せるや会場からは「待ってました」と拍手が起こる。さっそく、「これ言わな怒られまんねん」と、ざこば師匠のCDの宣伝パートU。
「えー、しばらくぶりの恋雅亭で、今、ネタ帳見ましたら五年ぶりですわ(実際は二年九ケ月ぶり)、落語やりませんもん。これは落語界の常識ですわ。着物も三枚しか持ってへんし、この着物もナフタリン臭いし・・・」と、きん枝ワールドへ。 そして、TVのイメージそのまま、軽くて楽しい、嘘か本当か分からないマクラが続く。特に「世間の常識は噺家の非常識。噺家の常識は世間の非常識」は名言。なんともええかげんな生活を暴露しつつ、それがネタになっているところが、きん枝師匠の芸か? そして、酒の話題へ。上方落語の各一門の酒の飲み方を披露する。「笑福亭松鶴一門は、酒飲みが多いので、酒の銘柄の話。米朝一門は落語談義。あっ、言うときますけど、ざこば師匠は入ってまへんで。春団治一門は病人が多いから薬の話。そして、文枝(うち)の一門は女の話ですわ。 去年までは三枝兄さんは参加出来ませんでしたけど、今年は楽しみですわ」と会場から笑いを誘う。このあたりできん枝十八番の『親子酒』かと思ったが、話題が酒から博打へ変わる。もちろん、横山やすし師匠が話題の中心。 マクラが十五分も続いた後の本題は、『看板のピン』となる。きん枝ワールドは全二十三分であった。
さて、今回のトリは、米朝一門の大黒柱、桂ざこば師匠が勤める。 最近の当席でも、二百回、二百六回、二百十一回、二百二十七回、二百三十六回と数多く、ご出演頂いている。今回も大変お忙しい中、出演をお願いしたところ、「六時に大阪の仕事が終わるねん。トリなら間に合うから、出るで」と、快諾をいただいての登場となった。今回も爆笑上方落語を期待する中、高座へ登場。 さっそく、CDの宣伝。「ありがとうございます。不景気は動かなあかんと、思いまして、何かと考えてましたら出来ましてん。酒、飲んで、むかむかしてたら、次々に言葉が出てきましてね。私はいつも、女は男に尽くせ言うてますよって、まず、これ歌詞にしたろ思てね。そしたら酔うてますから、どんどん出てきまんねん。『女房は旦那に尽くさんかい。尽くして尽くして尽さんかい。死ぬまでずーと尽さんかい。旦那は世間で戦こてる。惚れおて結婚したんやろ。だまってお茶を入れんかい。ごちゃごちゃぬかな尽さんかい。』これ一番ですわ」と、歌詞を紹介して宣伝。 師匠がこの噺を当席で演じられるのは、昭和五十五年以来、十四年ぶり二度目。今回も師匠直伝らしく、廓(くるわ)の説明からスタートしたが、噺の登場人物は、ざこば師匠を彷彿とさせるように生き生きとしている。場内は一言、一言に、そして、仕草に大爆笑。大満足の公演であった。 (平成十一年十一月十日・大入り叶) *恋雅亭・ミニ楽屋噺 落語『坊主茶屋』について 春 駒師:「にいさん(ざこば師匠)、今日は何を演(や)りはりまんねん」 ざこば師:「えー、『坊主茶屋』や。師匠にもろてんけど」 |