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       第253回 公演の記録           吉村 高也
       公演日時: 平成11年 9月10日(金) 午後6時30分開演  

                 
出演者               演目
   林家   花  丸ろくろ首
   笑福亭 猿 笑たがや
   桂   枝三郎蛸芝居
   笑福亭 松之助軒付け
    
中入   
   桂   小米朝あみだ池
主任 笑福亭 呂 鶴 「近日息子 

 八月の公演は、猛暑の中で開催され、熱演が連続する中、無事お開きとなって、今回は残暑の九月公演です。

  夏休みも終わり、落ち着きを取り戻した感のある元町商店街を通り、四時前に会場へ到着すると、サンTVの方がもう待っておられた。実は、毎週土曜日午後五時十五分からの「『ウィークリー神戸』ハイカラな街の笑いの灯・もとまち寄席 恋雅亭」に当席が取り上げられることになり、今はその取材があったのである。(なお、この模様は九月十八日に、約十分放送された)

  さっそく、開場の準備をし、取材を受ける。まず、小生が対談形式で当席のなりたち、小生の関わったきっかけ、二度の危機(楠本さん逝去、阪神大震災)、当席の特徴、今後の予定、等々を、自分で言うのもおかしいが、しゃべりの小生、よくしゃべったと自分で自分を褒めた。

 しかし、カットが多かったが。会場準備の様子や、お客様や神戸風月堂の細井支配人へのインタビューが続く。

  次の小米朝師匠へのインタビューが長引き、開場が約十分遅れた(紙面を借りてお詫びを申し上げます)。階段の上まで並ばれたお客様が続々入場され、六時半の開演時には、後方に少し空席が残る九割方の入りとなった。

 トップは、林家一門から当席二度目の林家花丸師。前回は『二一一回・染八改メ五代目林家小染襲名披露公演』で、三年半ぶりの出演。同人会が一押しの期待のホープ。始まる前に楽屋で小 生「永らく待っていただいて・・・」

花丸師「いやぁ、嬉しいですわ。電話かかってきた時、夢かと思いましたでがんばります」

小 生「顔が、ちょっと赤いですけれど?」

花丸師「実はちょっと熱がありまんねん。三十八度位かなぁ。若いから大丈夫でっせ。今日は『ろく

ろ首』を・・・」

猿笑師「僕、珍しい『亀佐』でもと思ってたけど、亀も首だし、首で付くなぁ。そうだ、夏らしい『たが

や』を演(や)ろう」

花丸師「そっちの方が付きまんがな」

猿笑師「そうだなぁ、やっぱり、『たがや』演(や)ろう」

  一番、二番太鼓を元気に叩いた後、『石段』の出囃子で高座へ登場した花丸師。自身の年に一回の落語会『花丸ワールド』の宣伝から、さっそく本題へ入る。今日は夏らしい?『ろくろ首』の一席。

  この噺、題名だけ聞くと「怪談かいな?」と思ってしまうが、東西で演じられる前座噺の秀作。数多くの演者が工夫している噺だけに、随所に笑いが多く楽しい高座であった。声の通りも良く、元気一杯の『花丸ワールド』であった。また、再演を期待したい。

 二つ目は、笑福亭一門から笑福亭猿笑(えんしょう)師。坊主頭で演じる江戸落語は、芸名の由来(故三遊亭円生師匠と同音)と共に当席では有名。今回もきっぷの良い噺をと期待の中、予定通り、夏の東京落語の華『たがや』の一席をキッチリ東京風に(一部に上方調のコテコテは入っていたが)演じられた。

  サゲの後、「ちょっと時間を」と断わって、真っ黒な布を丸く切って真ん中を開けた小道具を使っての珍芸を披露。「日の出」「カウボーイ」「ナポレオン」などで笑いを誘って前回の膝人形同様、大受けの高座であった。

  三つ目は、三枝一門の勉強家、桂枝三郎師。茶髪での創作落語、はめものタップリ入った上方古典落語も結構。鶴瓶師匠に「あいつ、僕よりうまいですなぁ」と言わせる「枝さん」の高座はいつも楽しみである。

  上方落語界一の落語通と自認する、枝さんと落語談義を始めると今日は師匠の「東京妻騒動」の話となった(内容は皆様よくご存知の部分に加えて多少オフレコの部分有り)。

  会場からの拍手と掛け声に迎えられて、『二上がりかっこ』で高座へ登場。「えー、恋雅亭も随分雰囲気が変わりまして、今の高座は『浅草演芸ホール』のような感じで、只今の猿笑さん、おかしいもんで、落語界では早く入った(入門)ほうが兄さんです。本当の歳はあの人のほうがずっと上ですが、還暦を迎えられるそうで、兄さんの私はまだ、厄も迎えていないという・・・」「最近は色々なことが起こりまして、昨日は1999年9月9日。9時9分9秒に何かが起こると聞いておりましたので、TVをパッと付けますと『桂三枝に東京妻』。ビックリしましたで(場内大爆笑)。

(笑いながら)我が師匠の話題。皆様の方はそんなにではございませんでしょうが、私の方はビックラこきました。恐ろしいもんがありますが、今日はなるべくその事には触れずに」と、今ピッタリの話題。話題は花月の話題へ。「花月のお客さんと違ってこちらは、奇麗な方から・・・、幅広く来て頂いて(場内爆笑)、最近は奇麗な方が増えましたなぁ。夏休みの間に、ワイドショーで悪いのんばっかり見ましたから、そう感じるのでしょうか、サッチー、ミッチー、それに、鈴木その子ね。あの人を初めて見た時『この人、顔じゅうに汗疹(あせも)できてはんのかなぁ』と思いましたで、昔、よう、付けましたがな、白い粉・・・」

  さらに東京と大阪の知事の話題へ。「東京の知事は鷹派てな呼ばれ方されてまんな、カッコよろしいで『たかは』。その点、大阪は違いまんな『蛸派(たこは)』ですわ。

  さらに「ノック知事が選挙期間中にセクハラしたちゅう事件おましたやろ。東京では、やったかやってないかで、もめてまんねんと。けど、大阪では、皆さんも分かってはりまっしょろ。やってるか、やってないか?・・・そんなもん決まってますわな、やってるに(場内爆笑)」「反応もちがいまっせ、東京やったら『ふしだらな。すぐ辞任や』えらい事でっせ。けど、大阪は違いますわ『うまいことやりよったなぁ』(場内大爆笑)」

  マクラで充分笑いをとった後、「さて、楽屋は大変でございます」と断わって、大師匠(五代目桂文枝師匠)直伝(本人曰く、一門で直伝は私一人)のお囃子がタップリ入る、上方落語の大物『蛸芝居』。

  お囃子方は、桂小米朝師を中心に大忙し。今回は楽屋袖で観ていたので、その難しさと、小道具の使い分けの見事さに改めて感心させられた一席であった(つけの音が耳に響いた)。

  そして、中トリは、笑福亭松之助師匠。大正十四年生まれで上方落語界の最長老。いつまでもお元気な師匠。今日もあーちゃん(元タカラジェンヌ)連れで楽屋入り。

  さっそくご挨拶したところ、元気一杯で「今日は『軒付け』演(や)らしてもらおうと思てます」とのこと。

  高座での師匠はいつもの通り、「昔は近所にも、浄瑠璃好きの方が多数おられまして、私の生まれた色街、福原にも仰山(ぎょうさん)置屋さんがありまして、そこの旦那衆などは・・・」と、本題と関係のある話題の浄瑠璃の話題と自分の昔話から『軒付け』の一席が始まる。

  この噺は師匠の崇拝する、五代目松鶴師匠の得意ネタとあって、キッチリと演じられる。

ただ一ケ所、お婆の返事のところで、師匠自身が自分で笑い、自分にツッコムところがあったのはご愛敬であろう。

 もっとも、最近はそうして(噺の中で、自分で自分をツッコんで)自身で楽しんでおられているらしい。場内、大爆笑、大喝采のうちにお中入りとなった。

  中入り後は、米朝一門から当席の常連、桂小米朝師匠。過去『替り目』『けいこ屋』『七段目』の熱演が思い出され、さて今回は?と期待の中、高座へ登場し、さっそく今日行われたサンTVの取材の話からスタート。

 マクラは買い物の進歩の話。どんどん進化しているが、進歩していないのは落語であり、目線の使い方で大きな部屋と小さな部屋の表しかたを稽古する話から本題へ。本日は、師匠直伝の『あみだ池』の一席。

 明治の新作として作られ、初代春団治師匠の十八番でもあったこの噺、二代目(春団治)師匠、

六代目(松鶴)師匠、そして、露の五郎師匠は、どちらかというと、次々に言葉をかぶせていって笑いをとるといった演出である。これに対して米朝師匠は、間で笑いをとる(お客様が笑うのをひと呼吸待つ)演出をしておられたが、今回の小米朝師も師匠譲りでゆったり、たっぷりと楽しませていただいた。

  さて、トリは笑福亭一門の中軸、笑福亭呂鶴師匠が久々にトリで出演。師匠直伝の噺はもちろん、他の師匠連からの口伝の演題も豊富で、各落語会へも数多く出演。ご自身でも開催されたりと活躍中で、今回もトリにふさわしい上方落語をと期待の中、本日は豪放磊落の笑福亭のお家芸ともいえる『近日息子』の一席。

  前出の『あみだ池』も今回の『近日息子』も、二代目春団治師匠の十八番である。呂鶴師匠の演じ方は、前出の小米朝師とは違い、汗をかきかき、大声で次々に言葉をかぶせていって笑いをとるといった、力で押す演出で、これに場内は大爆笑。

 打出し後、「ローやん、良かった」「久々に腹から笑った『近日息子』やった」「トリで『近日息子』?と一瞬、思ったが大満足」との言葉を多数の常連さんから頂いた。

       (九月十日・八時五十五分・打出し)