もとまち寄席 恋雅亭
公演記録    第250回
◆春駒HOME◆恋雅亭TOP◆公演記録目次
 公演日時: 平成11年 6月10日(木) 午後6時30分開演
 開席第250回記念公演  <創作落語の会>
    出演者      演目

    桂    三 象
 「くもんもん式学習塾 
  月亭   遊 方  「葬マッチトラブル 」
  桂    あやめ  「朝起きたら
  笑福亭  福 笑  「もうひとつのニッポン
  中入
  
笑福亭  仁 智  「アフリカ探検
  桂    三 枝「 め組火消しカンパニー (主任)
                  

   今月は、開席第二百五十回記念公演。
当席初の試み、オール創作落語の競演。創作落語の名手が、その個性をぶつけあっての公演を企画しました。
前売り発売当初から大盛況。ついに六月三日、予定していた枚数も完売。
 しかし、それからも問い合わせは途切れず「当日券はありますか?」との電話がひっきりなし。「前売券は売り切れました。当日券は少し発売しますので、お早めにお越しください」との受け答えに終始する一週間であった。
そして、なんと、当日券を求める一番乗りのお客様は、開演の四時間前の二時半に来場された。平日にも。かかわらず、来場されるお客様のペースは衰えないまま、階段の上までお客様の列が、ついに定刻よりやや早い五時二 十五分に開場。
またたく間に、すぐに会場は一杯。その後も「立ち見でもエェから入れて」の声に断わりきれずに、入場していただいたお客様もあって、会場は大入り満員の盛況。

 超満員のお客様の拍手の中、『石段』に乗って、トップバッターの桂三象師(当席二度目の出演)が、そのとぼけた風貌で高座へ登場するや、会場は大爆笑。
 しばらくの間、当人もその笑いを上手に使って本題へ入る。本日の演題は師匠直伝の『くもんもん式学習塾』。組を解散し、開いたのは学習塾。
 ちょっと怖いその筋の先生の教え方は・・・。英語の時間では、「否定命令文(**するな)では、ドントを使う。『ドント ルック アットミー』は『めんちをきるな!』。『ユーゴー ツー スクール アトワンス』は『おんどりゃ、直ちに、学校へ行きさらせ!』」・・・。
 びびった生徒は一生懸命、勉強し、成績はぐんぐん上がる。親との進路指導で「どこに入ったら?」の質問に「府中、網走・・・」と監獄の名前を挙げるトンチンカンもあるが、子供の学力はぐんぐんアップしており、親は手放しで大喜び。
 そして、ついに参観日前日となる。塾長「おい、明日はいよいよ父兄参観日じゃ、えらいこっちゃ」先生「まかしといておくれやす。父兄参観日は、わしがきっちりしきまっさかいに」塾長「あんまり、はりきりなや、父兄、言うても大阪府警や」デンデン。
「本日の秀逸」と言って帰路に就く常連さんも出る名演であった。

 二つ目には、八方一門から月亭遊方師。現代風の語り口で演じる落語は楽しみなところですが、今回も元気一杯で高座へ登場。まず、マナー、礼儀の話題から。混浴でのおばちゃんの行動を話題に笑いをとって、葬式でのマナーの話題へ。
 そして、今日の落語は『葬マッチトラブル』。鼻に餅を詰める芸をしていて死んだおやじさんの葬式を出すことになった息子夫婦と葬儀社社員との会話が笑いを誘う。

* 落語ミニ情報・其の一(昭和六十一年入門組)(あいうえお順)
昭和四十九年、六十二年、平成三年に続き、今回は昭和六十一年入門者をちょっと紹介。
 ・桂   きん太郎 (本名 武守克朗。桂きん枝師匠に入門。きん枝師匠の一番弟子。テレビの
              レポーターでも大活躍)
 ・桂    三 象   (本名 梶原一弘。桂三枝師匠に入門、三造。平成四年に三象へ改名。
              吉本新喜劇から噺家に。昭和三十一年生まれなので、今年四十三歳。
 ・桂    珍 念  (本名 瀬尾恭弘。桂文珍師匠に入門。最初は漫才をやっていたが、
              その後師匠の芸に惚れ落語家へ。今は落語一本である)
 ・桂    茶がま  (本名 山崎広士。桂文福師匠に入門。師匠とセットで「文福茶釜」。
              岸和田出身の好青年。
 ・笑福亭 恭 瓶  (本名 左海隆広。笑福亭鶴瓶師匠に入門。福岡出身で、兄弟子の
              笑瓶師匠が目標である)
 ・笑福亭 鶴 児  (本名 上田忠正。故六代目笑福亭松鶴師匠に入門。六代目の最後の弟子。
              芸名の通り、いつまでも若々しい高座である)
 ・月亭   八 天  (本名 宮田健司。月亭八方師匠に入門。現在、最も意欲的に落語会を
              開いて、多くの噺に挑戦している若手である。神戸でもお馴染みである)
 ・月亭   遊 方  (本名 斉野 茂。月亭八方師匠に入門。八天師の兄弟子にあたる。
              創作落語に意欲を示す、いつまでもチャレンジ精神溢れる師である。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 そして、三つ目は、皆様良くご存知、神戸出身の桂あやめ嬢の創作落語となる。名調子『菖蒲浴衣』であやめ嬢が登場すると、場内はまちかねたように大喝采が巻き起こる。余談だが「神戸新聞・とくとくコーナー」への申し込みでのコメントで一番多かったのは、このあやめ嬢へのものであった。舞台へ登場し、「えー、この間、胸の骨折りましてね。・・・」から始まった、あやめトークに場内は爆笑の連続。やはり、上手い。骨を折って、初めてした仕事や報道のされ方など、もうネタになっている。
 そして、今日の本題は、やはり女性ならではの切り口の自作の創作落語『朝、起きたら・・・』。
当日、お聞きになられなかった方も、題名を聞いて想像される通りの内容である。前日の深酒で、朝、起きたら何も覚えていない主人公が隣に寝ている男性は誰かを思い出していくストーリーである。これが、面白い。思い当たる人も多いのか、笑いが絶えない。落語は元来、男性の立場で作られたものが大部分であるが、女性の立場での落語もまた、面白いものである。

 中トリは、笑福亭福笑師匠。しかし、この後、仁智、三枝の両師匠が登場するとは、なんとも贅沢。
その福笑師匠、最近も当席では『きょうの料理』『憧れの甲子園』『再生おじさん』と爆笑噺のオンパレードで、今回も期待大。登場するやいきなり「しかしなんでんなぁ、あの野村サッチー。むちゃくちゃでんな・・あの女、嘘ばっかりでっせ・・・。」と野村夫人の話題。そして、関連のデビ夫人、神田川氏などをバッサリ。とても、TVでは表現できない過激な内容に会場は大爆笑の連続である。そして、「まったく関係ない話題へ」と断わっての演題は『もうひとつのニッポン』。
 実はこの噺を演じるには裏話がある。当初、福笑師匠は今日は別の噺を演じるつもりであったらしい。しかし、その噺が葬式の噺であったため、前の遊方師の噺と「噺が付く」ので急遽変更したのである。当日、それも前の演者の噺を聴いて変更出来るのはさすがである。もっとも、師匠はしごく当然のようにやってのけたのである。
この『もうひとつのニッポン』は当席では、過去2回演じられている。
 <84年10月・第 79回公演>      <86年 7月・第100回公演>
・ゴダールに愛を    小 春   ・祝のし               小つぶ
・時うどん       吉 朝   ・三人旅               仁 智
・天王寺詣り      春 駒   ・もうひとつのニッポン 福 笑
・湯屋番        仁 鶴   ・親子茶屋             春團治
  中  入             中  入
・もうひとつのニッポン 福 笑   ・悪魔のアイスクリーム 文 珍
・七両二分       福 郎   ・地蔵の散髪      仁 鶴
                 ・京の茶漬       小文枝

* 福郎師匠は平成十年死去。小春は現小春團治、小つぶは現枝光、小文枝は現文枝の
  各師匠である。

  前回演じられてから、はや十三年。初演から数えると十五年経つのであるが、決して古くない。日本を良く知る?外人が巻き起こす、なんともけったいな合弁事業交渉の噺に場内は待ってましたとばかりにドッカン、ドッカンと爆笑が続く。
 ニッポンのビジネスマンとてもケンベンです。社長を「将軍」、そして、社長が不在で代理の部長に対しては「影武者」。ニッポンを真剣に勉強したので目の色が変わった・・・・。
サゲは、京都で宴会をとタクシーに乗ろうとする二人。
「早う乗って、行きましょう」「違いまーす。これです私の乗りたい車は」「どんな車?」「金ピカで彫り物が一杯、付いてる車です」

 中入り後は、笑福亭仁智師匠。中トリの福笑師匠とは、同じ野球物でも福笑師匠の『憧れの甲子園(監督の過激なぼやき)』と仁智師匠の『目指せ甲子園(商店街のおっさんの世間噺)』と、対照的。ソフトでいつまでも若々しい芸風と高座の仁智師匠、今回は、当席で過去4回演じられている『アフリカ探検』。
  <86年 5月・第 98回公演> <86年12月・第105回公演>
  ・四人癖     枝女太       ・・上方落語を食べて観る会・・
  ・宿屋町     吉 朝         ・子ほめ         松 葉
  ・アフリカ探検  仁 智         ・アフリカ探検  仁 智
  ・千両みかん   福 郎        ・寝床            染 二
   中  入                ・七度狐         仁 鶴
 ・仏師屋盗人 鶴 三
 ・らくだ     松之助


<88年10月・第124回公演> <92年 1月・第165回公演>
 ・狸の賽    枝女太        ・竜田川    喜 丸
 ・鹿政談         市 染          ・お玉牛        学 光
 ・アフリカ探検  仁 智                  ・初天神        文 太
 ・長持             福 郎                  ・マラソンマン 福 笑
    中  入                                    中  入
 ・口入屋        春之助                 ・アフリカ探検 仁 智
 ・青菜            仁 鶴                   ・悋気の独楽  小文枝

* 福郎、松葉師匠は死去。鶴三は現松喬、染二は現染丸、市染は現染語楼
  春之助は現春之輔、小文枝は現文枝師匠である。

 さて、この噺は、古典落語の『あみだ池』をほうふつとさせる噺で、仁智師匠の芸風にも合っており、爆笑噺に仕上がっている。何度聴いても「大蛸(負うた子)に教えられ浅瀬を渡る」や「獰猛」を「ジャイアント馬場(ドウモ)」。「前門の狼、後門の虎」を「前門の狼、肛門のいぼ痔」。などなど、あの仁智流のちょっと恥ずかしそうに言うところは、いつ聴いても面白い。

 さて、今回のトリは、「創作落語」の言葉を作った牽引車、桂三枝師匠。
過去、演じられた創作落語は百三十席以上。当席でも、『涙をこらえてカラオケを』『花嫁御寮』『行員ヤンママの如し』等、名作・爆笑物のオンパレード。今回も記念公演のトリとしての名高座を期待の中、師匠(五代目文枝師匠)の前の出囃子『軒すだれ』で拍手に迎えられ登場。
 まずは、携帯電話の話題からスタート。「最近の女の子の喋り方て、おかしいでんな。なんで、あない言葉伸ばしまんねやろ。・・・それに、着メロ。色々ありまんな。ドラエもんなんてありまっせ。ピィポピィポピィポポ、ピィポピィポピィポポ・・・」ここで、取材の写真が、そこで、三枝師匠が「こんなとこで、撮んなはんな。もっと落語やってる、ええとこ撮ってえなぁ」
 250回記念の取材のため、神戸新聞の写真撮影を見事に笑いにした師匠ならではのひとこまであった。
今日の本題は『め組火消しカンパニー』。なんでも民営化の昨今、ついに消防署も・・・。市場の文房具屋さんの大将、隣同士のてんぷら屋さんの火が怖くてしかたがない。説得に応じたてんぷら屋さんが、数多くの消防会社から『め組火消しカンパニー』なる会社を選ぶ。
 競合した会社は「最大手の『消防西日本』」。化学調味料の会社は「貴方の火の元を守り、火災保険会社から旨味を引き出す『火事の元』」。スナック菓子の会社は「大火にしなくて軽く済ます『軽火(カルヒー)』」。製薬会社は「火を散らして消火に良い『大田火散』」。家電会社は「Wカジ(火事・家事)はお任せ『火絶の消防』」。そして、吉本も『消しまんねん』で参戦。パンフの表紙は間寛平がホースを持って「あちーの」。
試しにと火を着けて、『め組火消しカンパニー』に電話するのだが・・・「あっ」と言うようなサゲで
あった。大入満員の客席からは大満足の拍手が暫く鳴り止まない。
  大いに盛り上がった第250回記念公演であった。